昨日の続きを紹介します。今日は、「吃音に対する態度テスト」という項目です。
 ジョンソンの言語関係図は、画期的な提案で、吃音問題を考えるときの極めて大切な視点です。どもる症状にのみ焦点を当てていたそれまでの臨床に、二つの視点からも考えるという、一石を投じたことの意味は大きいです。X軸(どもる状態)、Y軸(聞き手の反応・環境)、Z軸(本人の反応・吃音の捉え方)、それぞれの軸の減少を言いながら、Y軸(聞き手の反応・環境)へは、「より良い聞き手になりましょう」と、どもる子どもの保護者に提案したものの、Z軸に関してはあまり具体的な方法が提示されませんでした。
 今、僕たちは、3つの軸のうち、Z軸への取り組みこそが吃音の臨床の中心に来るべきだと、論理療法、認知行動療法、ナラティヴ・アプローチを活用しています。

吃音に対する態度テスト(英)attitude test for stuttering

言語関係図〔意義〕ジョンソン(Johnson, W. 1961) は、どもりの問題を考えるにあたって、図に示すような視覚化できる3つの主要構成要素を考えた。その3つとは、⑴吃音者がとる吃行動の特徴(図のX)、(2)その吃音者がとる行動に対するまわりの人の評価や反応(図のY)、(3)自分の吃行動の特徴や、それに対するまわりの人の評価や反応に対する吃音者本人の反応(図のZ)である。この3つの要索の大きさ(重症さないし、強さの程度)をそれぞれの広がりの大きさで表し、3次元の立体を構成するのである。できあがった立体の大きさ・形が、どもりの問題の大きさ、質を表していると説明した。
 次に、ジョンソンは、吃音問題解決をはかるため、それぞれの軸の大きさの減少を以下のようにとらえた。
 X軸に関しては、吃行動そのものを変えることが無理であったとしても比較的楽にどもることができるのではないかと考えた。Y軸に関しては、もし吃音者が自分の吃行動をありのままに受けとれば、まわりの人も徐々に吃音者や吃行動に理解ある反応を示すようになるのではないかと考えた。また、Z軸に関しても、まわりの人の反応や自分のとる行動に対する自分自身の反応を変えることによってどもりの問題の解決の方向も見えてくると考えた。

〔概要〕ジョンソンは、以上の考え方に立って、Iowa式態度尺度を考案した。これは、45項目から成る質問紙で、「どもりの少年は クラスや学校の委員長に立候補すべきではない」とか「女の人が自分のボーイフレンドを友達に紹介するときに、その名前でどもったらみっともないと思うべきである」など、社会生活のさまざまな状況のなかで、吃音者自身、また吃音児を持つ親を初め、それぞれの吃音児・者にとって重要な聞き手が、どもっている状態、どもっている人、あるいは吃音一般に対してどのように感じ、どのような態度をとるかについて、被検者にチェックさせるものである。なお、ジョンソンらによると、治療開始後2〜3週間以上たった吃音者が示す態度は、ほんとうに吃音者自身の態度なのか、あるいは治療者の求める態度の反映なのか、カウンセリング等を通して、十分確かめることが必要であるという。
 一方、内須川洸(1974)は、吃音児・者の主な聞き手である両親、特に母親が子どもの言語に対してどのように考えているか、および実際の場面で子どもに対しどのような態度をとるかをみるために、「HU式I型、親子言語関係診断テスト」を考案した。
 このようなテストから得た資料をもとに、吃音の問題を聞き手とのかかわりから、また話す場面状況のなかに探り、指導の手がかりにすることは大切なことである。
 親子吃音関係、親子言語関係 (伊藤伸二)

〔文献〕ジョンソン,W. 田口恒夫訳 (1969)言語病理学診断法協同医書出版社。 ジョンソン,W. 田口恒夫訳(1974)教室の言語障害児 日本文化科学社。内須川洸(374) 親子・言語関係診断テストの標準化に関する基礎的研究⑹東京学芸大学附属特殊教育施設報告。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/6/14