井上詠治さんの結婚祝賀会

 僕たちの仲間である井上詠治さんが昨年結婚し、その祝賀会が2月10日、行われました。大阪スタタリングプロジェクトのレクレーション担当が企画してくれたものでした。
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 当日、30名ほどの人が集まり、賑やかで楽しく温かいひとときを過ごしました。
 井上さんとの出会いは、26年前にさかのぼります。そのとき、井上さんは、高校2年生でした。吃音親子サマーキャンプに参加した彼と初めて出会ったのです。サマーキャンプに何回か参加して、その後、ブランクはあったのですが、大阪スタタリングプロジェクトの仲間として加わるようになり、特に、ホームページの映像記録に関して大きな力を発揮してくれています。

 吃音に関するネガティヴな情報が多い中、なんとか僕たちの考えや取り組みを発信できないかと考えてくれて、吃音親子サマーキャンプや吃音講習会に、重い機械を持ってきて、撮影し、それを編集して、ホームページに掲載するということをしてくれています。研究会のホームページに載せている吃音の動画は、井上さんによるものです。文字だけではなく、映像の持つ力は大きいと、撮影機や録音機を自分で購入し、膨大な作業をしてくれて、大いに貢献してくれています。そのエネルギーの原動力はどこにあるのかと思うくらい、力を入れてくれています。僕たちの生きる姿を見せていくことの影響力を感じてくれているのでしょう。

 沖縄でのキャンプにも、第1回から参加し、自分を語っています。参加している子どもたちや保護者にとって、どもる先輩、メンターとしての井上さんのことばはしっかりと心に届いているものと思います。
 これだけ貢献してくれているのに、彼は、「自己肯定感が低い」と以前は自分でよく言いました。でも、結婚を通して、彼に変化が訪れているのを感じます。祝賀会の最後に、彼は、結婚は他者信頼を実感できる場だったと言いました。結婚式当日までは、二人で準備ができたが、当日は全て他者に任せた。助けてほしいとお願いすることが多かった。人に助けてもらうことの大切さを知ったというのです。そして、たくさんの人から、「おめでとう」と声をかけてもらい、関わりの大切さを実感したとのことでした。これで、きっと井上さんの自己肯定感もあがっていくのではと思います。

 高校2年生で参加した吃音親子サマーキャンプで、最初、井上さんは、「どもっているとき、周りの視線が気になる。じっとこちらを見られるのはつらい」と発言しました。3時間を超える話し合いの最後に、「俺も昔っからどもりで悩みまくって、もうなんで俺だけがどもるのかとどうしようもなかったけれど、今日来てみて、どもっていてもみんな堂々としゃべっているし、やっぱりどもりなんかで悩まずに、もっと大事なものがあるんじゃないかと思った」と発言していました。今の彼の活動につながる貴重なことばのように思いました。
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 祝賀会が終わってから、井上さんが大阪吃音教室のみんなに送ったメールを少しだけ紹介します。

昨日はお祝い会ありがとうございました。
温かい雰囲気で、やっぱりみなさんに祝ってもらえた会は格別でした。
20数年前に伊藤さんたちと出会って、今こんな風にお祝いしてもらえるとは想像もしませんでした。吃音を否定し続けてきた十代に伊藤さんたちと出会えたのは本当に幸運だったと思います。

自己肯定感が低く、他者信頼もできなかった私ですが、結婚を通じて、何十年も会っていなかった親戚にお祝いしてもらったり、彼女のたくさんの友人に祝ってもらったり、若いころ私と仲の悪かった親が嬉しそうにしてくれたり、そして私の大切な仲間である皆さんにお祝いしてもらえて、伊藤さんが言っていった「世間ってそんなに悪いもんじゃない」
と改めて思いました。
吃音で良かったか?というテーマが吃音教室であがることがありますが、多分吃音でよかったんだろう、と今思っています(^^)

動画のどもりQ&A「第一声が出ない」は再生回数が8000回を超えました。好評価も49件入っています。今後も必要な人に、必要な分だけ届けることができたらいいな、と思っています。


 高校生で吃音親子サマーキャンプに参加した人が、こうして吃音の取り組みに多大な貢献をし、多くの仲間に囲まれて結婚祝賀会が開かれる。短い時間ではなく、長いつきあいができる僕たちの取り組みの醍醐味がここにあります。とても幸せな気持ちになれた5時間近くのロングラン祝賀会は、いろんな思いにさせてくれました。結婚してからも、吃音についての僕たちの取り組みを一緒に続けていくと宣言してくれました。ありがたいことです。
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 井上さんががんばってくれた映像記録は、日本吃音臨床研究会のホームページに掲載しています。日本吃音臨床研究会のトップページから、映像の記録のコーナーに入ることができます。そこでは、吃音についての一問一答、成人のどもる人が自分の体験を朗読し、その後、僕が質問している映像、竹内敏晴さんから学んだことばのレッスン風景など、見ることができます。
 ぜひ、周りの人に、このユーチューブでみられる映像の紹介をしていただけるとありがたいです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/2/13