鹿児島のことばの教室担当者である溝上茂樹さんによる、第28回吃音親子サマーキャンプの報告のつづきです。
話し合い、劇、そして卒業室の様子を報告した後、溝上さん自身のことばの教室での実践を報告してくれています。ホワイトボードを使った、間接的なグループ活動です。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/15
話し合い、劇、そして卒業室の様子を報告した後、溝上さん自身のことばの教室での実践を報告してくれています。ホワイトボードを使った、間接的なグループ活動です。
吃音親子サマーキャンプに導かれて(5)
鹿児島市立名山小学校 ことばの教室 溝上茂樹
ことばの教室での取り組み〜オープンダイアローグ的試み 間接的なグループ活動〜
子どもたちが吃音親子サマーキャンプへの参加を繰り返す中で成長していくように、どもる子どもと何ができるか悩んでいた私も、吃音親子サマーキャンプへの参加を繰り返し、キャンプで知り合ったことばの教室の教員仲間と「吃音講習会」の開催や「吃音ワークブック」の制作に関わる中で、ずいぶんと変わりました。今では自信をもって子どもと話し合い、その実践を全国難聴・言語障害教育研究協議会の全国大会で発表することもできるようになりました。吃音親子サマーキャンプは、どもる子どもだけでなく、ことばの教室の教員や言語聴覚士をも成長させる大きな力をもっていると思います。最後に、吃音親子サマーキャンプが大切にしていることに通じるものを、私のことばの教室に通ってくる子どもたちに伝えたくて、取り組んでいる実践を紹介します。
ホワイトボードに質問や意見を書いて、話し合いをする間接的なグループ活動です。そこに参加しているのは、5年生1人、4年生1人、3年生3人、2年生2人、1年生1人の計8人です。1学期に実施した話し合いの一部を紹介します。
○英人さん(4年)からみんなへ
・新しいクラスになって吃音でからかわれることが心配です。みんなはどうですか。
○みんなから英人さんへ
・100のうち15くらいはどもることが心配でしたが、今はそれほど気にならないです。
・まったくどもっていないので、みんなが知らないから私は大丈夫です。
・心配な気持ちはレベル10の1くらいです。発表したいという気持ちがレベル1にしています。人の前で話すことに慣れたいです。
・先生がぼくのどもりのことをみんなに話してくれたので、心配はぜんぜんありません。
・みんながどもりのことを知っているから、全然気にしません。
・ぼくは新しいクラスでいっぱい発表しています。1回発表したらだんだん楽しくなったからです。
みんなが知っているから大丈夫という意見が多い中で、「みんなが知らないから大丈夫」と書いた誠也さん(3年)に聞いてみると、「みんなが知っていると楽だというのは分かるんだけど、前にまねされたり、笑われたことが忘れられない。だから今はみんなが知らない方がいい」と話してくれました。
また「人の前で話すことに慣れたい」と書いた航太さん(1年)に理由を聞くと「僕は新幹線の運転手になりたい。新幹線の運転手は駅の中で放送をしないといけないから、話すことに今から慣れておきたいんだ」と話してくれました。
2人が話したこともみんなに紹介していきながら、書き込みが展開していきました。
○留奈さん(3年)からみんなへ
・わたしは仲がいい友だち1人にどもることを話しました。その友だちとは安心して話すことができます。
○みんなから留奈さんへ
・どもることを話すのはとてもいいことだと思います。
・1人でも話せて、えらいと思います。
・ぼくもそう思います。先生に言ってもらったり、自分で言ったり、いろいろな方法があると思うけど、やっぱり自分が話すのが大事だと思います。
・仲がいい友だちに話すのはとてもいいことだと思います。親友じゃなくても信用できる人だったらいいと思います。留奈さんが話したことを知って、僕も話してみようかと少し思い始めました。
それまで、「知られたくないからどもりのことは人に話せない」と言っていた留奈さんの、どもることを友だちに話した行動に大変驚きました。その行動に触発されて、「みんなが知っていると楽だというのは分かるんだけど、前にまねされたり、笑われたことが忘れられない。だから今はみんなが知らない方がいい」と話していた誠也さんも行動を起こしました。
○誠也さんからみんなへ
・ぼくは3人の友だちに、自分のどもりのことを話しました。
誠也さんに、自分のどもりのことを話したときの友だちの反応を聞いてみると、「いきなり話したから、びっくりした顔で何も言わなかった」「話す前と話した後で友だちの態度は何も変わらなかったから話して良かった」と壁を乗り越えたというような満足そうな笑顔で教えてくれました。
このホワイトボードを利用してのやり取りは、子どもたちが直接会って話し合っているわけではありませんが、そこには確かに他者が存在しています。それはすごく大きな事だと思います。子どもたちは、自分の思いが分かち合える場で、友だちの様々な考え方や生き方に触れ、自分がどう生きるかを見直すことができます。
おわりに
2008年、参加した吃音親子サマーキャンプは、私にとって大きな転機になりました。自分のことを再度見直す契機となった経験は、私に本当にどもって生きる覚悟を決めさせてくれたように思います。その後、私は、何回も吃音親子サマーキャンプに参加し、日本吃音臨床研究会の様々な活動に参加するようになり、「吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会」の一人として積極的に活動するようになりました。
今は、どもる子どもと過ごす時間が楽しくてたまらなくなっています。新しい刺激を受け、子どもとの対話の中で、新しい気づきや子どものもつ力に驚かせられながら、自分と重ね合わせて過ごしています。どもる私が、どもる子どもたちと共に生きているという実感を日々感じています。
ホワイトボードによる間接的なグループ活動の中で、どもる自分はひとりではない、同じようにどもる子が確かにいる、その存在を感じながら、自分の生き方をみつめてほしいと願っています。
今年ももうすぐサマーキャンプがあります。今年は、初めて鹿児島からスタッフとして1人のことばの教室の担当者が参加してくれることになっています。一緒にサマーキャンプのすばらしい場を共有できるのが楽しみです。 (了) (2018.7.21)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/15