昨日のつづきです。初めてお会いした重光萬石さんですが、ポイントを押さえ、的確に質問して下さいました。問われると考え、考えて話し、そんな刺激的な60分間でした。
どもり始めの頃のこと、言い換えのこと、自己紹介のことなど、話しています。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/4/19
どもり始めの頃のこと、言い換えのこと、自己紹介のことなど、話しています。
ラジオ天国！ 重光萬石です
重光 伊藤さん、今のお話の中で、ことばが変われば発音しやすいということはあるんですか。
伊藤 そうなんです。
重光 えっ、なんか不思議な感じがするんですけど。
伊藤 不思議でしょう。どもる人に聞くと、母音が言えない、タチツテトが言えない、それぞれに言いにくい音があり、その音になるとだめなんです。
重光 僕が伊藤さんに、「このりんご、好きですか」と聞いたときに、ほんとは好きだから「はい」と言いたいのに、「はい」が言えないと「いいえ」って。
伊藤 どもりたくないと強く思うと、正反対のことを言ってしまう場合があるんです。
重光 隠すためにね。なるほど。すると、それはまた別の不自由さが出てきますよね。
伊藤 出てきますね。自分は本当はこういうことを言いたかったんじゃないのに、どもりたくないためにこんなことを言ってしまって、誤解されてしまったとか。それでもどもることをさらけ出した時の恥ずかしさよりはましだと考えると、言い換えたり逃げたり隠したりすることが頻繁に起こるんです。
重光 ３歳の頃からと、わりと小さい頃に発症することが多いように思うんですが、大人になってからなる人もいるんですか。
伊藤 ええ、僕の仲間での最高発吃年齢は50歳の女の方です。リストラへの不安が強くて、今までスラスラ喋っていたのが急に何か胸がつまったような感じになり、それからどもり始めたんです。僕たちが聞いても本格的などもりです。中学生になってからいじめや何かのストレスがあってどもり始めた例もあります。
重光 でも、そういうことで言うと、学生さんが学校でいじめにあう、あるいは大人になってからリストラの不安とか家庭生活のいろいろ心配ごとで発症する可能性があるといったら誰にとっても、なる可能性っていうのはあるわけですね。どもりは遺伝するんやとか、子どもの時にあんまり厳しくしつけるからやとか聞いた気がするんですが。
伊藤 遺伝も、まだ明確な答えが出てないんです。遺伝はしないと言ってもいいんじゃないかとは言われてますが、遺伝しないとも言い切れない。ちょっとことばがつっかえたことをすごく気に病む性格などは遺伝するかもしれませんね。家族性と言うんですが、確かにどもる人が周りにいると、どもる率は、一般的な発吃の率よりは高いです。僕の祖父がどもりで、僕の父、そして僕がどもりで、３代続きました。残念ながら４代目は続かなかったんですが。
重光 どもる人は電話で苦労すると話がありましたが、それ以外に困ることってどんなことがあるんですか。
伊藤 自分の名前が言えないのは、辛いです。
重光 名前が言えないというのは、どういうことなんですか。
伊藤 自己紹介は、しょっちゅうしなければならないでしょ。僕も小学校２年生の秋頃から悩み始めてからは、新学期が嫌で嫌で、クラスが変わると自己紹介がある、それだけで息苦しくなるんです。
重光 それを通して喋ること自体が嫌になる。
伊藤 嫌になりますし、人間関係を作れなくなりますし、孤独になりますし、みんなからは変な人間だと見られますし、どんどんと閉じこもりましたね。
重光 なるほど。（つづく）
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/4/19
