自分を好きになる
  〜パット・パルマーさんのアサーティブ・トレーニング・ワークショップ


 パットパルマーさんのアサーティブ・トレーニング・ワークショップの紹介も、今日で最後になりました。基本的には僕はアドラー心理学が好きなのですが、アドラー心理学では「褒めてはいけない」といいます。子育てでは「褒めないで、勇気づける」といいます。会社などで、褒めることで部下を動かそうとすると、部下は上司の評価を気にし、褒められるために行動するようになるというのです。つまり、上から下へのベクトルが問題だというのです。これは、アドラー心理学が、ビジネス関係の出版社から出されたことで、「自己啓発本」のように取り扱われてしまったことに一因があるように思います。相手を操作するのに使われるのは嫌なので、最近は「褒める」よりは、「リスペクトする(敬意を表す)」を僕はよく使います。この褒める演習は、その後、僕はいろいろなところで取り入れてみますが、ワークショップをした後は、参加者の顔が穏やかで優しくなります。
 普段の生活の中でも、いいなあ、すごいなあと思ったときには、できるだけ本人に伝えるようにしています。すると、人によっては、「いえいえ、そんなこと、ありません。私なんか…」と謙遜する人がいます。そのような反応をする人に出会うと、もったいないなあと思います。謙遜せず、「ありがとう」と言って受け取ればいいのになあと思います。そして、パルマーさんの、「深呼吸して、吸い込むように受け取りましょう」ということばを思い出します。ゴクンと飲み込むように受け取る、僕はそんな表現をしています。

  
アサーティブ・トレーニング
                             報告 伊藤照良

称賛
☆演習
 10人位のグループを作り、一人がサークルの真ん中にすわります。周りの人は順番に、真ん中にいる人を褒めます。褒めるときは一つの言葉で、手短に、自然に出てくるようにして伝えます。真ん中にいる人は、深呼吸してそれぞれの褒め言葉を吸い込むようにして聞きます。

☆演習後の感想
*さっきの批判のことばを聞いているときは、頭に来てしまったが、褒め言葉の方は気持ちよかった。
*私は褒め言葉をうけとる方が難しかった。
*褒め言葉の中に外見だけを見てとか挨拶的な外交辞令のような言葉もあったようで、からだの中に入っていかなかった。

 褒め言葉が体の中に入らなかったという感想がありましたね。入らないようにさせているのは自分が評価している訳で、今のように褒め言葉を裁いて、自分の中に入っていかなかったのです。うわべだけの外交辞令と受け取ることが、裁くということです。そういう風な取り方をすると、その人を自分から遠ざけることになります。自分の人生にその人が入り込むのを止めさせているのです。そのように人を裁いてばかりいる人は孤独になります。孤独になると自分が価値のない人間のように思えてきます。自分のとる行動を理解する必要があります。いかに人を遠ざけているか理解して下さい。

怒りの表出
 怒りというのは、爆発するまで待つ必要はありません。自己管理を充分毎日していれば、怒りを貯めることはありません。自分をイライラさせたり、うっとうしいなあと思っていることを毎日管理していくことが重要なことです。
 例えば部屋の掃除に似ていて、毎日お掃除していれば、月に一回大掃除しなくてもすみます。毎日の自己管理が必要なのです。自己管理するのは自分以外にはありません。怒りに対していつも準備しておくと爆発せずにすみます。
 その一つの方法として、完全なリラックス状態にして、そこで対話を思い浮かべるのです。このリハーサルのポイントは相手の気持ちを傷つけずに怒りを表出することです。筋肉を充分リラックスさせることです。体が硬直して、緊張しているような場合、声も緊張します。緊張した声は相手を緊張させてしまいます。あなたがそういう風にリラックスしていれば、相手も怖いと思わずに注意深く聞いてくれるのです。
 その一つの練習として、「私は…」ということばをつけて話をすることです。そうすると、自分の気持ちや言葉に責任を持つことになります。「あなたは…」と言うと、相手に責任を持たせることになり、けんかになります。相手の人を傷つけずに怒りを表す方法があるのです。

☆演習Α‥椶蠅鯢修好蹇璽襯廛譽
 「誰か、最近とても腹が立ったことがある人、そして、その怒りを解消したいと思っている人は話して見ませんか」
 パルマーさんの問いかけに男性のMさんが、話し、それにパルマーさんがかかわっていきました。以下、MはMさんの発言、Pはパルマーさんの発言を表します。
M 今回、アメリカに来て経験したことです。大きな音で音楽が鳴っていて騒々しいレストランです。私がすごくどもって、サラダを注文しました。ウエイターは、ソースは何がいいかと聞いたのですが、私にはことばが分かりませんでした。彼が大声でどなりました。私はその時びっくりして何が何だか分かりませんでした。ウエイターはよけいに苛立ったようにどなり続けます。私はパニック状態になってしまいました。何を聞かれているのか分からないと言いたかったのですが、何も言えませんでした。
P ウエイターはどんな感じの人でしたか。
M 大きくてがっしりした人でした。
P あなたは彼にどういうことを言いたいですか。
M 分からない、あなたの言っていることは分からない。どうしてあなたは大声で、私を威嚇するように言うのだ。
P 相手がどんな気持で言ったか想像できますか。
M 何をモタモタしてるんだ、俺は忙しいんだ。どっちのソースがいいかというこんな簡単なことがどうして分からないんだ。
P そう言われてあなたはどういう風に感じますか。
M その通りだ。でも私は客なんだし、分かるように優しく聞いて欲しい。
P ここまで言えたら、あなたの気持ちは落ち着きますね。そして、彼もあなたの気持ちが理解できますね。
 もう一つ、その場でできたことがあります。手を挙げて彼を止めることです。あなたをどなりつける権利は彼にはありません。手を挙げてストップと言えばよかったのです。今度はストップを使って下さい。公衆の面前でどなり声をあげる権利は誰にもありません。
 さらにもう一つその場で出来たことは、リラックスすることです。深呼吸をしてあなたの安全で心が穏やかなところをイメージすれば少しは楽になるかもしれません。

終わっての感想
○30年も学校で仕事をして来ました。教師の世界は怒りを出せない場です。抑圧された場なんです。それで知らず知らずのうちに怒りを押さえ込む習慣がついたんだと思います。人を傷つけないで、怒りを表せるようにしていきたい。
○私も教師です。自分がいかに怒りを溜め込んでいるかということを感じた。褒めるとか、褒められるという実習の中で、ある人を見ている観点は皆同じようなものなんだなとびっくりした。
○批判への対処の所で、どもっている子どもが、どもりといじめられていた時に、「うん、どもるよ」「そんな自分が好きなんだ」と言えたら素晴らしいと思った。
○自分のいいと思っているところを話している時、相手がそれを受け入れて誠実に聞いてくれていることが嬉しかった。日常の中で、今度は私が人の話を聞いて、その人に嬉しい感じを与えていければ、周りに広がると思った
○夫婦でも、けなすのがゲームのようになっている。家内から褒めてくれと言われている。何か一つでも日本に帰っていいところを見つけて褒めたい。

 ワークショップが終わってさわやかな気分になれました。パルマーさんに出会えたからでしょう。また、感情を出すことですっきりしたのかもしれません。このアサーション・トレーニングで自分が好きになれたし、人ももっと好きになれそうな感じがしました。パルマーさんに温かなおみやげをもらったように思えました。(了)(報告・伊藤照良)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/7/23