吃音を軽くする方法を知りたいと、この吃音親子サマースクールに参加した高校生が言いました。みんなで話し合ってみると、結論は、しゃべっていくことになりました。自分のどもりを認め、日常生活で逃げないで話していくこと、それしかないと、自分たちで気づいていったようでした。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/7/29
吃音親子サマースクール
どもりを軽くする方法
伊藤: どもりを軽くする方法なんだけど、君らで考えているなんかいい方法ないかな?
平野(高校3): 今僕もしようとしてるんですけども、しゃべるときに声を大きくして話すこと。
和田(中学3): カラオケに行って、自分の歌いたい歌を思いきり歌ったら、自分がしゃべれたというか、スラスラと声が出せたという実感が持てる。
井上(高校2): 僕は読むのが苦手なので、どもるか、どもらないかでなく、読むということに集中したら目線の問題も、何とかなるのでなないかと思う。
脇田(高校3): 私は、しゃべり方がすごく上手な人、たとえば、TVでしゃべり方が上手な人が出てきたら、しゃべり方を研究して、そのようなしゃべり方ができたらいいなと考えている。
金光(大学1): 声を出す場面にどんどんと出る経験が大切だと思う。僕も自分から電話をかけることなど、一回もなかったのですが、電話をしなければいけない状況におかれたため、仕方なしに電話を何回もしていたら、だんだん苦痛じゃなくなってきた。だから、実際にこのような経験をずっとしていたら、結構、なんでもできるものかなと思う。
伊藤: どもりを軽くする、楽にするという意図はなかったけど、結果として、どもりが軽くなったということは、たくさんある。僕自身は、21歳の頃から比べれば、随分しゃべれるようになった。それはなぜだろう。おそらく、どもってもしゃべっていたからではないだろうか。ところが、どもりを卑下して、否定的にとらえ、どもるから嫌だと逃げたり、役割を引き受けざるをえないのに断ったり、電話をかけなければいけないのに、その役割から逃げたりしていると、こうはならなかったろう。話さざるをえない状況に追い込まれてしまうといい。それを積み重ねていったら、結果として、しゃべる訓練をしていることになる。どう生きるかということは、自分自身で考えていかなきゃならないのと同じように、自分のことばも、やっぱり自分で自分の生活の中で作っていく必要があるんだと思う。日常生活が訓練の場なんだ。
僕たちの仲間の中には、どもっていてできるのかなあと思うような仕事についている人がたくさんいる。仕事とどもりの悩みについて聞いていくとおもしろいことが分かる。職業選択のときに、しゃべらなくてもすむように、話すことの少ない仕事についた人ほど、いつまでもどもりの悩みを持っていることが多い。反対に話さなければならないような仕事についた人は、最初の頃は電話かけたらガチャッと切られたり、課長にどなられたり、実際しんどいけれど、しゃべる機会が多いから結果としてはそれがトレーニングになる。 それともう一つ大きなことは、恥をかくチャンスが多い。恥をかくチャンスが多いということは、恥に慣れてくるわけ。だから早くどもりから楽になり、どもりを気にしないで人生を歩むためには、職業を選ぶときに、どもりということを頭にはおかないことが大切だ。自分のやりたい仕事を、そしてまた、自分がこれならできるという得意な仕事を選ぶ。それがたとえ、しゃべることの多い仕事でも。今、みなさんのしゃべり方を聞いていたら、声優とアナウンサーなど特別な例以外なら、ほとんどの仕事につける。
隠さない、逃げない、しゃべることを自分のチャンスだと思って何かの役がきたら、率先して引き受ける、人の世話をする、そういう生活をすることだ。自分が変われば、周りも変わる。こういう循環を作っていけば、しゃべることもずいぶん楽になってくる。どもりを気にして、しゃべるときもうつむいていては、「ああ、こいつはかわいそうやなあ」と、相手だって身構えて緊張する。「僕、どもるんです、ぼ、ぼ、ぼ、く…」と相手を見て明るくどもって言ったら、相手も緊張しない。相手が緊張しなかったら、すごく楽。ということは、「俺、どもりが好きや」というところまでいかなくても、基本的には「これでいい!」というふうに考えたとき、どもりというのは変わってくる。これは僕らが長い年月、どもりを本当に真剣に見つめてきて、その中から得た結論だ。だから先輩として、どうか、どもりと仲良くなってほしい。どっちみち離れてくれないものならば、仲良くなる。そのことで、道は開けてくるし、人生も開けてくる。(つづく)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/7/29