吃音者宣言雑感
僕の53年の集大成のような著書が、金子書房から「どもる子どもとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力」として昨年12月に出版されました。
それより前の6月には伊藤亜紗さんの「どもる体」が、今年に入ってからは、菊池良和さんの「吃音の世界」、近藤雄生さんの「吃音 伝えられないもどかしさ」と、吃音に関する本が相次いで出版されています。
それぞれ、伝えたいメッセージは違い、書かれている内容も違うのですが、私には、50年以上も前の状況と似ているような気がしています。1976年、今から43年前の「吃音者宣言」の本が、今、そのまま出版されても、新しいもののように感じられるほど、吃音をとりまく世界は50年前とほとんど変わらないのがとても不思議です。
そこで、すでに絶版となっている「吃音者宣言」(たいまつ社)の本をぜひ紹介したいと思うようになりました。基本に流れる哲学はまったく変わっていません。ということは、50年の風雪に耐えてきた「吃音哲学」だといえるでしょう。「吃音者宣言」(たいまつ社)をホームページで紹介できるように今作業中ですが、その吃音者宣言に関するエッセーを書いていますので、それをまず3回に分けて紹介します。
今は使わなくなった、吃音者・吃音児などのことばや漢字もありますが、ここでは、そのまま使って、紹介します。詳しくは、これから随時掲載していく日本吃音臨床研究会のホームページをご覧下さい。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/3/21
僕の53年の集大成のような著書が、金子書房から「どもる子どもとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力」として昨年12月に出版されました。
それより前の6月には伊藤亜紗さんの「どもる体」が、今年に入ってからは、菊池良和さんの「吃音の世界」、近藤雄生さんの「吃音 伝えられないもどかしさ」と、吃音に関する本が相次いで出版されています。
それぞれ、伝えたいメッセージは違い、書かれている内容も違うのですが、私には、50年以上も前の状況と似ているような気がしています。1976年、今から43年前の「吃音者宣言」の本が、今、そのまま出版されても、新しいもののように感じられるほど、吃音をとりまく世界は50年前とほとんど変わらないのがとても不思議です。
そこで、すでに絶版となっている「吃音者宣言」(たいまつ社)の本をぜひ紹介したいと思うようになりました。基本に流れる哲学はまったく変わっていません。ということは、50年の風雪に耐えてきた「吃音哲学」だといえるでしょう。「吃音者宣言」(たいまつ社)をホームページで紹介できるように今作業中ですが、その吃音者宣言に関するエッセーを書いていますので、それをまず3回に分けて紹介します。
今は使わなくなった、吃音者・吃音児などのことばや漢字もありますが、ここでは、そのまま使って、紹介します。詳しくは、これから随時掲載していく日本吃音臨床研究会のホームページをご覧下さい。
吃音者宣言雑感
−そんなに急ぐと山が逃げるよ−
伊藤 伸二 1977年9月 記
「吃音者宣言」が出されて、一年経った。
吃音者自身から、家族から、吃音児を持つお母さん方からことばの教室の先生方から、実にいろいろな方から、様々なご意見、ご批判をいただいた。
「大いに勇気づけられ、今後の生きる道がつかめました」という人。又「宣言には賛成だが、今のところ私にはそのような生き方はできません」という人。又、「治る可能性をも閉ざしてしまうあなた方の考え方は危険だ。多くの吃音者を絶望に追い込んでしまうのではないか」、「あなた方が吃音に負けているのが残念」というおしかりもいただいた。
この一年、じっとそれらの声に耳を傾け、今さらながらに言友会がこの時期に「吃音者宣言」を出した意義を思った。
あえて、言友会が「吃音者宣言」をしなければならない情況が、言友会内外に満ち満ちていることが「宣言」が出ることによって更に明らかにされたからである。
第十一回言友会全国大会に向けて、全国的な規模で行なった吃音者の実態調査でも、消極的な逃げの人生を送っている吃音者像が浮び上ってきたし、職場で吃音のために不当な扱いを受けているという吃音者の悩みも聞いた。そして、「治るにこしたことはない」「積極的に社会へ出ていけない人に対し、社会へ出ていく第一歩として吃音を軽くしてあげることが専門家に要請されている」という専門家からの声も聞いた。
「吃音が治るのを夢みるのではなく・・・・」という私たちに対して「治ることの夢を捨てるな」という主張は根強い。
又、言友会の内部にも「吃音者宣言」には反対だとする吃音者も一部にはいる。
これらの情況の中だからこそ、自らの立場を明確にし、今後どう進むのかを「吃音者宣言」で示す必要があったのである。
しかし「吃音者宣言」をした後の言友会の歩む道が、いばらの道であろうことは、前述の動きからも容易に予想することができる。そのいばらの道を歩むにあたって、つまり「吃音者宣言」を出すにあたって私たちには、一つの危惧があった。今、その危惧は現実のものとなりつつある。(つづく)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/3/21