刺激的なナラティヴの世界


 早3月に入りました。1月9日の、渋谷でのイベントがつい最近のように感じられます。2016年度もあと1ヶ月になり、2017年7月29・30日の第6回吃音講習会の概要がだんだんはっきりしてきて、そのための準備も少しずつ始まりました。

 3月は、そのための準備の学びの月になりそうです。ナラティヴの研修が2回、東京であります。今回のナラティヴ・コロキウムと、3月末の土日に1回です。

 初日のワークショップ「ベイトソン・セミナー」は、事前の学習が宿題として出ていたので、その論文を読んだのですが、とても難しいです。なぜこのワークショップを選択したのだろうと時に思いながら、そのおかげで勉強できるのだと思い直し、読み進めました。そのワークショップに参加した人の多くが「難しかった」と言っているのを聞き、少し安心しましたが。
 思えば、この年になって、新しいことを学ぼうとするなんて、我ながら感心します。これも、吃音の恩恵でしょう。言語病理学からだけ吃音を考えていたら、「吃音を改善する」言語治療や言語指導だけを考えていたら、これほどの広い学びはなかったでしょう。言語病理学の枠を飛び出し、広く、精神医学、臨床心理学、社会学、演劇、教育などに関心を広げたからこそ、得られたものです。
 「吃音の奥にある豊かな世界」と映画監督の羽仁進さんが言ってくれていましたが、今、その、吃音の豊かな世界を、奥深さを味わっています。

 東京・駒澤大学であったそのナラティヴ・コロキウムでの、おもしろいできごとをひとつ。またまた、奇跡の出会いがありました。

 午前中の「ベイトソン」のワークショップを終え、昼食休憩の時間です。朝のうちに見つけていた店に入る予定だったのですが、その日は夜だけの営業で入れませんでした。どこで食べようかと会場からどんどん離れて行ったところで、インド料理の店をみつけ、ふらっと入りました。そのとき、店の奥から「ようっ、伊藤さん」と声がかかりました。見ると、そこにいたのは、べてるの家の向谷地生良さんでした。今回は、ナラティヴ・アプローチの研修なので、出会う可能性はあったのですが、たくさんある飲食店で出会うなんて不思議です。おかげでいろんな話ができました。

 以前もブログで書いたのですが、向谷地さんとの奇跡の出会いは、今回が初めてではないのです。島根スタタリングフォーラム(島根県のことばの教室の担当者が開催するどもる子どもと親のためのキャンプ)が開かれた前日に、島根のことばの教室の担当者との懇談会がありました。豚肉料理の店に入って食事を済ませて帰るとき、隣の部屋から聞こえてきた、聞き覚えのある声の主が、向谷地さんでした。北海道浦河の向谷地さんと大阪の僕が、島根県浜田市の小さなレストランで出会うなんて、どれだけの確率で起こることでしょう。まさに奇跡だと思ったのですが、その奇跡に近いことが、2度もあると、これは、出会うべくして出会ったということなのでしょうか。

 人と人の出会いは本当に不思議なものだと思います。
 偶然の出会いといえば、ナラティヴ・コロキウムの2日目、駒沢大学の会場で書籍販売のコーナーに立ち寄ってみると、「伊藤さん」と声がかかりました。1月の渋谷の映画とトークのイベントでご一緒した医学書院の編集者、白石正明さんでした。オープンダイアローグの本を編集した人なので、不思議でもないのですが、まさかお会いできるとは思っていなかったので、驚きました。知らない人ばかりの研修会だったので、知っている人と出会えたのは、とてもうれしいことでした。

 こんな偶然の出会いが僕にはたくさんあります。多くの人がそんな経験をしているのかもしれませんが、僕の場合、その出会いが、後々につながっていっているから、不思議です。まさに、偶然の出会い、風に吹かれて生きてきた僕らしい東京での一コマでした。

 ナラティヴ・コロキウムの様子と内容は次回から紹介します。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2017/03/07