年末ですが、吃音の秋の話から

2017年の年末ですが、掲載していなかった吃音の秋の話です。

 吃音の秋は、静岡でのキャンプからスタートしました。
 宿泊を伴う静岡のわくわくキャンプは、一昨年、一応の区切りをつけ、昨年からは、1日だけのワンデーキャンプに変わっています。今年は、NPO法人全国ことばを育む親の会の理事長に新しくなった吉岡正さんの要望もあって、宿泊を伴う形になりました。以前とは少し違っていて、一日目は、以前と同じ静岡市で、どもる子どもの保護者やことばの教室の担当者向けの講演会と、グループに分かれての話し合いでした。2日目は、三島市で、どもる子どもやその保護者との話し合いでした。

 担当者向けの講演会は、静岡のキャンプが始まったときから、大切にしてくれていたプログラムです。今年は、レジリエンスの流れから、ポジティヴ心理学について話をしました。後半は、2人のどもる当事者の大学生が入り、グループに分かれて話し合いをしました。
2017 静岡キャンプ1 講演 

 その時にどんな話をするかのメモがありましたので、そのごく一部だけ紹介します。
 ポジティヴ心理学への導入の話です。

 今年の吃音親子サマーキャンプで、僕は、小学4年生のグループを担当しました。どもってからかわれると嫌な気持ちになるという話から、そのことについて少し違った観点から考えてみたいと思い、僕は、「からかわれたり笑われたりしても、平気だった時と、とても嫌で傷ついた時はなかったか」と尋ねました。それに対してみんなは「ある」と答えました。それはなぜなのか、考えておくようにと言って宿題にしました。

 翌日、みんなはそれなりに宿題について考えてきていましたが、少し難しかったようです。とても傷ついたときとあまり傷つかなかったときはある。それがなぜなのか。なぜ傷つかないで自分を支えることができたのか。自分にどんな力があったのか。そこを掘り下げることで、次につながる大事なことが見えてくると思いました。

 今から43年前、全国巡回吃音相談会で全国を回りました。そのとき、吃音の悩みの実態調査もしました。どもる状態と悩みが一致する人も多かったのですが、そうでもない人もたくさんいました。ひどくどもっていても、あまり悩んでいなかったときがあったというのです。そこでインタビューでそれはなぜなのかを尋ねました。すると、子どもも、大人も、ひどくどもっていても、案外平気だったことをまとめると、こういうことでした。

 ・ 熱中するものがあって、生活が楽しくて充実していた。
 ・ 家族やクラスや職場の人間関係がとてもよかったから、すごくどもっても気にならなかった。
 ・ 他に自信がもてることがあったから。

 要するに幸せに生きていたら、多少どもることが多くても平気だったというのです。

 全国吃音巡回相談会でのこの発見を受けて、チャールズ・ヴァン・ライパーの吃音方程式に変えて、伊藤伸二の吃音方程式をつくりました。ライパーが吃音を軽減したり、悩みの解消に吃音症状の改善を置いたのに対して、僕は、人間関係をよくする、熱中するもの、自信のもてることを見つけるなどを挙げました。『吃音ワークブック』でそれを紹介しました。

 だから子どもたちに、笑われても、からかわれても、それが精神的にあまりこたえないように、ダメージを受けないように、自分自身が幸せに楽しく生きることを考えてほしかったのです。
 今回は、レジリエンスとポジティヴ心理学について、話しました。 


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2017.12.29