明日から群馬でのキャンプです。どんな出会いがあるか楽しみです。岡山、島根のことはまた報告します。
大学生との対話はまだ続きます。彼たちふたりは、大学名や自分の名前を公開することを快く承諾してくれました。自分たちの経験が、今悩んでいる子どもたちや、子どもの将来の不安をもつている保護者の役に少しでたつのならと言ってくれました。とてもありがたいことです。
前回の対話の続きです。
伊藤 森田君は、どう。小・中・高校と、どんな子でしたか?
森田 僕は、小学校では悩んでいました。さっきも、話があったけど、どもりもひどくて、そのくせ、発表を積極的にして、授業の時間を僕がどもって時間がかかるので、半分くらいつぶすという、(笑い)
伊藤 すごいね、堂々たる人生やね。
森田 それで結局、地元の中学校にそのまま進むのが嫌で、受験をして、県立の中学校に行った。そしたら、周りが理解があるというか、いい環境だったので、それから悩むことがほとんどなくなって、そのまま大学にいって、今にいたっています。
伊藤 周りの環境がいいというのは、偶然というか、ラッキーだったわけだ。自分で何かしたわけではないのね。
森田 ラッキーというか、受験して入る中学校だったから、生徒も選ばれてるだけあって、人間ができているというか、(笑い)
伊藤 悪ガキではなかったわけか。みんなも、自分の勉強に精一杯で、他人のどもりなどにかかわっていられないということかな。
森田 まあ、そういうことかもしれないです。
伊藤 二人とも、環境がよかったと言えるね。植田さんの場合も、偶然?
植田 そうですね。そのまま中学校にあがったので。
伊藤 植田さんの場合は、受験で選ばれてきた子ではなかったけれど、そのまま上がった子で、そんなに言われなかったということだね。考えたら、僕も小学校のときは、からかわれたり笑われたりしたけど、中学校のときはなかった。全くなかったけれど、それでも僕はすごく悩んでいた。ということは、君たちは、鈍感だったの?(笑い) 周りがいくら理解してくれたとしても、からかったりしなくても、しゃべりにくいということは、変わらない。僕は、どもること自体に悩んでいたけれど、なぜ平気だったのかな?
森田 宣伝みたいになるけど、伊藤さん主催の滋賀で行われている、吃音親子サマーキャンプに参加したのがきっかけだと思います。どもる大人がスタッフとしてたくさん参加していて、それを見て、どもっていても社会でやっていけるということを感じて、それが一番大きかったと思います。
伊藤 なるほど。どもりながら有名人になったり、特別な才能があるというのではなくて、どもりながら、特別な才能もないけど、それなりに社会人として就職して生きている人の存在は、具体的な身近な見本になるよね。それは、僕にもよく分かる。僕もなんとか生きていけるなと思ったのは、全く同じで、1965年の夏に、東京正生学院というところに行って、発声練習や呼吸練習をいっぱいして、結局は全然効果はなかった。治らなかったけれど、よかったこともある。東京正生学院という、どもりを治したい人が集まってくる所なんだけど、そこにずっといるわけではなくて、1週間なり10日いたら、みんな地元に帰る。その人たちは、地元に帰ったら、農業をしていたり、学校の先生をしていたり、お坊さんをしていたり、社長をしてたり、ちゃんと生きいる。あっ、そうか、どもりながらでも、生きていけるのかと思った。それまでは、どもっていたら、就職して社会人になるなんて、想像もできなくていたんだけれど、実際に仕事をしている社会人に話をきけたことは、僕にとってとても大きかった。なるほどね。
環境がよかったことのほかに何か、こういうことが自分にとってはよかったと思いつくことはある?
植田 面接練習のときもそうだったんですけど、どもっても、認めてくれるた。先生方が「大丈夫」と言ってくれたこと。
伊藤 それは誰?
植田 面接対策の先生。大学院でも、僕がどもっていても、僕に対する対応は何も変わらなくて、相手の態度で、そのままで自分はいいんだなあと認められたというのが、大きい。
伊藤 そのままのどもっている自分を、大学の先生や周りの人たちが認めてくれた。同級生ではなくて、ちょっと上の先生がということですか。大人が認めてくれているということも大きい?
植田 そうですね。
伊藤 友だちから、「大丈夫だよ」と言われたら、どう?
植田 友だちは、まだ知らないと思うんです。
伊藤 君のどもりを?
植田 はい。
伊藤 なんで? これだけどもってるのに?
植田 そうですか。
伊藤 うん。かなりどもっているよ。
植田 緊張しない場ではあまりどもりが出ないので、分からないみたい。
伊藤 友だちの前ではあまり出ない?
植田 出ないですね。発表だとちょっと止まったりします。
伊藤 じゃ、周りに、君がどもりだと思っている人はいないの?
植田 いないです。
伊藤 森田君の場合は、周りの人全員が分かるよね。
森田 はい。
伊藤 植田君の場合は、子どもの頃から、そうなの? 周りは分からなかったの?
植田 分からなかったのが、逆につらかったというか、悩む要因でもあったと思います。周りが分からないので、自分だけ隠すというか、人にどもりのことについて、何も言えないという部分があった。
伊藤 なるほど。悩んでいたけれど、自分はこんなことで困っているんだということを周りには言えなかったんだ。言っても、あまりどもっていないので、分かってくれなかったかもしれないね。全然どもってないと言われるかもしれない。自分のことは分かってもらえないなあと思っていたわけか。親もそうですか。
植田 そうですね。親も分かってないと思います。
伊藤 今は?
植田 今も分かっていないと思います。
伊藤 えっ!! それは君が言ってないから?
植田 言ってないのもそうだけど、あんまり出ないというか。
伊藤 今年、吃音親子サマーキャンプに高校3年生の女の子が2人参加したんだけど、2人とも、親に初めてどもりで悩んでいると言った。そのうちのひとりは、親から全然どもっていないよと言われて、サマーキャンプに行くと言ったら、行く必要ないと言われて、困って僕に相談してしてきた。親に内緒で申し込んで参加されても困ると思って、親の推薦状をと言ったけど、なかなか来なくて、ようやく親と連絡がとれて、結局参加した。そんな子がいたけど、サマーキャンプに来て、すごく変わった。親の前でもあまりどもらないと分からないものだったんだね。隠すのに一生懸命だったというわけではない?
植田 そういう気持ちもあったんですけど、もうここまで来たら、言うタイミングがないなあと、
伊藤 隠し通すしかないということか。だから、どもりというのは、理解されない部分があるよね。でも、森田君の場合は、派手にどもっていたから、お母さんも知ってたし、サマーキャンプにも来たし。植田さんが大きく変わったのは、クラブということでしたが、何のクラブ?
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016年11月4日