吃音の子どもの早期自覚教育
第1回の吃音親子サマーキャンプは、今日と同じで、本当に暑い日でした。民宿で、冷房が完備されておらず、30回のキャンプの歴史で、暑さを強烈に覚えているのは、第一回のキャンプだけです。それだけに強い印象として残っています。
今日は、8月20日、サマーキャンプの前日です。事務局の僕たちはもちろん、翌日からのサマーキャンプを思って、ワクワクしていますが、参加者も同じようです。30年の間には、遠くから参加した人もいました。北海道や岩手から参加した人もいました。最近は、沖縄からの参加が増えました。道中、どんなことを思いながら参加してくるのでしょうか。遠い所から、家族で参加する、そのことだけですごいなあと思います。そんな人たちの思いにこたえられるよう、僕たちはいつも丁寧に誠実に向き合おうと努めました。1年間のうちのたった3日間が、人生を変える大きな転換になることもあるのですから。
第2回 吃音親子サマーキャンプ(1991年)
会場 滋賀県 西教寺
参加者 34人
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/8/21
第1回の吃音親子サマーキャンプは、今日と同じで、本当に暑い日でした。民宿で、冷房が完備されておらず、30回のキャンプの歴史で、暑さを強烈に覚えているのは、第一回のキャンプだけです。それだけに強い印象として残っています。
今日は、8月20日、サマーキャンプの前日です。事務局の僕たちはもちろん、翌日からのサマーキャンプを思って、ワクワクしていますが、参加者も同じようです。30年の間には、遠くから参加した人もいました。北海道や岩手から参加した人もいました。最近は、沖縄からの参加が増えました。道中、どんなことを思いながら参加してくるのでしょうか。遠い所から、家族で参加する、そのことだけですごいなあと思います。そんな人たちの思いにこたえられるよう、僕たちはいつも丁寧に誠実に向き合おうと努めました。1年間のうちのたった3日間が、人生を変える大きな転換になることもあるのですから。
第2回 吃音親子サマーキャンプ(1991年)
会場 滋賀県 西教寺
参加者 34人
吃音の子どもの早期自覚教育
伊藤伸二
盛岡市で開かれた日本公衆衛生学会で興味ある2つの発表があった。(1991.10.16)禁煙教育と性教育に関してである。
喫煙経験者の低年齢化が進んでいる。中学校ではたばこを吸う教師が多い学校ほど、また、両親、兄弟など近親者や友人がたばこを吸う環境にある生徒ほど喫煙経験者が多いことも報告された。この状況の中で、小学校からの禁煙教育の必要性が叫ばれている。関西のある小学校でスライドやビデオを使っての取り組みがなされ、5年生の女子は次のような感想を寄せている。『たばこを吸うと体に悪いことは知っていましたが、けむりを吸っただけでも、がんになったりする確率が高いと聞いてびっくりしました。今までもお父さんに「たばこをやめたら」と言ってきたけれど、今日帰ったら「家族のためにもやめて」と言います』
また、現代の母親の大半が性教育は小学校3・4年生までに始めるべきだと考えるなど親の意識の変化が報告された。家庭内で性の話がタブー視された一昔前から考えると大きな変化だと言える。また、望まない妊娠をし、中絶する少女たちの増加や子どもの性意識や性行動の変化を受けて、来年度からは、生活科・理科の教育の中に性教育が入ってくる。性の管理ではなく、本来の豊かな性を教えることが必要だとする教師の動きも出始めている。
これら早期教育の視点からとらえるとき、吃音の子どもの教育の実態はどうであろうか。
今夏開かれたサマーキャンプで中学2年生の子どもを持つ父親から次のような発言があった。『小学校の2年からことばの教室に通っているが、ことばの教室の先生は「ちょっと言いにくいからそれをスムーズになるために教室に来るのやで」と子どもに説明してくれました。何年も通級しても変わらないので子どもは「こんなにしているのになんで治らないのや」と言うようになり、6年生になったら「こんなに来ているのに、普通の病気でもこんなに長くない」と行かなくなりました。そのときは、ことばの教室の先生からは子どもに説明がありませんでした。私たち家庭の中でも、どもりについて話題にするのを避けてきました。これからどう対応したらいいでしょうか…』
家庭の中でも、またことばの教室の中でも、吃音が直接の話題になっていない実状が話された。
幼児期の吃音は「子どもの面前で、ことばの間題を話題にしないようにします」「子どもにことばの異常を意識させないよう工夫することによって悪循環が進むのを防ぎ、どもりの問題が自然に衰え、通過するのを待ちます」
学齢期の吃音は「自分のことばの問題を進んで人に打ち明けるよう励ましましょう」
−『子どものどもり』(日本文化科学社1976年)
幼児期にひたすら隠し続け、話題にのぼらなかった問題を、学齢期になれば急に言えるようになるだろうか。
親も、指導する側も「どもりを治したい」との本音を持ち、治るならと建前で「どもってもいいよ」と励ます。敏感な子どもであれば、本音と建前を見破ってしまうであろう。自分らしくよりよく生きるためには、吃音を持っている自己を肯定して生きることが大切だが、自己肯定する態度の育成はできるだけ早期に始めた方が効果がある。どもっている子どものそのままを本音で受け入れ、どもりのことをオープンに話していくことを早期にする必要がある。
子どもの頃、母親にも先生にも友達にもどもりのことを話題にできず、一人で悩んでいたが、誰かに話したかったという成人のどもる人は多い。吃音をできるだけ意識させない接し方でなく、どもりをオープンに話すことで、自覚をうながすことがむしろ必要なのではないか。
私たちは、吃音の早期治療ではなく、吃音の子どもの早期自覚教育を提唱し、その教材作りやプログラム化の取り組みを開始したい。そのとき、禁煙教育や性教育の取り組みや教材作りに学ぶべきものはあるかもしれない。(1991.10.31)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/8/21