1990年から始まった吃音親子サマーキャンプは、その後、島根、岡山、静岡、群馬、沖縄、千葉と広がりました。それぞれに特徴がありますが、「吃音とともに豊かに生きる」をベースにしていることは共通しています。
2020年はそのどれもが中止になる中、群馬だけが、日帰りでも集まろうと計画されています。出会うこと、話し合うことを大切にした場で、子どもたちの変化に立ち会えることは、大きな喜びです。
第29回吃音親子サマーキャンプ 2018年
会場 滋賀県彦根市荒神山自然の家
参加者数 98名
芝居 カラスのくれたきき耳ずきん
第29回吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの巻頭言
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/17
2020年はそのどれもが中止になる中、群馬だけが、日帰りでも集まろうと計画されています。出会うこと、話し合うことを大切にした場で、子どもたちの変化に立ち会えることは、大きな喜びです。
第29回吃音親子サマーキャンプ 2018年
会場 滋賀県彦根市荒神山自然の家
参加者数 98名
芝居 カラスのくれたきき耳ずきん
第29回吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの巻頭言
大きな声で、はっきりと
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
1990年から始まった吃音親子サマーキャンプが島根に広がり、今年20年目を迎えた。その後の、岡山、静岡、群馬、沖縄、千葉のキャンプでは、実行委員会が考えるプログラムに沿って、私は保護者やスタッフ、一般参加者に向けての講演会や、子どもや親との話し合いなどを担当してきた。
今年3回目になる沖縄のキャンプは、言語聴覚士やことばの教室の教師、保護者らが数人、吃音親子サマーキャンプに参加した上で、吃音の哲学やキャンプの伝統を沖縄の地に根づかせたいとの強い熱意で始まった。そのためか、私たちのキャンプで最も大切にしている、子どもたちが吃音に向き合うことを重視している。初日に話し合い、翌日に吃音についての作文教室を入れ、2回目の話し合いが行われる。私たちには長い伝統があり、語り合う文化が定着しているが、全ての参加者が初参加の沖縄の地で、子どもたちの話し合いが成立するのか、多少の不安があった。1回目から3回目の今回まで、私たちの仲間が大勢応援に駆けつけて、話し合いに加わった効果があったのかもしれないが、不安は危惧に終わった。
私は今回、3・4年生のグループの話し合いに入ったが、その前に私は4年生の女子の父親から相談を受けていた。どもることを「どうしてそんな話し方になるのか」と何度も指摘され、からかわれ、繰り返し説明することに嫌気がさし、これからずっと吃音の説明をし続けなければならないのなら、「死んでしまいたい」と言うらしい。このことばが本意ではないと思いつつも、父親は不安をもっていた。そのことを話題にすることの了解を父親から得ていた私は、これをテーマに話し合いたいと考えていた。話し合いが始まってしばらくして、「○○さん、お父さんから聞いたけど、最近、死にたいと言うんだって?」と問いかけた。そうだと答えて詳しく話してくれたので、何度もしつこく聞いてくる子どもへの対処をみんなで考えた。
子どもの意見で一番多かったのは、無視することだったが、彼女は意を決したように、「自分が同じように言われたらどう思うか、考えてみろ!」と強く言うのはどうかと発言した。実際にはそう言えずに、怒りが溜まり、攻撃的に言うか、黙るかの二者択一しか考えられなかったようだ。そこで、そう言われた相手はどんな気持ちになり、どんな反応が予想されるかと話をすすめながら、アサーティヴな表現の仕方があることを例を出して伝えた。時間がなくて、実習はできなかったが、子どもたちは理解してくれたようだ。
その話し合いに、同年の女子がいた。1回目の話し合いの時、声は小さく聞き取りにくく、内容も明確ではなかった。それが、2日目の朝、作文を書いた後の話し合いでは、背筋を伸ばし、顔をまっすぐに上げ、声も大きくなって、はっきりした口調で、このキャンプで学んだことを語った。この大きな変化に私は驚き、彼女の何が変わったかをスタッフに尋ねたが、話す内容の変化には気づいたものの、彼女の話す姿勢、声の大きさに触れる人はいなかった。私は、彼女の話す内容は当然のことながら、大きないい声や姿勢の変化に注目してほしかった。子どものちょっとした変化を見逃さず、そのことを言語化して相手に伝える。そのことが子どもにとって大きな自信になっていく。
私は、「○○さん、話したり聞いたりする姿勢がずいぶん変わったね。声も大きく、よく通る声になり、内容も自分のことをしっかり言っていて、1日でこんなに変わるとはびっくりしたよ」と伝えた。また、死にたいと言っていた女の子は、最後に、もう決して「死にたい」ということばを使わないと、みんなの前で約束して、3・4年の話し合いは終わった。1泊2日のキャンプであっても、2回の話し合いと、その間に、吃音と向き合う作文の時間を入れる構成の効果を私は思った。
大きく変わった子は、作文にこう書いていた。
「私はキャンプで、もう一人じゃないんだという勇気をもらいました。悩むことはみんな同じなんだなと感じました。話し方をからかわれたときは、攻撃的な言い方をしない方がいい、ということを教えてもらい、そうやって乗り越えていったんだと学びました。参考にしてみたいと思います」(2018.12.20)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/17