吃音親子サマーキャンプの特集をしたニュースレターの巻頭言を紹介し、サマーキャンプ30年の歩みを振り返ってきました。
 区切りとしての最後に、「吃音親子サマーキャンプという場の意味」と題したトークセッションを紹介します。これは、2019年、サマーキャンプ3日目の最終日の午後、第30回を記念して設けられた特別プログラムの再現です。
 自己紹介から始まり、長く参加しているスタッフが、自分にとってサマーキャンプとはどういう場だったのか、思い思いに語っています。自己紹介と長く参加している訳を語るところからスタートしました。

   
はじめに
             
 2019年8月25日、劇の上演、卒業式を終えた昼食後、吃音親子サマーキャンプ第30回記念の特別セッションを設けました。全国各地から集まり、共に過ごす濃密な時間の持つ意味を参加者全員で再確認する場です。東京学芸大学大学院准教授の渡辺貴裕さんの司会で、長く参加している4人が自分にとってのサマーキャンプについて話しました。参加者からの事前の質問をもとにした5人の語りを紹介します。

伊藤伸二 : 渡辺貴裕さんは、吃音親子サマーキャンプに20回参加し、教育学の研究者として、書籍や論文でキャンプに関する文章を書いて下さっています。第三者とは言えないかもしれないけれど、僕たちとは違う立場で、30回の記念のセッションでキャンプについて話して欲しいとお願いしました。すると、一人で話すより、このメンバーで話そうと再提案されて、この場が設けられました。
渡辺貴裕 : 伊藤さんはよくこの荒神山での吃音親子サマーキャンプは特別だと言う。皆さん、特別と言われたらどんな気がしますか?
参加者 : うれしい。
渡辺 : そう、「特別なんだ」と、なんかうれしい気がしますね。一方で、特別のままだと、まずいんじゃないか、もっと広まって、他でも同じようなキャンプが開かれることも必要だという気もしています。でも、どうしたらいいのだろう。特別は特別で大事にしながら、このキャンプで起こっていること、キャンプの意義を、それぞれの立場で関係してきた者が話し合うことで浮かび上がらせたらなあという思いで、この場を設けました。皆さんから質問も募り、その質問を取り上げて、一問一答ではなく、これを切り口に、キャンプの特徴を浮かび上がらせていけたらなあと思っています。では、まず何者かということを一言ずつ。
渡邉美穂 : ことばの教室の担当者です。キャンプには、30回のうち半分は来ていると思います。
東野晃之 : 僕は、どもる当事者で、大阪スタタリングプロジェクトの会長をしています。サマーキャンプへの参加は30回です。
浜津光介 : 私も当事者で、キャンプの卒業生です。
渡辺 : 司会、進行を務める私は20回来ています。申し込み用紙に、当事者、卒業生、ことばの教室担当者、言語聴覚士など立場を表す項目がありましたが、どれにも私は当てはまらない。要件を満たしていないにもかかわらず、20回来続けて、今回はこの場の進行までしてくれと無茶ぶりまでされるという、恐ろしい団体です。

   長く参加し続ける訳

渡辺 : メンバーの共通点として、長く参加しているスタッフなので、「なぜ、ずっと参加しているのですか」さらに、「続けて参加する中で、関わり方に変化はありますか」あたりからいきましょうか。
渡邉 : 私は、ことばの教室の担当になって、どもる子どもとどんな勉強をしたらいいか分からなくて、このキャンプに参加しました。自分が担当している子どもたちのために、何か指導のヒントがあったらいいなと思ったんです。でも、勉強してメモするキャンプじゃなかった。夢中で3日間を過ごしてとても楽しかった。1回目は、子どものため、勉強のためと思って参加したけれど、2回目からは、私自身が楽しいからに変わりました。それからは、子どもたちのためには片隅にあるけれど、それより、ここで出会う人たちのエピソードや体験を聞き、私はどうなのか、どもらない私はどんなふうに生きているのか、生きたいのかと考える1年に1回の時間になっています。
東野 : 僕が30回続けているのは、キャンプの場がとても居心地がいいからです。普段の生活では、どもらない人が多いから、どもる人やどもる子どもは少数派ですが、ここはそれが反対で、とても居心地がいい。僕自身は、今はほとんど悩んでいないので、吃音のことを考えることはあまりない。でも、参加すると、人と関わるのが苦手だったり、人と話すときに気後れする自分を再確認します。
 毎週、大阪吃音教室の場で、どもる人が集まって話し合っていますが、キャンプには、子ども、保護者、当事者、どもる子どもを支援する教員や言語聴覚士など、立場の違う人がいるので、いろんな刺激がある。居心地がいいだけでなくて、癒やされたり、学べたり、元気をもらう場です。それで、参加し続けています。
渡辺 : 東野さんの場合、大阪吃音教室で、どもる人たちとしゃべる場はあるわけですが、そことこのキャンプと、居心地の良さは違うのでしょうか。
東野 : 違いますね。僕は、話し合いでは、親グループに参加することが多いんだけど、親がどんなことを心配しているか、どもる子どもについてどう思っているかなど話を聞き、自分の経験と照らして理解できる。僕は成人になるまで、親に、自分の吃音のことを話したことがなかった。だから、親が僕の吃音をどう考えているのか知らなかった。でも、キャンプで親の気持ちを理解することができた。また、言語聴覚士やことばの教室の教員の方が、子どもとどう関わりを持ちたいと思っているのか、どんな課題があるのかの話を聞くと、もう一度、吃音について、第三者の視点で考えることができることも刺激的です。
渡辺 : 私も、なぜ参加をするのかということを考えることはもはやなくて、年中行事になっている。ここに来ると、いきいきするんです。子どもの話を聞いたり、劇をつくったり、親の話を聞いたり、すべてひっくるめて、自分にとって、血湧き肉躍る感覚があって、毎年、来続けている。ただ、参加する中で関わり方に変化はある。最初は、私も若くて大学生で、暇さえあれば、子どもの所に行って一緒に遊んでいた。からだを使って、持ち上げたり、振り回したりしていた。それは、若かったということと、何らかの形で役に立とうとしていたのかなあと思う。当事者でも専門家でもない、じゃ、子どもと遊ぼうと。でも、だんだんその気負いみたいなのがなくなっていって、今は、寸暇を惜しんで休んでますね。それにはモデルがあって、最初来たときに、このキャンプ、どもるスタッフはおっちゃんばっかりやと思って、20年経っていますが、当時のおっちゃんは、空き時間は、どこかその辺で寝てたんです。これでいいんかと思った。何かのためにでもなく、自分が何かを得るぞ!みたいな気負いもなく、すごく自然体。それでいて、刺激を受けて、あるいは考えさせられる、そんな場かなという気がしています。
 浜津君は、長く参加しているだけでなく、卒業生なので、子どもとして参加していたときと、スタッフとして参加しているときとの違いがあれば。
浜津 : 長く参加している理由は、恩返しが一番だと思います。自分はキャンプで救われました。僕は今、32歳です。渡辺さんが大学生で、子どもと遊んでいたと言っていた頃の子どもです。僕、渡辺さんのことが大好きでした。子どものころは、誰が言語の専門家なのか、誰が当事者か分からないけれど、そうやって、関わってもらった先輩やスタッフの見本がいっぱいいたので、スタッフとして参加してからは、恩返しができたらなと思っています。それと、結局、私もここが居心地がいいんです。なぜか眠くなるんです。多分、職場では緊張もし、気を張っているけど、ここに来ると、力が抜けるんだと思う。ここは、ホームという位置づけもあって、1年に1度、ここに帰ってくるのは、自分の1年間のスケジュールに入っている。子どもとして参加と、スタッフとして参加の違いですが、子どもの頃は、面倒をみてもらっていたのが、スタッフになった瞬間、面倒をみる方に変わった。そのときに、こんなにも大変なことをスタッフの皆さんがしていたんだなと分かった。どもる当事者だけとは言っていられない。参加している子どもたちをいかに元気づけ、笑顔にするかを大事にするようになったと思います。
渡辺 : このキャンプは、スタッフでも寝ていられるし、対等性と伊藤さんがおっしゃるように、スタッフだから何かしてあげるとか世話するとかの意識がそんなに強くないキャンプだと思うけれど、それでも、参加者とスタッフでは何か違いがあるとしたら、それはどんなことなんだろう。
浜津 : キャンプで卒業式を迎えたということは、君は一人でもやっていけるよと言われているようで、卒業式を迎えた生徒は、気軽に参加してもいいと思うんですが、僕は、キャンプに来て何を得て帰ってもらうかということを大事にしています。
渡邉 : 私はことばの教室の教員なのに気楽に参加してました。学校の宿泊学習では、「時間を守りなさい」、「集合しなさい、遅いよ」と、先生が子どもたちを怒っているのをずっと見続けてきた。でも、このキャンプでは、誰も怒らないし、誰も「こうしなさい、ああしなさい」と指示しない、それなのに、プログラムが時間どおりすすんでいく。誰も何も言われてないのに、自然に形を作っていくこのキャンプって、ほんとに何なんだろうと思った。みんなが、これをしておこうかな、これをしておいたらいいよねと、自分から気づいて動いている。子どもたちは話し合いの時間になるとさっと移動するし、不思議な空間だと思った。そのことがきっかけで、自分自身の家族のあり方を考えるようになりました。子どもに、「こうしなさい、ああしなさい」と指示したり、ガミガミ言わないようにしたら、子どもが自分で考えて行動できるようになるだろうと信じることができる母親になれたと思います。(2020.1.20) (つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/20