どもり内観をテーマにした大阪吃音教室の講座の2つを紹介してきました。最後にもうひとつ、2009年3月27日の大阪吃音教室での報告です。これまで紹介したどもり内観で出てきた内容とダブルことも少なくないのですが、新鮮なものもあります。同じ講座内容でも、実際に参加してみると、その場の雰囲気、参加者の違いなどで、新鮮な時間になります。ずっと続けて参加する人がよく言うことに、「同じ講座に参加しても、いつも新鮮で飽きない。毎回、違う気持ちで参加している」があります。
 第1回吃音問題研究国際大会の翌年、1987年から新しい装いでスタートした大阪吃音教室ですが、長年参加し続けている人が多いです。参加し続けることができるのは、同じテーマで話しても、新しい人との出会いで、そこに新しい気づきがあるからでしょう。世話人になっていく人も多いです。セルフヘルプグループが存続していく、確かな理由のひとつといえるでしょう。
 2009年3月27日の講座の報告として機関紙「新生」に掲載されたものから、出てきた発言と感想を紹介します。「して返したこと」「迷惑をかけたこと」に比べて、圧倒的に「どもりにしていただいたこと」が多く、すらすらと口をついて出てくるようです。吃音と上手につきあうことを実践している大阪吃音教室ならではのことでしょう。
 
◇どもりにしていただいたこと
・今まで吃音について、あまり家族で話し合うことがなかったが、吃音に悩んでいると話したことで、家族の中で、話し合いを持つきっかけになった
・今後の生活に役立つ、論理療法に出会えた
・いろいろなことを人と一緒に体験しようと思うことで、経験が広がった
・どもりのお陰で、生涯をかけてする仕事が見つかった
・どもりのお陰で、恋人ができた
・「普通に話せて当たり前のことができること」が、実は当たり前ではないんだと気づくことができた
・親として、どもりながらがんばる姿を子どもに見せることができた
・どもる人と知り合えていろんな勉強することができた
・大事な決断する時にどもりを基準にして決めることができた
・吃音で恥ずかしい思いをたくさんしてきたので、恥ずかしいことがなくなった
・思い上がることをしなくなり、謙虚になれたような気がする
・自分が言えない時に相手に言って貰った(親切にして貰うきっかけになった)
・どもりが仕事の選択肢を制限されたために、進路を決めやすくなった
・どもりとのつきあいを通して、失敗を恐れなくなった
・相手の話を聴くことの大切さに気づけた
・人に自分の思いを伝えることの大切さに気づけた
・普通でなくても良いと思えた

◇どもりにして返したこと
・周りの多くの人に、どもることを公表してあげた
・楽しそうにどもってあげた
・大阪吃音教室に来てあげた
・ある時まで否定していたけれど、否定することをやめて認めてあげた
・周りが否定しても、自分くらいはちゃんと付き合ってあげようと思った
・どもりの思うままに振り回されてあげた。つまり悩んであげた。
・どもると分かっていながら、続けて話してあげた
・きちんとゆっくり、どもりのことを良く知ろうとしてあげた
・「ことば文学賞」に取り上げて文章として書いてあげた
・ホームページでどもりのことを広く伝えてあげた

◇どもりに迷惑をかけたこと
・仕事でうまく行かないことをどもりのせいにした
・どもることをごまかそう、隠そうとした
・治してしまおうとした
・いろいろなことをどもりのせいにした(責任転嫁した)
・隠して、悪者にしていた
・本当はどもりのお陰だったかも知れないのに、それに気づかないでいた

【参加者の感想から】
・最初の5分間、静かにゆっくり考えたのが良かった。日頃考えないようなことが、あの時間で一気にたくさん出て来た。
・どもりには迷惑ばかりを掛けられて来たと思っていた。自分がどもりに迷惑をかけていたというのは意外だった。これだけして頂いたと分かって、肯定的に捉える気になった。
・最初は自分がして差し上げたことを何も思いつかなかった。でもみんなの話を聞いて、自分もして差し上げたことがあると気づいた。
・最初の5分でほとんど思いつかなかった。人の話を聞いて、そういう考え方もあると思った。自分がどもりにして来た迷惑について考えることが、すごく新鮮だった。
・内観をするまでは、どもりが自分のマイナス面、寄生虫のようなものと思っていた。今日は、客観的に、自分の外にあるもののように思えた。人格を持ったものとして、つき合いたいと思った。
・「迷惑をかけたこと」はなかなか出て来なかった。他の人の発言を聞いて、自分もどもりを「いい子いい子」してあげようと思った。今はまだ出来そうにないけれど。
・初参加だが、今日は来て良かった。ここの考え方に、まったく抵抗を感じなかった。「どもり」に対して自分が迷惑をかけたことなど、考えるのは初めてだったのに、みんなの意見を聞いて勉強になったし、明日からがんばろうという気になった。
(了) 2009年3月27日


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/12/1