第17回 吃音キャンプOKAYAMA PART2
「なんでそんな話し方なの?」と聞かれたら…


 子どもたちからの質問が続きます。

友浦 伊藤さんの好きなことは、何ですか。
伊藤 カレー? いやいや、好きな食べ物ではなくて、好きなことだね。好きなことは、本を読むことと、映画を見ること。僕は子どもの頃、友だちがいなくて、ひとりぼっちだったから、ひとりでできる、映画を見ること、本を読むことをしていた。本ばっかり読んでいたけど、そのことが、今、自分が本を書いたり、人前で話すことにすごく役に立っている。また、映画ばっかり見ていたことで、いろんな人の人生を知ることになった。難しい本も読んでいた。夏休みも、みんなは友だちと遊びに行くけれど、僕は友だちがいないから、すぐ近くの県立図書館に行って、毎日、本を読んでいた。映画館に行って、警察に捕まったりもした。
子ども うん? なんで?
伊藤 捕まったんだよ。
子ども なんでや。
伊藤 昔は、中学生がひとりで映画を見に行ったらだめだった。今は、どう?
子ども いいよ。
子ども 親と一緒ならいいよ。
伊藤 今は、中学生がひとりで映画館に行ってもいいの?
子ども あかん。
伊藤 あかんよね。昔もだめだった。映画を見て帰ろうとしたとき、出口で立っていた人を見て、「きっとこの人は警察官」だと直感したので、知らん顔をして、出口まで来てだーっと走って逃げた。警察官は追いかけてきたけれど、僕の方が速かったので逃げました。
子ども はははは。
友浦 伊藤さんの本、みんな、大きくなったら読んでほしいと思っているんだけど、読んでいて分かりやすい。すごくいいことがいっぱい書いてある。それは、伊藤さんが今までいっぱい本を読んだり、映画を見たりしていたからだったんだね。そのことで素敵な本を書いて下さる人になったんだと思うよ。みんなも、しっかり本を読んでね。
伊藤 みんなも、いろんな本を読んで下さい。
岡山キャンプ 伸二アップ
友浦 次は、友だちから、なんでそんな話し方なの?と聞かれたら、どう答えたらいいですか。みんなは、そんなこと聞かれたこと、ある?
子ども ある、ある。
子ども ない。
伊藤 あるのか。
友浦 あるね。いじわるじゃないけど、みんな、聞いてきたりすること、あるよね。
子ども 4、5人くらいある。
伊藤 そのとき、どういうふうに答えたの?
子ども 病気じゃないとか、
伊藤 ほかには。
子ども 言い方がだめなのかもしれないけれど、なんか笑ってきたり。
子ども うん、笑われた。
伊藤 そうか、そういう人に、なんで?と聞かれたら、一番いいのは、「君、本当に知りたいの?」と聞く。その子が本当に知りたいんだったら、教えてあげるから、僕と一緒に吃音の勉強をしようよって。
子ども ああ。
伊藤 そして、『どもる君へ いま伝えたいこと』という本があるから、これをしっかり読んでと言って貸してあげたらいい。なんでそんな話し方をするの?というのは、ただからかいのために言う子もいるかもしれないけれど、やっぱりなんでかなあと疑問に思う子もいる。だから、本当に知りたいのかと聞いたらいい。からかいたくて言っているのか、本当に僕のことを知りたくて聞いているのかが分かるよね。
子ども うん。
伊藤 それで、からかって聞いてくる子のことは、相手にしなくていい。「わからん!」と言えばいい。「君も、なんでそんなしゃべり方なの?」と聞いてやってもいい。人それぞれ話し方は違うからね。どもらない人でも、声が小さい人もいるし、ぼそぼそとしゃべる人もいる。有名な精神科医で、実際に、その人の講演を、何度も聞いたけれど、その人は、「私は自他共に認める滑舌が悪い」といっている。どもってはいないけれど、わかりにくい話し方をする人はいる。アナウンサーでも、もうちょっと練習したらいいのにと言いたくなるくらいの人もいる。そんなふうに、人はいろんなしゃべり方をするから、「なんで君はそんなしゃべり方なの?」と聞かれても説明できないんだ。説明できないことをしつこく聞いてくる子とは、友だちにならない。でも、ほんとに僕のことを知りたくて聞いてきた人にはちゃんと教えてあげたらいい。
子ども うん。
友浦 みんな、通級教室で勉強していると思うから、本気で知りたいという友だちには、教えてあげて下さいね。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/11/1