教育関係のみなさんへのお知らせです。

 事実上の最終回となった、第20回吃音ショートコースで、僕たちにナラティヴ・アプローチのワークシヨップをして下さった国重浩一さんからのお知らせです。

 精神医療の世界で地殻変動が起こっていると、向谷地生良さんが、昨日精神医療の分野の支援者のための当事者研究ワークシヨップで話しておられました。それはまた紹介します。

 日本の教育は、どんどん変な方向に向かっています。世界の実情を生で感じることのできる、良い機会だと思います。ニュージーランドは僕が最も行きたい国の一つですが、吃音親子サマーキャンプと重なり参加できないのが残念です。関心のある方参加をご検討下さい。また興味のありそうな方にご紹介下さい。

ワークショップ 「異国(ニュージーランド)で考える学校における子どもの支え方」

  〈通訳および日本語でのディスカッション!〉

 ニュージーランドの学校を訪問し、地元の支援職からの話を聞くことによって、日本の学校や子どもたちを取り巻く環境を外から眺め、子どもたちを支える方法を一緒に再考してみませんか?

【本ワークショップの特長】

☆ ニュージーランドは南半球にあるため、日本の夏休みの期間でも、授業が行われています。北半球の学校は夏休みに入っているため、日本の夏休みに訪問しても生徒が学校にいません。
☆ 実際の学校を訪問し、学校の様子を肌身で感じることができます。
☆ 実際に学校に関わってきた人びとを招いての講話。
☆ 書籍で紹介されている学校現場の見学「いじめ・暴力に向き合う学校づくり」。
☆ 英語および日本語教育、そして翻訳を専門としている通訳者(わかりやすいです)。
☆ 見聞きしたことを振り返り、深め、そして将来を考えていくための、日本語でのディスカッション。

【ワークショップの基本情報】

場所: ニュージーランド(北島)ハミルトン市
期間: 2017年8月13日(日)から8月19日(土) 
(5日間のワークショップ)
費用: ワークショップ参加費+宿泊費(7泊:8/13-8/20)
一人部屋: ¥220,000(税込)
  二人相部屋: ¥184,000(税込)
(なお、渡航費用および食費は含まれません)
募集人数: 16名(最小催行人数10名)
対象: 教職や子どもと家族を支援する職(SC, SSWなど)についている方々など
主催: ダイバーシティ・カウンセリング・ニュージーランド
問合せ先: 国重浩一 ・バーナード紫 (narrative@dcnz.net)

【プログラム(予定)】

8月13日(日)
 PM チェックイン&オリエンテーション(日本語)
8月14日(月)
 AM マオリ族による歓迎のセレモニー&ランチ
 PM 講義(ニュージーランドでの学校の取り組み)
8月15日(火)
 AM ハミルトン市内学校見学
ワイカト大学でランチ
 PM 「振り返り(リフレクション)」(日本語)
8月16日(水)
 AM オークランド市に移動
エッジウォーター高校(Edgewater College)見学
 PM (時間に余裕があればオークランド見学)
8月17日(木)
 AM 講義1
「学校管理者が考える子どもの支え方」
講義2
「学校での支援者が考える子どもの支え方」
 PM 「ニュージーランド教育についての振り返り
(リフレクション)」(日本語)
8月18日(金)
 AM 「NZメガネをかけて見る日本の学校」
(ディスカッション)
 PM 「今後に向けて―自分の目指す方向性と
そのコミュニティ」(日本語)
8月19日(土)
 (オプショナルツアー) ホビット村など
8月20日(日) ニュージーランド発

【ワークショップのコンセプト】

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「私が勧めたいのは、異なった社会の異なった慣習の輸入ではなく、異なった社会の光に照らして、私たち自身の社会で生まれつつある慣習について考えるということです」
「レヴィ=ストロース講義」 2005年 136頁
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 今日本の学校現場では、さまざまな問題や課題を前に一種の手詰まり感が学校関係者や支援職に大きな影を投げかけています。そのことにどう取り組めばよいのか、どう解決すればよいのか見通しが立たず、途方に暮れる感覚が生じている、と言い換えることもできるでしょう。そして当然のことながら、それは学校に通う子どもたち、保護者、そして地域社会にも影響を及ぼしています。

 これらの課題とは、不登校、いじめ、差別、発達障害、虐待やニグレクト、そして、悪化した関係性などにどう取り組むかなどです。不登校状態に陥った子どもを学校に戻すことをめぐっては、明確でかつ有効な方法論は見当たらないように見えます。いじめを見つけた場合にはどのように取り組めばいいのでしょうか。いじめを止めるというだけでなく、その後も続くクラス内の関係にどう対応すればよいのでしょうか。そして、発達障害(グレーゾーンを含む)の子どもにどの程度の適正な配慮ができるのでしょうか。また、訴えの多い保護者に対しては、どのように対応したらその気持ちが収まっていくのでしょうか。

 これらを打開するためのさまざまな方法論が一応は提案されています。ところが、どの方法論が自分たちの直面する状況に対して真に有効であるのかについては不明瞭です。それでも、一応方法論が提示されている以上、問題に有効に対応できないのは、それに取り組まない学校関係者や支援職の責任と見なされてしまうという図式がつきまといます。

 多くの場合、私たちは直面する問題や課題そのものについて、十分に考察する時間もなく、問題解決に向かってしまいます。もしかしたら、その問題や課題そのものが、日本という独特の文化の中だからこそ「そのように見える」かもしれないという点が問われることはありません。別の言い方をすれば、その問題や課題をそもそも作り出しているのは、日本という、それも日本の学校という特殊な文脈であるかもしれないということです。

 そのようなことが本当にあるのでしょうか? 不登校、発達障害、いじめ、差別、関係性のこじれなどの問題は、当然他の国にも存在します。ただ、どのように「見えている」のか、大きな違いがあるのです。ニュージーランドでは、学校に来ないだけで「不登校児」にはなりませんし、親が子どもの養育について及第点をもらえるなら、親に原因があるとして社会的に責められることはありません。学校に来ないという現象にどのような意味を与え、どこに原因があるかを想定するのは、社会文化的なことなのです。クレームをつけてくる保護者はいますが、「モンスターペアレンツ」と呼ばれることはありません。

 日本独自のことを自分の目で見えるようになるためには、身体的かつ精神的にその場を離れる必要があります。つまり日本という土俵を離れ、外側からからそこを見つめるという作業が必要となるのです。

 本ワークショップでは、ニュージーランドの学校現場を自分の目で見て、その場の雰囲気を感じ取ってもらいます。自分の身をまったく異なる文化圏の学校に置くことによって、さまざまなことを感じることができます。そして、そこに働く教職・支援職の者から、ニュージーランドの学校における問題や課題、それに対する取り組み方法について語ってもらいましょう。

 これは、どちらのやり方が優れているかという比較の問題ではありません。他文化で培われた方法論をそのまま日本に持ち込んでもうまくいきません。そうではなく、ニュージーランドにおける社会文化的な視点を通じて、日本の問題や課題を眺め、それらを別の角度から「見る」ことができるようになるためです。問題を眺める視点が多様化すれば、問題への取組方法の可能性が広がるでしょう。

 何を見聞きし、どう理解したかは、一人ひとりが自分だけで作り上げるものではありません。同じ状況に身を置くもの同士がそれを共に語ることによって、より豊かな理解がもたらされます。そのため、本ワークショップでは、ファシリテーターのもとで、日本語でディスカッションをする時間もしっかりと組み込まれています。

【ニュージーランドという国とその教育】

 日本からほぼ真南に日本と同じ島国ニュージーランドがあります。その人口は460万人ほどです。国土は、日本の面積のおよそ7割。そのため日本に比べると人口密度がたいへん小さな国です。
英国系金融機関HSBCの調査では「住みやすい国」ランキングで総合2位に入りました。(http://www.hsbc.com/news-and-insight/media-resources/media-releases/2016/singapore-tops-the-charts-as-best-overall-destination-for-expats)

 また、3年毎に行われるによるOECD生徒の学習到達度調査(PISA)では、初回の調査で、数学的リテラシー3位、読解力3位、科学的リテラシー6位でした。最も最近に行われた2015年の調査では、順位を落とし、数学的リテラシー21位、読解力11位、科学的リテラシー10位となっています。しかし、ニュージーランドでは、この調査による成績向上を目指した教育をしているわけではありません。

 ニュージーランドの義務教育は5歳の誕生日から16歳前までの10年間となっています。学校の形態は小学校、中学校、高校の他に、小中一貫校、中高一貫校、小中高一貫校とさまざまです。基本的に小・中・高校入学のための入学試験はなく、生徒たちは学区で定められた最寄りの学校へ通うことができます。

 ほとんどの学校が一学年4学期制を採用しており、1学期は1月下旬に始まり12月中旬に4学期が終了します。1学期は10週間で、学期と学期の間には約2週間のスクールホリデーがあります。学年の終わりには、クリスマスとニューイヤーを挟んだ約1ヶ月は長期休暇があります。

【「いじめ・暴力に向き合う学校づくり」】

ジョン・ウィンズレイド&マイケル ウィリアムズ(著) 綾城初穂(訳) 新曜社 2016年

「集団があれば、対立がつきものです。学校も例外ではありません。いじめや暴力は許さない、という目標をかかげて規律を厳しくしても、効果は望めません。対立をなくすのではなく、悪くなった関係性を修復する仕方を身につけることが重要です。対立の背景は様々ですから、その方法は1つではありませんが、当事者たちやまわりの人々が対立をどうとらえているか=ストーリーがポイントです。本書で詳しく紹介される関係修復の方法を学校で取り入れ、学べば、その後に出会う対立に対処してゆく一生の財産になるでしょう」

 本ワークショップでは、 マイケル・ウィリアムズの勤務するエッジウォーター高校を訪問し、その実践について語ってもらうスケジュールを組んでいます。

【通訳およびファシリテーター】

【バーナード紫】
東京都渋谷区生まれ。ロンドン大学教育研究所修士課程修了(英語教育)。ワイカト大学教育学部教育研究科ディプロマ修了(カウンセリング)。現在、ニュージーランド在住 翻訳家,コミュニティ通訳士。

【国重浩一】
東京都墨田区生まれ。ワイカト大学カウンセリング大学院修了。鹿児島県スクールカウンセラー,東日本大震災時の宮城県緊急派遣カウンセラーなどを経て,現在、日本臨床心理士,ニュージーランド・カウンセリング協会員,ダイバーシティ・カウンセリング・ニュージーランド マネージャー兼スーパーバイザー,カウンセラー。

【書籍および訳書】
「ナラティヴ・セラピーの会話術」 2013
「震災被災地で心理援助職に何ができるのか?」 2014
「ナラティヴ・アプローチの理論から実践まで」 2008
「ナラティヴ・メディエーション」 2010
「心理援助職のためのスーパービジョン」 2012
「ナラティヴ・セラピストになる」 2015
「サボタージュ・マニュアル」 2015
「精神病と統合失調症の新しい理解」 2016

【ワークショップの申込先はこちらから!】
 http://goo.gl/OJPT5h

【問い合わせ(国重浩一、バーナード紫)】
  narrative@dcnz.net

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2017/03/19