吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会の合宿

 「吃音を治す・改善する」の研究・臨床が世界中で取り組まれている中、おそらく世界で唯一、僕たちの会だけが、「吃音を治す・改善」を目指さないグループです。吃音を改善するための取り組みではなく、子どもが幸せに生きるために、教師や言語聴覚士としてなすべきことがたくさんある、というのが僕たちの主張です。これまで、親・教師・言語聴覚士のための吃音講習会を6回開いてきました。今年7回目となる講習会を、どうするのかの計画をたてる合宿です。

 2月10日の午後1時から夜10時まで、11日は午前9時から夜10時まで、合計すると大変な時間になりますが、よくまあ話がつきないものだと感心しながら、みんなで楽しく話し合います。
 栃木県、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、鹿児島県から、9名の教師・言語聴覚士が集まりました。高校や専門学校の試験とぶつかったために必ず参加している常連が参加できなかったのは残念でしたが、同じ価値観をもち、志を同じくする仲間といる時間は本当に幸せです。どんなに疲れていても、いや疲れていてしんどい時だから、「ほっと、一息がつける場」だと、みんな口をそろえて言います。

 これまでの講習会は特別講師をゲストに迎えて開いていましたが、今回は、これまでの自分たちの実践を、多くの人に知ってもらい、どこのことばの教室、言語室でも実践できるように、ゆっくりと時間をかけて紹介し、体験していただこうと、講師をおかないことにしました。合宿の一日目におおよその内容を決めて、合宿二日目には実際に実践を紹介する模擬演習をしてみました。話し合っていただけでは分からなかった実践の提示も、実際に講習会を想定して演習してみると、よりよい提示の仕方、演習のスタイルが見えてきました。とても有意義な時間でした。

 今回の合宿では、講習会の内容を検討することと、もう一つテーマがありました。今年出版予定の「どもりの会話術(仮題)」の編集会議です。ナラティヴ・セラピーの国重浩一さんと、僕たちのコラボレーションの本です。どもる子どもの物語る力を育て、ネガティヴな吃音についてのナラティヴを変えるお手伝いをする、「吃音を改善する」ための臨床とは、まったく違う臨床の提案です。

 僕たちの会では、これまで「どもる君へいま伝えたいこと」「親・教師・言語聴覚士か使える吃音ワークブック」「学習・どもりカルタ」をつくってきました。今回は、久しぶりの出版です。「吃音ワークブック」の制作では、毎月のように合宿をしていましたが、再度その力を結集することになりました。教師をしている人たちばかりなので、年度末はとても忙しい時期ですか、なんとかがんばろうと確認しました。長い、長い二日間の合宿が終わり、翌日は「伊藤伸二・吃音ワークショップin東京」でした。

 大雪で交通機関が心配なところから、中学2年生の女子と保護者が参加しました。高校生、成人、教師や対人援助の職に就いている人など、参加者の年代もバラエティーに富み、とても興味深く、深まりのあるワークショップになりました。
 「そんなことを教師が言うのか」と思うくらいのことばを浴びせられ、大変な思いをしながら、将来を考えている中学2年生に、参加者全員がかかわる時間は、中学生の時、ひとりぼっちで誰にも相談できずに悩んでいた僕にとっては、感慨深いものでした。
 東京ワークショップの様子は、ブログでも紹介したいと思います。

 例年1月にしているこの合宿、今年は2月に行いましたが、僕たちの2018年の活動が始動しました。今年の一年も楽しい、意義深い一年になりそうです。
 東京ワークショップの翌日、行きつけのところへ行き、今、大阪に帰るため、羽田空港のラウンジでこれを書いています。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2018/02/13