大阪吃音教室の忘年会

 2017年12月16日土曜日、忍ケ丘のカフェグッデイズを貸し切って、午後6時から10時まで4時間の、大阪吃音教室のロングラン忘年会が行われました。参加者は29名。時間の長さからみて、普通の忘年会とは違うのはわかると思うのですが、このただものではない忘年会の様子を、ほんの少しお知らせします。
忘年会 全体歓談

 乾杯をし、バイキングでおなかがそれなりに満たされたころから、ひとりひとりが自分を語る時間が始まります。今年は、ユニークな自己紹介をしてから、今年のできごとで印象に残っていること、来年の抱負などを語ろうという提案がなされていました。
忘年会 誰かのお皿

 10月から大阪吃音教室に参加している小学校の教員が、小さいころから、どもることで会話ではだめでも、何か別のことで人を楽しませたいと思い、練習してきたという手品を披露してくれました。魔法の粉をかけると、トランプがだんだん小さくなっていく手品は見事でした。手品にはトークがつきものですが、手品が成功することに集中するために、しゃべることはあまり気にならないとのことでした。

 会社に勤めているときは、いつ、くびになるかとびくびくしていた人が、いよいよ定年になったとき、社長から「もう少し働いてほしい」と言われ、なんだ、それならそんなにびくびくせずに居たらよかったと思ったとの発言に笑いが起こりました。

 大阪吃音教室の講座で「どもって声が出ないときの対処」について担当したとき、その進め方について、思春期の子どもの支援をしている仕事場のスタッフと相談した人がいました。仕事場のみんなが興味を持って聞き、考えてくれて、仕事仲間との距離が縮まったような気がしたそうです。「当事者が前に立ち、当事者が仕切って講座を深めていくことはすごい」と感心されたとの話に、みんな自分が褒められたような気分になりました。

 吃音のことを、昨日、思いがけずにカミングアウトしたという人もいました。朝礼の司会で「おはようございます」の、「お」が全然出てこず、1分くらい黙ったままだったそうです。自分では周りに吃音が知られていると思っていたのが、黙ったままの状態に、周りがざわつき、「脳梗塞と違うか、これはやばいぞ」と心配されました。このままでは病気と間違われる、それなら吃音を公表しようと、「お騒がせしました。僕は、どもっていて、ことばが出ないときがあります。そのことを言わなければいけなかったのに、これまで言わずに失礼しました。次もきっと出ません」と「どもり」をカミングアウトできて、解放されて自由だ!と、晴れ晴れとした顔で話していました。

 先日の新・吃音ショートコースの場で、ことば文学賞の発表がありましたが、そこで、普段文章を書くことが得意ではなく、またその他の賞ももらったことがないと本人が言う人が、11篇の応募作の中の3篇に入る優秀賞をとったうれしさを笑顔いっぱいで表現しました。「夢みたいです」とのことばに「夢やがな」とつっこみが入り、大いに笑いました。

 高校入学後すぐに不登校になっていた青年が、大阪吃音教室と出会い、変わり始めて、通信制の高校に行き直し、大学生になりました。その学生が、英語の弁論大会に出て3位になったと、英語でプレゼンを始めました。パワーポイントのスライドのようなものを用意し、映画が好きで、特にクリントイーストウッドが好きだということを、暗記した英語で話しました。大阪吃音教室に初めて来たときとはまるで別人です。このように、ひとりの青年が大きく成長していく道のりとその成果を発表できる忘年会に、大きな意義を思いました。

 仕事の傍ら、勉強して、行政書士や司法書士、宅地建物取引士の資格をとった人もいました。ひとりひとりの一念の成長を互いに確認でき、またそれを話せる場が忘年会なのです。

忘年会 伊藤の語り

 僕は4月にあった大学の同窓会の話から話し始めました。定年退職して10年以上経っている人たちの多くは、もう社会的な活動はしていません。それに比べ、吃音講習会、吃音親子サマーキャンプはじめ、各地での吃音キャンプ、新・吃音ショートコースなどの場がある僕は、本当に幸せです。吃音に悩み、苦しんだけれど、今は、そのおかげで、幸せな生活を送っています。吃音の奥の深さを改めて感じることができた一年でした。

 みんなのスピーチが終わった後、恒例の大阪吃音教室の参加率の高い人の表彰をしました。第1位は、1回休んだだけの人、第2位は2回休んだだけの人が2人もいました。ささやかなプレゼントを贈りました。用事も、病気になることも、体調の悪い日もあるだろうに、毎週金曜日、午後6時45分に、應典院に欠かさず来るということ、容易なことではありません。そこに学びがあるから、出会いがあるから、新しい価値観との出会いがあるから、何よりみんなと話すのが楽しいから、やりくりして参加するのだろうと思います。そんな皆さんに敬意を表し、そして、来年も、ともに應典院での出会いを続けていけたらと願います。

 余韻をもって終わりたいと、毎年思いますが、帰りの時刻表とにらめっこして、やはりバタバタと追い立てるようにして、みんなを送り出しました。

 午後10時13分、みんなを乗せた電車が出ていきます。支払いを済ませ、走って駅に着いたら、電車が入ってきて、みんなが乗り込むところでした。みんなが手を振ってくれました。いい仲間たちです。1年の終わりを、いい仲間と、こうして振り返ることができる幸せをかみしめて、反対方向に走る電車に乗り込みました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2017.12.28