昨日は、第三回吃音国際大会を終えての文章を紹介しました。僕はあまり後ろを振り返り、懐かしむことはしませんが、国際大会には特別な思いがあります。僕自身が年齢を重ねてきたせいかもしれません。

1986年8月、京都で開催した、第一回吃音問題研究国際大会のことを少し紹介しようと思います。昨日も出てきましたが、まず大会宣言を紹介します。そして、第一回の国際大会の報告書から、僕のあいさつ文を紹介します。
大会運営費捻出のため、500円2万人カンパ運動をしましたが、そのときの3つ折りのパンフレットも出てきました。35年前の国際大会に、おつき合い下さい。
吃音児、吃音者の表現は、今では使いませんが、当時のまま紹介します。
<第一回吃音問題研究国際大会 報告書>
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/1/30


大会運営費捻出のため、500円2万人カンパ運動をしましたが、そのときの3つ折りのパンフレットも出てきました。35年前の国際大会に、おつき合い下さい。
吃音児、吃音者の表現は、今では使いませんが、当時のまま紹介します。
第一回吃音問題研究国際大会 大会宣言
話しことばによるコミュニケーションが欠かせない現代、吃音は人間を深く悩ませる大きな問題のひとつだと言える。また、吃音は人口の1%の発生率があり、これは国や民族の違いを越えてほぼ同率である。この世界の多くの人々が悩む吃音問題を解決しょうと、様々な調査、研究、及び治療プログラムが世界各国で進められ、セルフ・ヘルプ・グループも多く発足した。しかし、長年にわたる調査、研究にもかかわらず、吃音の本態で不明な部分は多く、したがって全ての吃音児・者に100%有効な治療法はまだ確立されていない。吃音児・者は吃音にどう対処すればよいか、また臨床家はどのようにアプローチすればよいか悩んでいるのが現状である。
一方、一般社会には「どもりは簡単に治るものだ」という安易な考えがあり、吃音児・者の真の悩みは知られていない。社会における吃音問題への理解の浅さが、吃音児・者本人にも影響を及ぼし、吃音問題解決に大きな障害となっている。
このような吃音を取りまく厳しい状況の中で、吃音問題の解決を図ろうとするためには研究者、臨床家、吃音者がそれぞれの立場を尊重し、互いに情報交換することが不可欠である。互いの研究、臨床、体験に耳を傾けながらも相互批判を繰り返すという共同の歩みが実現してこそ、真の吃音問題解決に迫るものと思われる。
ここで、研究、臨床上、考慮しなければならないことは、吃音は単に表出することばだけの問題ではなく、その人の人格形成や日常生活にまで大きく影響するということである。だからこそ、吃音問題解決は、吃音児・者の自己実現をめざす取り組みであり、吃音症状の改善、消失もその大きな枠の中に位置づけられるべきである。
1986年8月、京都で行われた第一回吃音問題研究国際大会を機に、我々は世界各国の研究者、臨床家、吃音者に呼びかけ、吃音問題解決のための輪を広げることを宣言する。
1986年8月11日 第一回吃音問題研究国際大会
<第一回吃音問題研究国際大会 報告書>
巻頭のあいさつ
大会会長 伊藤伸二
未経験なものに挑戦するのは楽しい。しかし、それには大きな不安も伴う。多くて20人程の人々が集う例会を全国各地で続けている言友会。全国大会といっても100名程度の参加。それぞれの言友会は月々 300円程度の会費で運営され、その中からの拠出金で賄っている全国言友会連絡協議会の年間予算は、30万円にも満たない。
20年の活動実績があっても、海外との連絡は、西ドイツ、アメリカなどのグループと時折機関紙などの交流がある程度。さらには西ドイツやオーストラリアなどが開きたいという希望を持ちながらも実現してこなかった世界で初めての国際大会。
このような状況の中では、国際大会の開催に、躊躇するのは自然な姿であろう。大会開催を決め、実行委員会のメンバーを募ったとき続いた長い重い沈黙は、如実にそのことを物語っていた。
吃音問題といえば、症状にばかり目を向けてきたこれまでの考え方に『吃音を治す努力の否定』を提起し、『どもりながらも明るくよりよく生きる』ことを目指した、つまり困難な未知の分野に初めて足を踏み入れた私たちならではの決意であった。また、私たちの活動成果が問われることにもなった。私たちの力のない部分を、未熟な分野を、幅広い大勢の人たちが補って下さった。口頭発表やシンポジウムなど、大会の全てのプログラムの中で、話題提供者、司会者として、また、翻訳、通訳、その他様々な仕事を、大勢の人々が積極的に手弁当でお手伝い下さった。第一回吃音問題研究国際大会を成功に導いたのは、これら大勢の方々の善意と熱意であった。
国際大会そのものは、熱気あふれるものとなり、海外からの参加者が、「夢の世界にいるようだ」「これまで国際会議に何度も参加したが、これが最高」と本当に喜んで下さり、それをことばで体で表して下さった。公式プログラムのほとんどは、この報告書に収めたが、「大会宣言」を作成するときの海外代表との話し合い、国際吃音連盟の設立や第二回大会開催についての討議、夜を徹してのフリートーク、ウェルカムパーティ、さよならパーティの盛り上がりなどは紙上では再現できなかった。感動や国際交流がその中にこそあっただけに残念である。しかし、世界各国の吃音事情はよく表現できていると思う。この報告書をきっかけに吃音に関する論議がさらに深まればこれにまさる喜びはない。
直接・間接に協力して下さった大勢の方々に心から感謝したい。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/1/30