第21回の吃音親子サマーキャンプは、2回にわたってニュースレターで特集しています。変わらないプログラムですが、毎回違うドラマが繰り広げられます。ドラマの主人公は、どもる子どもであり、親であり、どもる大人やことばの教室の担当者、言語聴覚士などのスタッフです。三者が対等に主人公になったドラマは、笑いあり涙ありの、年に一度のスペシャル版です。
静岡のキャンプで知り合い、僕たちの滋賀県でのサマーキャンプに参加するようになった子がいます。年に一度会うたびに大きな変化が見られました。小学生の時はマイペースだったのが、中学生、高校生になり、年下の子の面倒をみるようになりました。からだを動かすのが苦手で、山登りなどからは逃げていたのに、荒神山へのウォークラリーを率先してリードするようになり、たくましくなりました。そんな彼も、この年、卒業式を迎えました。
「大学ではラグビー部に入るので、サマーキャンプにスタッフとして参加できないです。僕は、今度、どもる子どもの保護者としてサマーキャンプに参加します」
こんな名言を残して、彼は卒業していきました。そして、大学はラグビーの名門大学に入り、ラグビー部で4年間活躍しました。大学を卒業後は、主要なスタッフとして参加し続けています。人は変わる−そう僕が確信を持ったひとりの青年です。
第21回吃音親子サマーキャンプ 2010年
会場 滋賀県荒神山自然の家
参加者数 125名
芝居 モモと灰色の男たち
第21回吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの一面記事を紹介します。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/9/29
静岡のキャンプで知り合い、僕たちの滋賀県でのサマーキャンプに参加するようになった子がいます。年に一度会うたびに大きな変化が見られました。小学生の時はマイペースだったのが、中学生、高校生になり、年下の子の面倒をみるようになりました。からだを動かすのが苦手で、山登りなどからは逃げていたのに、荒神山へのウォークラリーを率先してリードするようになり、たくましくなりました。そんな彼も、この年、卒業式を迎えました。
「大学ではラグビー部に入るので、サマーキャンプにスタッフとして参加できないです。僕は、今度、どもる子どもの保護者としてサマーキャンプに参加します」
こんな名言を残して、彼は卒業していきました。そして、大学はラグビーの名門大学に入り、ラグビー部で4年間活躍しました。大学を卒業後は、主要なスタッフとして参加し続けています。人は変わる−そう僕が確信を持ったひとりの青年です。
第21回吃音親子サマーキャンプ 2010年
会場 滋賀県荒神山自然の家
参加者数 125名
芝居 モモと灰色の男たち
第21回吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの一面記事を紹介します。
卒業生への応援歌
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
吃音親子サマーキャンプが終わり、送迎バスを見送ったとき、今年も、ケガも事故もなく無事に、みんなの力でいいキャンプができたとほっとする。私にとって、満足感に包まれる好きな時間だ。
私が信頼するスタッフのいい仲間と、参加者ひとりひとりの吃音への思いと力が集まると、こんな素晴らしいキャンプができるのだと、毎年、人の力の結集のすごさを思う。そして、非日常の3日間の生活を終え、ある意味厳しい日常生活に出て行く子ども達に、ここで得た、「吃音を生きぬく力」をさらに育てていってほしいと心から願う。
今年で21回目のキャンプだが、サマキャン卒業式は、今年で8回目。途切れずに卒業生がいるのはすごいことだ。卒業式を迎えるには厳しい条件がある。3回以上参加していることが絶対条件である。話し合い、劇に取り組む3日間を3回は経験しないと、キャンプが大切にしていることが、からだに、心に浸みていかないからだ。高校2年生の時キャンプを知って参加し、高校3年生になった次の年、卒業式がなくとても悔しがっていた子が今スタッフとして卒業式に立ち会っている。どもる子ども、親にとって、キャンプの卒業式には、他の卒業式にはない特別のものがあるのだということを、今年の卒業式でも再認識した。
岩手県から父と子で参加した高校3年生は、新学期が始まっており、全校生徒が参加しなければならない大切な行事と重なった。学校側と交渉しその行事を欠席して、卒業式のある最後の吃音親子サマーキャンプに参加した。そして彼は、高校生の話し合いの中で、これまで「いじめ」に近い吃音にまつわる体験を話し、涙とともに、過去の苦しみを整理した。仲間の中で、不安をもちつつも将来への思いを語っていた。劇の取り組みでも小さな子ども達を支えながら、劇作りの中心にいた。
卒業証書を受け取って、今後はできたらスタッフとして参加したいと言った後、3年間、遠く岩手県から一緒に参加してくれた父親に感謝のことばを述べた。卒業への思いが伝わってきた。
キャンプのプログラムの中で、卒業式は、私にとっても格別の思いがある。小学生低学年から参加している子どもとは長いつきあいになり、一年一年の成長をキャンプの中で見てきた。なかなか話し合いに加われなかった子が、話し合いをリードしている。劇をとても嫌がっていた子が、楽しそうにセリフの多い役、難しい役に挑戦している。子どもの成長が、我が子のようにうれしい。
静岡のキャンプで小学4年生の頃に出会った男の子が、参加するようになって、今年卒業式を迎えた。知り合った頃から、どこにいてもすぐ私を見つけて、気がつくといつも私の傍にいる子だった。からだを動かすことが嫌いで、からだを使うプログラムはいつも一人、パスをしていた。マイペースで、他の人と何かに取り組むことが苦手なように私には見えた。かなりどもることを承知で、劇ではナレーターを申し出て苦労し、泣き出したこともあった。その子が、高校ではラクビー部に入り、みるみるうちにたくましくなった。劇の稽古や他のプログラムでも、小さな子ども達の世話をし、率先して取り組んでいた。初めて出会った頃とはまるで違う青年に成長している。子どもの変わる力にうれしくなる。その子は卒業式で、母親、姉の前でこう挨拶した。
「大学でもラクビー部に入るので、スタッフとしてキャンプには参加できないだろう。でも、一緒に参加していた姉がこのキャンプが大好きで、福祉関係の勉強をしているので、姉にスタッフとして参加してもらいます。僕は、今度、どもる子どもの親としてキャンプに参加したいです」
辛いこと、悩んだことも多々ある中で子ども達は、吃音について話し合い、考え、ことばを育てて、キャンプから卒業していく。将来、吃音に悩むことが起こったり、今よりもどもるようになることもあるだろう。しかし、今後、どのようなことが起ころうとも、キャンプで掴んだ生きる力は、免疫力となって、生き抜いてくれると信じている。
子どもの力を信頼してキャンプは続いていく。(了) (2010.10.25)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/9/29