報道の魂

 当時TBSのディレクターだった、斉藤道雄さんたちが始められた新しい番組「報道の魂」の第一回で取り上げて下さった<吃音>。その番組を紹介する斉藤さんのメール内容と、番組の宣伝文章、それを取り上げた毎日新聞の夕刊を紹介します。
 最近の、浅くて軽い番組が多い中、テーマへの真剣さと深さと重さを感じる文章です。とてもありがたいと心から思いました。報道の魂

◇斉藤さんから周りの人たちへのメールから

 この秋から、ささやかに新番組をはじめることになりました。初回放送は以下のとおりです。
番組名 「報道の魂」  内容 「吃音者」
10月17日(月曜日)午前1時20分〜50分放送エリア 関東地区のみ(関東以外のみなさん、申し訳ありません)以下は、番宣コピーです。

 しゃべるという簡単なことが、簡単にはできない。それが、吃音者の悩みだ。しかしほんとうの悩みは、吃音を見る「まなざし」のなかにある。当事者を、時には鎖のように縛りつけているこのまなざしは、「治さなくてもいい」といった瞬間に瓦解する幻影かもしれない。どう治すかではない、どう生きるかだという吃音者、伊藤伸二さんを取材した。
 おそろしく地味な番組です。時間もよくありません。このメールをお送りしているほとんどのみなさんは、こんな時間に起きてはいらっしゃらないとよく知っています。でも、こんな時間だからこそ、まるで解放区(古い!)のように、視聴率を考えずに(!!)ドキュメントを作ることができました。ので、よろしければ録画してご覧ください。伊藤伸二さんという、すてきな吃音者と、その仲間たちに出会えます。    斉藤道雄
  

 ◇ブロードキャスト
   深夜の「報道の魂」=荻野祥三
 「泥つき大根の青臭さを感じさせる番組です!」。新番組の資料にそう書かれている。TBSで16日の深夜(17日午前1時20分)からスタートする「報道の魂」である。「魂」とは、また古風な。一体どんな中身なのか。
 1回目のテーマは「吃音(きつおん)者」。吃音とは「物を言う際に、声がなめらかに出なかったり、同じ音を繰り返したりする」などと辞書にある。番組は、日本吃音臨床研究会会長の伊藤伸二さんの独白で始まる。「国語の時間が怖くて、学校に行けなくなった……」。ナレーションが「伊藤さんは吃音者、つまり、どもりである」と続ける。
 「どもり」は、通常はテレビでは使わない言葉だ。新聞でも「気をつけたい言葉」とされ「言語障害者、吃音」と言い換える。ただし「差別をなくすための記述など、使わなければならない場合もある」とも「毎日新聞用語集」に書かれている。番組の中では、ある吃音者が「意味は同じなのに、どもりを吃音と言い換えることで、かえって差別されている感じがする」と語っている。
 伊藤さんは大阪を中心に、さまざまな活動をしている。その精神は「どもりを隠さず、自分を肯定して、明るく前向きに生きること」にある。吃音の子供たちを集めたサマーキャンプでは、子供たちが同じ仲間たちと話して、心が解き放たれていく様子がうかがえる。
 登場する全員が「顔出し」。モザイクをかけずに自分を語る。タイトル以外には、音楽も字幕もない。一カットが長く、じっくりと話を聞ける。画面をおおう青やピンクの字幕。けたたましい効果音。そして、長くても15秒ほどで次の人に代わるコメント。そんな「ニュース・情報番組」を見慣れた目には、粗削りな作りに見える。だから「泥つき大根」なのかと納得する。「報道の魂」は月1回の放送。それにしても「今なぜ?」。来週もこの話を続ける。
   毎日新聞 2005年10月15日 東京夕刊


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/4/9