どもる人に伝えたい、当事者研究
今、ブログで書いている、ナラティヴ・コロキウムへの参加で駒澤大学に行った時、べてるの家の向谷地生良さんと、ばったりレストランで合ったことを書きましたが、今日は、向谷地さんとべてるメンバーを講師に迎えての、研究会に参加してきました。10時から17過ぎまで、たっぷりと大好きな当事者研究の世界に浸ってきました。
イギリス、イタリア、フィンランドの海外研修、というよりは当事者研究を海外に紹介してきた時の話は、また書きますが、今回は、当事者研究の応用のような話です。
向谷地さんの勤務する大学では、精神保健福祉士と社会保健福祉士の国家資格を受験するコースがあります。向谷地さんは精神保健福祉士の担当なのですが、大学としては合格率を高めたい。向谷地さんが言うには「私は当事者研究しか知りませんので、学生に当事者研究」を一緒にしたそうです。国家試験には実習がつきものです。実習の前に「実習先でどうな苦労をすると思うか」と「苦労の先取り」をして当事者研究をします。緊張すると頭が真っ白になって、「どんな経験をしましたか?」と質問をされても、頭が真っ白になつてちゃんと受け答えができないかもしれない、という学生たちは、「緊張型パニック症候群」などと、病名をつけてグループになって、ワイワイガヤガヤと当事者研究をする。研究して気づいたことを記録して実習に備えるのでしょう。事前に研究をしておくと、同じパニック状態になっても対処できると予感ができるのでしょう。
そして、実習の打ち合わせの時に、スーパーバイザーの担当者に、「私は、こんな苦労をするかもしれませんが、その苦労とのつきあい方を実習を通して工夫することを、実習の課題とします」と説明します。
そうして実習が始まると予想した苦労が起こる。事前の打ち合わせで何も言わなかった学生が、「今日の実習でどんな経験をしましたか」と質問されて、あまり発言できなかったら、消極的な人だと評価される。しかし、事前にそれが私の課題だからと表明しておくと、自己観察ができて、自分をしっている人と思われる。同じように、しどろもどろになつても、この学生は自分の課題を知っていて、努力しようとしていると評価される。
こうして、それがどう影響したかはわからないものの、模擬試験を8回ほどした社会保健福祉士の合格率は変わらないが、当事者研究をしていた精神保健福祉士の合格率は、模擬試験は2回しかしていないのに、年を追うごとにかなりアップしたそうです。
どもる人が、精神保健福祉士、社会保健福祉士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の資格を取るための国家試験を受ける人は年々増えると、僕は予想しています。どもる人がこれらの実習に行くときに、向谷地さんの大学での経験は大いに参考になると思います。どもらない学生でも、実習は緊張するし、意見や感想を求められても、落ち着いている時と比べてうまく言えなものです。まして、どもる人にとっては、実習はかなりハードルが高いと思います。
どもる人が、できるだけどもらずに、どもることがわからないように、どもりを隠して実習を乗り切ろうとすると、多く場合うまくいかないと思います。今後、実習について相談を受けたとき、向谷地さんの大学の学生の経験を伝え、一緒に作戦を練ろうと思います。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2017/03/18