不思議な向谷地生良さんとのつながり
明るいフローリングの空間に、きれいに円く並べられた黄色の椅子。映画「PRISON CIRCLE」のパンフレットの表紙は、そんな明るいものでした。
日本初となる刑務所内の長期撮影には、大きな壁が立ちはだかり、取材許可が降りるまでに6年間を要したとありました。当然のことと思いました。窃盗や詐欺、強盗傷人、障害致死などで服役する人の刑務所での日常生活を撮影することは、想像するだけでも大変なことです。でも、そこで描き出されていたのは、4人の若者の、新しい価値観や生き方を身につけていく姿であり、その変容は、僕が50年以上取り組んできた吃音をめぐるたくさんのどもる人やどもる子どもたちの変容と、どこかで必ずつながっていると思わせるものでした。
映画のエンドロールに出てきた撮影場所が、島根県浜田市の刑務所でした。最初にも紹介されていたのかもしれませんが、気づきませんでした。びっくりしました。
映画について書く前に、おもしろい人と人とのつながりを書きます。
北海道浦河の「べてるの家まつり」に、古くからつきあいのある、統合失調症の青年のお母さんと行った時です。TBSのディレクターで、僕たちの吃音親子サマーキャンプなどを取材し、「報道の魂」というドキュメンタリー番組を制作し、TBSのニュースバードでも放送して下さった斉藤道雄さんが、浦河にあるご自宅の食事会に招待してくれました。その時に出会ったのが、向谷地生良さんのご家族でした。
そのとき、僕たちのワークショップに講師として来ていただけないかと依頼しました。そして、それが実現し、翌年の吃音ショートコースという滋賀県で開催したワークショップに来ていただきました。その記録は、『吃音の当事者研究−どもる人たちが「べてるの家」と出会った』(金子書房)として出版しています。向谷地さんの当事者研究の講義や、僕との対談、どもる人の当事者研究の実際が収録されているものです。
斉藤道雄さんが紹介してくれた隔月刊雑誌『くらしと教育をつなぐ We』(フェミックス)の224号 2月/3月号に、プリズンサークルのパンフレットが同封されていました。「言葉を、感情を、人生を取り戻していく」のタイトルで、ドキュメンタリー映画「プリズンサークル」の監督、坂上香さんのインタビューが掲載されています。その記事を読まないままに、明るいフローリングの空間に、きれいに円く並べられた黄色の椅子の写真に惹かれて、上映映画館を探して、タイミングよく見ることができました。
映画が終わり、エンドロールで、舞台になっているのが島根県浜田市の「島根あさひ社会復帰促進センター」だと気づきました。僕は、どもる子どものキャンプ、島根スタタリングフォーラムを21年続けていますが、その会場は、ここのところずっと浜田市です。
ある年、実行委員である、島根県のことばの教室の教員10人ほどと、翌日からのフォーラムの打ち合わせを、浜田市のポークレストランとして有名な「ケンブロー」でしていました。ついたての仕切りの向こうにいる、別のグループが話している声が、ちらちらと聞こえてきます。精神医学や臨床心理学で聞き慣れたワードです。僕たちの方が先に終わったので、帰るとき、そのグループを覗いてびっくりしました。向谷地生良さんでした。
「北海道の向谷地さんと大阪の伊藤が、島根県のレストランで出会う確率は天文学的数字ですね」と笑い合いました。どうして、ここにいるのかと聞くと、浜田市にある刑務所、島根あさひ社会復帰促進センターで職員研修の講師として来ていたとのことでした。僕は、すでにここで、映画に出てくるミーティングのスタッフに出会っていたことになるのです。
グループのミーティング、当事者研究、どもる僕たちがしているミーティングと似ていると感じたのは、そのためだったのです。
人と人との不思議な出会いを思います。その後、向谷地さんとはオープンダイアローグの研修があった駒沢大学からかなり離れたインドレストランで会ったり、今年の1月には羽田空港で会いました。握手をしながら、「不思議に会うねえ」と笑い合いました。
肝心の映画については次回、紹介します。
日本吃音臨床研究会会長 伊藤伸二 2020/02/25

日本初となる刑務所内の長期撮影には、大きな壁が立ちはだかり、取材許可が降りるまでに6年間を要したとありました。当然のことと思いました。窃盗や詐欺、強盗傷人、障害致死などで服役する人の刑務所での日常生活を撮影することは、想像するだけでも大変なことです。でも、そこで描き出されていたのは、4人の若者の、新しい価値観や生き方を身につけていく姿であり、その変容は、僕が50年以上取り組んできた吃音をめぐるたくさんのどもる人やどもる子どもたちの変容と、どこかで必ずつながっていると思わせるものでした。
映画のエンドロールに出てきた撮影場所が、島根県浜田市の刑務所でした。最初にも紹介されていたのかもしれませんが、気づきませんでした。びっくりしました。
映画について書く前に、おもしろい人と人とのつながりを書きます。
北海道浦河の「べてるの家まつり」に、古くからつきあいのある、統合失調症の青年のお母さんと行った時です。TBSのディレクターで、僕たちの吃音親子サマーキャンプなどを取材し、「報道の魂」というドキュメンタリー番組を制作し、TBSのニュースバードでも放送して下さった斉藤道雄さんが、浦河にあるご自宅の食事会に招待してくれました。その時に出会ったのが、向谷地生良さんのご家族でした。
そのとき、僕たちのワークショップに講師として来ていただけないかと依頼しました。そして、それが実現し、翌年の吃音ショートコースという滋賀県で開催したワークショップに来ていただきました。その記録は、『吃音の当事者研究−どもる人たちが「べてるの家」と出会った』(金子書房)として出版しています。向谷地さんの当事者研究の講義や、僕との対談、どもる人の当事者研究の実際が収録されているものです。
斉藤道雄さんが紹介してくれた隔月刊雑誌『くらしと教育をつなぐ We』(フェミックス)の224号 2月/3月号に、プリズンサークルのパンフレットが同封されていました。「言葉を、感情を、人生を取り戻していく」のタイトルで、ドキュメンタリー映画「プリズンサークル」の監督、坂上香さんのインタビューが掲載されています。その記事を読まないままに、明るいフローリングの空間に、きれいに円く並べられた黄色の椅子の写真に惹かれて、上映映画館を探して、タイミングよく見ることができました。
映画が終わり、エンドロールで、舞台になっているのが島根県浜田市の「島根あさひ社会復帰促進センター」だと気づきました。僕は、どもる子どものキャンプ、島根スタタリングフォーラムを21年続けていますが、その会場は、ここのところずっと浜田市です。
ある年、実行委員である、島根県のことばの教室の教員10人ほどと、翌日からのフォーラムの打ち合わせを、浜田市のポークレストランとして有名な「ケンブロー」でしていました。ついたての仕切りの向こうにいる、別のグループが話している声が、ちらちらと聞こえてきます。精神医学や臨床心理学で聞き慣れたワードです。僕たちの方が先に終わったので、帰るとき、そのグループを覗いてびっくりしました。向谷地生良さんでした。
「北海道の向谷地さんと大阪の伊藤が、島根県のレストランで出会う確率は天文学的数字ですね」と笑い合いました。どうして、ここにいるのかと聞くと、浜田市にある刑務所、島根あさひ社会復帰促進センターで職員研修の講師として来ていたとのことでした。僕は、すでにここで、映画に出てくるミーティングのスタッフに出会っていたことになるのです。
グループのミーティング、当事者研究、どもる僕たちがしているミーティングと似ていると感じたのは、そのためだったのです。
人と人との不思議な出会いを思います。その後、向谷地さんとはオープンダイアローグの研修があった駒沢大学からかなり離れたインドレストランで会ったり、今年の1月には羽田空港で会いました。握手をしながら、「不思議に会うねえ」と笑い合いました。
肝心の映画については次回、紹介します。
日本吃音臨床研究会会長 伊藤伸二 2020/02/25