残り3時間あまりで、2020年が終わろうとしています。
 コロナに始まり、コロナに終わる1年でした。
 影響は大きく、30回続いた吃音親子サマーキャンプ、臨床家のための吃音講習会、各地のどもる子どものためのキャンプ、講演会や研修会や相談会など、ほぼ全てが中止となり、これまでと全く違う時間を過ごしました。何もしていないのに、時間だけは確実に過ぎていると、何度も思いました。
 こんな時だからこそできることをと思い、これまで書いてきたものを整理し、振り返りました。1965年、東京正生学院で「どもれる体」になってから55年間、吃音一筋に生きてきたなあと思います。21歳の夏まで、吃音に深く悩み、吃音に翻弄された人生を送ってきた僕だから、それ以降は、一貫して「どもっていても、豊かな楽しい人生を送ることができる」と主張し続けてきました。僕自身が実際に、楽しく、充実した吃音人生を送れたことは、たくさんの人とのラッキーな出会いのおかげでした。しかし、そのようなラッキーな出会いが仮になかったとしても、どもる人が吃音をどう学び、どう捉え、どう行動すれば、幸せな自分なりの人生を生きることができるかを、精神医学、臨床心理学、社会学などから役立つことを抽出して提案してきました。
 そして、55年間のセルフヘルプグループ活動、30年間の吃音親子サマーキャンプなどで、多くの人が幸せに生きていく姿をたくさん見てきました。
 55年間、一度もぶれることなく、一貫して主張し続け、吃音を中心に不器用に生きてきましたが、それは、結果としてとても幅広い視野に立った生き方ができたと自負し、このことを僕は誇りに思っています。

 2020年は、大阪にいるときは必ず参加していた大阪吃音教室も、会場の都合などで開催できない期間がありました。セルフヘルプグループが大切にしてきた「直(じか)」に出会い続けるミーティングが、どんなに貴重なものであったかと、思い知りました。全く会えない時間が続いたとき、仲間の力を借りて、Zoomを使ってみました。一週間に一度は会っていた人たちと会えなくなって久しく、画面に映し出された顔を見てうれしく思いましたが、やはり画面は画面です。隔たれた壁は、見えないけれど、厚いものでした。
 振り返れば、僕の人生は、多くの人と「直(じか)」に出会い、学び、語り、笑い、考え、歩いてきたものだと思います。直接の対話を通して、生きてきたのです。

 毎月発行しているニュースレター「スタタリング・ナウ」は、12月号で、NO.316号になりました。日本吃音臨床研究会のホームページ、ブログ、Twitter、Facebookなどでの発信も続けました。ときどき、「ブログ、読んでいますよ」という声を聞くと、励まされました。これまでも、ブログを続けようと決心するのですが、なかなか実行できずにいました。仲間が、ホームページのトップにFacebookを埋め込んでくれたこともあり、5月初めから、ほぼ毎日、「ほぼ日刊 吃音伊藤伸二新聞」として、続けることができたこと、我ながら、よくやったと思います。

 発信ばかりでなく、吃音哲学については、考え続けています。レジリエンス、ナラティヴ・アプローチ、当事者研究、オープンダイアローグ、そして健康生成論と、これまで考えてきたことが大きな流れとなって、ひとつに結びついている感じがします。それが、「吃音哲学」として、「吃音の対話的アプローチ」として、整理されつつあります。

 2021年はどんな年になるのでしょうか。まだまだ収束の兆しもなく、このような生活が続くのでしょう。そのような状況の中で、僕にできることは何か、僕がしたいことは何なのか、追求していきたいと思います。

 一年間、読んでいただいた皆さん、誠にありがとうございました。頑固で、不器用な生き方をしてきた僕におつき合いいただいたことに感謝します。これからも、同じように歩みを続けます。来年も、どうぞよろしくお願いします。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/12/31