新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴う外出自粛が続いています。学校は、2月末の全国一斉休校から今まで、ほとんど授業らしい授業が行われていません。人生の大切な節目である卒業式や入学式も、これまでとは違う形になっているようです。
 僕も、予定されていた講演会、研修会、吃音親子キャンプのほとんど全てが、中止や延期になりました。聞いて下さる人を前に、その人たちとやりとりをしながら話をすすめるという僕の講演スタイルですが、現状では叶いません。
 研修会が中止になった事務局の人たちから、それでも、不安な保護者、初めてのことばの教室を担当する人は大勢いるので、資料を送って欲しいと依頼されました。直接出会い、対話的に話をすすめるのが一番いいのですが、この時期何かできることはないだろうかと考えました。今、僕が考えていることを、ブログやツイッター、フェイスブック、ホームページ等で発信していくことだと思います。どもりながら生きてきた僕の人生、そのときどきで考えたこと、大勢のどもる人や子どもと出会って気づいたこと、どもる子どもの保護者との出会いで質問されて答えたことなど、伝えたいことはたくさんあります。対面ではありませんが、それらを発信することが、今、僕にできる最大のことだと思いました。

 まず、吃音と上手につきあうために、知っておきたい吃音の知識をまとめました。どもる子どもの保護者、ことばの教室担当者、言語聴覚士、どもる子どもが、吃音に関する知識や情報を共有し、一緒に取り組むために、土台となる基本的なものです。少しずつ投稿していきます。番号をつけていきますので、まとめて読んでいただければ、ひとつのまとまったものになると思います。

吃音と上手につきあうために、知っておきたい吃音の知識(1)
〜どもる子どもの保護者、ことばの教室担当者、言語聴覚士、どもる子どもが、知識・情報を共有し、吃音に一緒に取り組むために〜

     
吃音はほとんど分かっていない
100年以上の膨大な吃音研究でも、最近の脳科学や遺伝学などでも、吃音の原因は解明されていない。脳の機能、遺伝子に問題があるなどといわれるが、少ないデータをもとにしたもので、明確なエビデンス(科学的・統計的根拠)はない。吃音の原因も吃音のメカニズムもほとんど解明されていない。親の育て方が原因ではなく、子ども本人に体質的な問題があるわけではなく、どの子どもがどもり始めるかは分かっていない。原因を突き止めたとしても、何の役にも立たない。吃音と向き合い、上手につきあうには、科学的な知識よりも、大勢のどもる人や、どもる子どもの経験をもとにした知識、知恵、哲学が必要だ。
 54年間のセルフヘルプグループ活動。6回の世界大会への参加。30回の吃音親子サマーキャンプ。21回の島根キャンプや、岡山、静岡、群馬、沖縄、千葉などの吃音親子キャンで、対話をしてきた7000人を超える体験、物語をもとに吃音の特徴を整理する。

一人ひとり違う
どもり始めは、「わわわわわわたし」のような音の繰り返しから、「わーーーたし」の引き伸ばしへ、「・・・・・・わ」とことばがつまる(ブロック)へとどもり方が変化することが多いが、どもり始めからブロックの子もいる。3つのタイプのどもり方をする人、繰り返しだけや、ブロックだけの人など、どもり方は一人ひとり違う。どもる程度も、一言一言どもる人から、どもっているとは思えない人までいる。家族の中ではあまりどもらずに、緊張する学校での音読や発表で特にどもる子は多いが、反対に、ある程度緊張状態の音読や発表の方がどもらない子どももいる。すべての「音」にどもる人もいれば、「カ行」や「タ行」、「ア行」など特定の「音」がどもる人もいる。どもり始める年齢も3歳前後が多いが、高校生になってからどもり始める人もいる。

  一人のどもる人の中で変化するもの
 幼児期の吃音で小学入学時までに、自然に消える「自然治癒」が45%程度あるが、小学生になると、どもり続ける可能性は大きい。ひどくどもる時とそうでない時の「波現象」があると、学校で何かあったのか、親が叱りすぎたのかと原因を探そうとするが、原因は分からない。小学生のころと比べ、年齢があがるにつれてあまりどもらなくなる人がいるが、小学生の時はあまりどもらなかったのに、大学生や社会人になってからよくどもるようになった人もいる。その人の吃音がどのように変化していくかは、誰にも分からない。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/5/2