大学生の座談会 〜吃音と就職について〜 

 吃音と就職・就労について、たくさんの人の体験を紹介してきました。ひとりひとりが、真摯に自分に向き合い、吃音に向き合っているということに、改めて敬意を表します。
 吃音と就職や、吃音と仕事は、永遠のテーマなので、また、どこかで取り上げたいと思いますが、第一弾のしめくくりとして、若い人たちの吃音と仕事についての座談会の様子を紹介します。
 1994年10月、大学生が、就職について座談会をしています。当時の大阪言友会(現在の大阪スタタリングプロジェクト)の機関紙に掲載されていたものです。1994年というと、ちょうど就職氷河期と言われ始めた頃です。「就職氷河期」は、1994年の新語・流行語大賞の特別賞に選ばれています。かなり厳しい就職状況だった頃の、当時、大学生の生の声です。26年経った今でも、それほど大きな違いはないように思います。


【座談会】 テーマ 就職と吃音
参加者   A(大学4年 医学部)
      B(大学4年 教育学部)  
      C(大学4年 商学部)
      D(大学3年 商経学部)  
      E(大学2年 文学部)   
      F(公務員 20歳)

 ◇就職活動にあたって
A B君とC君は来春卒業だけど、就職活動の現状はどうですか?
B 世間で言われている通り、今年の就職状況はすごく厳しい。一流企業だったら、1200人受けて60人しか採用されないとか。会社に入ってからも嫌でも営業をやらされることが多いみたい。今になってあわててる人もいるし、大学院へ進んだり、フリーターになったりする人もいて、さまざま。でも、みんな世間のルールに従って、それなりのことはしているみたいです。
C 会社訪問は面接重視で、自分をアピールする必要があるから、自分からしゃべらないとだめ。どもってたら、ちょっと変な目で見られるかもしれないけど、やっぱり話す内容が大事で、どもるかどうかはそんなに関係ないと思う。
A 面接ではどんなことを聞かれるの?
C 大学で何をしたかを聞かれることが多い。勉強でもクラブ活動でも何でもいいから、とにかく自分の個性をアピールすることやね。話す内容を前もって考えとくといい。
B 現状では、入りたい会社に入るというよりは、入れる会社に入るって感じだね。
C 僕も30〜40社ぐらい受けたけど、本命はだめだった。結局、希望していたよりは少し規模の小さい会社に決まった。なかなか希望通りにはいかないよ。

 ◇就職に備えて
A 大学に入る時に将来の就職のことを考えていましたか?
D 全然考えてなかった。むしろ就職するのが嫌だから大学に入ったという感じ。学科も適当に決めてしまった。
E 僕は文学部なんだけど、指定校推薦で入ったとか、偏差値のねらい目だから来たという人が多いみたい。文学部だと先生になるぐらいしかないという話も聞きます。
C 文系と理系の選択の時にちょっと考えた。はじめは、自分はあんまりしゃべるのが得意じゃないから理系にしようかなと思ったけど、そうやって自分で殻を作るのが嫌だったから、結局、文系にした。そのことで後悔はしていません。
A 僕は小さい時から、「おまえは口下手だから、会社に勤めたり、商売をするのには向いていない。だから勉強して医者にでもなりなさい」と言われてきて、ずっと医学部に入ること以外は考えたことがなかった。何も考えずに親や周りの人達に影響されてきたけど、今になって、結果として、そのことがすごくよかったと思っています。
E でも、周りにそういうことを言ってくれる人がいなくて、高校の時に、社会のことや会社に入ってからどんなことをするのかなど、わかっていない人が多いと思う。
B 大学に入ってから、したいことを見つけようとする人も多いんじゃない?
A じゃ、今、将来のことを考えて何かしていますか?
F 僕は公務員3種の試験を受けるために勉強しようと思っているけど、資格があると有利なんじゃないかな。履歴書にたくさん書いてあったら、こいつ頑張ってるなあと思ってくれるからね。みんな、何か資格を持っていますか?
一同 持ってない。(ションボリ)
D 僕の周りでは、ほとんどの人が将来のことなんか何も考えていない。そんな中に居ると影響されてしまう。
E でも会社に入れば、朝早く起きて会社に行って、働いて、疲れて帰ってくる。その繰り返しで、気がついたら60歳ぐらいになっている、なんてことを想像したら、何かこわいものがあるんじゃないですか。

 ◇就職と吃音
A 吃音が就職にどう影響すると思いますか?
F 僕は郵便局の配達をしているんだけど、吃音のことよりも仕事の内容の方で大変やな。なかなか人並に仕事をこなせなくて、頑張ってるつもりなのにもんくを言われることが多い。一緒に仕事をしている人とも合わないし、吃音のことより、そっちの方が問題やね。
A どもって失敗したことないの?
F 郵便局に入って初めての自己紹介の時、めちゃくちゃにどもって、「あーうー」って言うだけで、自分でも何を言ってるのかわからんかった。その時に、僕はどもりだと言うつもりだったけど、やっぱり言われへんかった。
E そんなにどもったんなら、言うまでもなかったんちゃう?(笑)
C どもるからって、殻に閉じ込もってたらダメだと思う。どもりながらでも、自分のことをアピールしないと、面接でも何を言ってるのかわからないような学生は採ってもらえないし。今は自己主張の時代やからね。
A F君もC君も、吃音のことをあまり気にしないタイプだと思う。だから、吃音に対しても姿勢が前向きやと思う。
C 吃音で悩んでてもしゃあないからね。考えても解決できないし。気にせんと楽しくやった方がいいわって思ったら、あんまり気にならない。友達との関係でも、どもったからどうこうなるってもんでもないし。
A どもる人で大阪の人たちの中にも、教師をしている人がかなりいるようですね。
D 意外です。
A 話すことが目的になっているような仕事はつらいと思うよ。話すことが手段である場合はいいけど。
E 自分がどもるから、わざと話すことの多い職業に就くというのではなくて、どもる、どもらないには関係なく、自分のしたいことを見つければいいと思う。
F どもってたらセールスなんかはしんどいと思うなあ。商品を買ってもらうためには説明する必要があるけど、言葉が出なかったら仕事にならないような気がする。
A C君は営業をしたいと言ってたけど、どもってたら大変なんじゃない?
C 他の人の倍、働けばいいと思うよ。自分の考えをアピールしたいし。なんとかしゃべれると思う。
A 吃音のことで、何か不安に思うことはありますか?
D 会社に入ったら、僕には電話はかけられませんとは言えないからねえ。そんなことを考えていると不安になってくる。
E 自分では、最善を尽くして、それほど不安は持ってないとしても、相手がそれではダメだと思うかもしれない。ちゃんと話せなかったらクビになることもあるんじゃないかな。
B バイト先で電話のことでひどく怒られたことがあったよ。それに、はっきりそうと言われたわけじゃないけど、どもってうまく説明できないためにクビになったこともある。
C 僕も吃音については、気にせんようにはしてるけど、社会人になったら吃音で不安なことは多いと思う。学生の間は、いくらどもっても別になんともないけど、会社はクビになるかもしれへんからなあ。
A 僕の場合は難発やから、内容を曲げて言ってしまうことがあるけど、そのことで将来、致命的なことになるんじゃないかという不安はあった。最近、わざとどもるテクニックを知ってから、この方法なら大事な場面でも、たとえひどくどもっても、言いたいことが言えると思えるようになって、ちょっと安心している。それ以前は、手術の時に、「メス」と言えなかったらどうしようとか、バカなことを考えていたから。
E 「切るもの」とか、言い換えたら。(笑)
B 僕は話すことにウエイトのかかる職業にあこがれてはいるけど、実際にはできないような気がする。やってみないとわからないけれど。
D 話すことの多い職業に就く人や他のことの方が大事な職業に就く人など、いろいろあっていいと思うが、自分のことになると今はわからなくて、これから考えていこうと思っている。
E ただ自分がどもるということだけで、話す職業に就くのは安易だと思う。僕の場合は、話すことにはそんなに興味はないので、話すことにはこだわらずに自分のしたいことをしてみたい。何かを書くような仕事に就けたらいいなあと思っています。
C どもるから不便なことは多少あるけど、どもったからダメってことはないし、どもるからといって自分からは何もしないのはあかんと思う。自分の殻を作ってしまうからね。だから、あんまり考えないようにして、何でもしようと心がけています。
A 今までの話を聞いて、どもってもなんとかなるという面と、どもるからダメだという面と両方あると思う。だから、ある人の場合はなんとかなるし、ある人は失敗したりするんだと思う。どちらか一方だけ取り上げて、就職と吃音はこうだ、というようなことは言えないと思う。
F 結論としては、吃音にこだわらずに、自分のしたいことをしようということじゃないですか。
A 吃音と就職ということについて言えば、結局はその人次第だと思う。吃音に影響される人はすごく影響されるし、気にしないタイプの人は、うまくやっていけるんじゃないか。就職というのは、まったく自分自身の問題なんだから、うまくいってもいかなくても、自分独自の生き方を悔いのないように選んでいきたいよね。(了)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/8/18