ことばの教室の教師が参加する意味

 吃音親子サマーキャンプの特集をしている途中でしたが、今年の幻の第31回吃音親子サマーキャンプへの思いを綴った番外編を挟みました。吃音親子サマーキャンプを大切に想って下さっている多くの方の気持ちに触れ、続けてきてよかったなあと思いました。
 今日からまた、これまでの吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの一面記事に戻ります。今日は、第5回です。
 このとき、どもる子どもをどう指導していいか分からないということばの教室担当者が四国から参加しました。「吃音を気にしないでたくましく生活できるようにする」ことが大事と聞いたが、具体的に1時間の指導時間に何をしたらいいのかと困っておられたようです。劇の練習を共に体験しながら、子どもたちを、しなければならない状況に追い込む。その結果、子どもたちはがんばり、力がつくのかと、企画に感激したと感想を下さっています。どもる大人のために大阪吃音教室があり、そこでの学びを子どもたちに生かしたプログラムが組まれている吃音親子サマーキャンプです。《何もできない、何をしたらいいか分からない》から、《しなければならないことはたくさんある》を実感してもらえたようでした。


第5回吃音親子サマーキャンプ(1994年)
     会場  京都府綾部市 聴覚・言語障害者総合福祉センター「いこいの村」
     参加者 37人

  
吃音親子サマーキャンプ
     日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 「吃音は治らない。したがって、臨床家としては、何もすることはない」
「吃音児に治療的試みをすることは百害あって一利もない。だから何もしないほうがよい」
 いわゆる言語障害の専門家から、こう言われたことばの教室の担当者がいる。その方から「ことばの教室でどもる子どもをどう指導すればよいか?」との切実な質問を受けた。
 直接、間接にこれらの声はよく耳にするが、それらの方々に、私たちの吃音親子サマーキャンプに参加していただきたいとお勧めしたい。
 「吃音は必ず治る」として、いたずらに吃音治療に明け暮れた頃から比べれば、吃音が治りにくいものであるとの認識が定着したのは前進には違いない。しかし、だからと言って「何もできない、むしろ何もしないほうがよい」とは、それが、言語障害の専門家から出たことばだけに残念でならない。このように言われるようになった責任の一端は私たちにもあるのかもしれない。吃音症状にのみ焦点をあてた吃音治療の弊害を訴え、《治す努力の否定》の問題提起をしたのは、私たちだったからだ。吃音受容がまず大切だと訴えたかったのだが、《治す努力の否定》のことばだけが一人歩きしてしまった。  問題提起した私たちは、治す努力に変わる努力の方向を、《吃音とつきあう》立場で模索し続けてきた。大阪吃音教室の、『吃音とつきあう吃音講座』は毎週金曜日の夜2時間、一回ごとに違うテーマで、年間40回以上続く。それだけ取り組まなければならないことが多いということだ。その講座にほぼ毎回出席し、真剣に取り組んで初めて、《吃音とつきあう》考えが分かり、日常生活に生かせるようになったと言うどもる人は多い。《吃音と上手くつきあう》ことはそんなに容易くはない。何もしないで、放っておくだけでは、何の変化も起こらない。その大阪吃音教室8年の活動の中で、プログラムは改良に改良が続けられてきた。その成果をどもる子どもにも生かしたいと考えたのが、吃音親子サマーキャンプで、それも今年で5回目となった。
楽しい、リラックスした雰囲気で吃音親子サマーキャンプは進行するが、時には緊張する場面もある。他者の前で自分の問題を、自分のことばで話すことは最初は緊張する。しかし、どもっても受け入れられ、真剣に話を聞いてもらえるという安心感の中で、子ども達は実によく話す。また、どもる子どもにとって、大勢の人前で演じる演劇は最も苦手とすることだが、最初は尻込みした子どもも、仲間やスタッフに励まされ、ほとんどの子どもが最後には喜んでこのプログラムに加わる。
かなりハードな練習で何度も何度も泣きそうになりながら、一番楽しかったのは演劇だったと最後に感想を言った小学6年の男子。
セリフも殆ど暗記していたのに、つっかえつっかえ、時にはひどくどもりながら、表情豊かに演じ切り、舞台が終わっての挨拶の時、とても満足そうな顔をしていた小学4年の女子。
 私たちは、少しでも楽に話せるようにと、ことばそのものへのアプローチも重視しているが、からだとことばのレッスンによって、子どもの声は見違えるように出始める。ことばの問題ひとつとってもアプローチしなければならないことは多い。
今回私たちの吃音親子サマーキャンプに、ことばの教室の先生が何人か参加して下さった。
 <何もできない、何もしてはいけない>ではなく、<しなければならないことはたくさんある>ことを実感していただけたのではないか。このように私たちのプログラムに参加していただくことで、《治す努力の否定》の問題提起への誤解が少しでも取り除かれればうれしい。(1994.12.28) (了)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/8/28