吃音キャンプロードの始まりは、静岡でした。岡山、島根と続き、今週末は群馬です。
ぼちぼち紹介したいと思いますが、まずは、若い二人との対話から紹介します。
今年は、どもる子どもの保護者、ことばの教室の教師・言語聴覚士への講演と、大学生ふたりとの語り、そしてグループに分かれての話し合いでした。
講演会は、初めてのスタイルで少し自己紹介をしたあと、質問を書いてもらって、そのすべてに答えた後、大学生ふたりと僕との対話をしました。素直に僕の質問に答えてくれました。
紹介します。
吃音について語ろうー大学生ふたりと伊藤伸二
自己紹介
植田 静岡大学教職員大学院の植田康頌です。
森田 浜松医科大学2年生の森田俊哉です。
伊藤 なぜ、どういう経過で、ここに座らされているのですか。
植田 大学院に入るまで、吃音は嫌で、ネックというか、そういう自分が認められなかった。大学院に入って、研究テーマとして、子どもたちへのかかわり方を設定した。先生方から、この静岡わくわくキャンプを紹介してもらって、ここに座っています。
伊藤 子どもへのかかわり方って、どもる子どもということではなく、広く子どもとのかかわり方ですか、それを研究テーマとしたら、ここを紹介されたのか。
植田 そうです。
伊藤 今、こんなに大勢の前に座ってみて、どんな感じですか。
植田 思ったより、緊張してないなあ。
伊藤 よかった。最初、緊張すると思ったの? こういう人前に顔をさらすのは、あまりない経験ですか?
植田 得意じゃないです。
伊藤 よく引き受けましたね。君は。
森田 私の場合は、この静岡のキャンプは今年が第15回だそうですが、第1回のときに、小学校4年で参加した。そこから、ずっと親がこの会とつながりを持っていたみたいで、去年、このようなゲストとして招かれて、今年もまたということで、ここにいます。
伊藤 今、ここには、ことばの教室の教員やどもる子どもの保護者がいますが、何かおっしゃりたいことはありますか。
植田 どもっていても、なんとなる。悩むことはあるけど、ここまでなんとかこれたので、吃音を自分のものとして受け止めて、これから生きていくというのが大事かなと思います。
伊藤 やっぱり悩んだ時期もあった?
植田 そうですね。
伊藤 いつごろが一番苦しかったですか。
植田 大学の4年生の就職の時期です。高校受験のときに、面接があって、そこで盛大にどもって、それがトラウマになっていました。大学4年生で、公務員試験を受験したけど、筆記は通るけど、面接試験がだめ。4つのうち2つ失敗して、残りの2つは、逃げました。
伊藤 逃げたってどういうこと?
植田 面接試験をやめたんです。
伊藤 筆記試験を受けて合格して、次は面接と言われたけれど、「面接、いいです」と言った。結果として、就職はあきらめて大学院に行くことになった、ということ?
植田 大学4年生で、特別支援学校の実習体験というのがあって、そこで、障害のある子どもたちとのかかわりを持った。自分も吃音で苦しんだことがあるので、それを生かせないかなと考えた。特別支援系の勉強をしてこなかったので、大学院で勉強しようと思って、大学院に入学しました。
伊藤 大学院入学のときの面接はどうだったの?
植田 かなりどもりました。
伊藤 でも、それは大丈夫だったんだ。高校受験のとき、盛大にどもったけれど、大学院の受験では、かなりどもったけれど、合格だったんだね。
植田 はい。
伊藤 じゃ、成功だったんだ。
植田 一応。
伊藤 小中高の時代は、どうでしたか?
植田 小学校のころは、少しからかわれたりしたんですけど、さほど悩んだことはない。中学校、高校は、吃音より勉強と部活で精一杯で、逆に悩んでいる時間がなかった。
伊藤 悩んでいる人間は、ひま人間ということか。(笑い)
植田 ほかのことで、生きるのに精一杯だった。
伊藤 そうだよね。分かるよね。古い話になるけど、戦時中に兵隊にいって、ほんとに死ぬか生きるかというとき、どもりなんて全然問題にならなかったという人に合ったことがあります。
植田 戦争っていうほどのことはないですが。
伊藤 そうね、そんなに大変なことではないけど、やっぱり生きるのに精一杯だったわけだ。中学、高校は勉強と部活があってからだけど、小学校のとき、どうして大丈夫だったと自分では思いますか。
植田 父や母は、先生と同じように、吃音について何も言ってこなかった。
伊藤 困ってないかとか、悩んでないかとか、聞いてこなかったの?
植田 何も言われなかった。
伊藤 平気な顔をしてたわけか。
植田 何も知らされなかった。
伊藤 でも君は、家でも、どもってたんでしょ。
植田 連発してました。
伊藤 だけど、親は気にしてないの?
植田 はい。
伊藤 気にしてない親に対して、どう思ってたの?
植田 知っていて、知らんぷりしてるのかなと思っていました。
伊藤 知らんぷりしてるのかなって? 聞いてほしいと思ったことはあるの。
植田 あるけど、聞いてほしくない気持ちもあった。
伊藤 そうね。もし、聞いてくれてたら、吃音について言ってたかもしれない?
植田 言ってましたね。
伊藤 そうか、そうか。親は聞いてくれなかったけれど、それほど悩むことはなかったのは、どうしてだろう?
植田 周りの友だちも、本気でからかうのではなくて、ちょっとからかう程度だったので、気にせずにいられました。
伊藤 かなりからかわれたら、気になっていたかもしれない?
植田 そうですね。
伊藤 からかわれても、それを気にしないという強さは、なかったのかな。
植田 そうですね。
伊藤 じゃ、環境に恵まれたということか。
植田 はい。
伊藤 中学校、高校になったら、部活や勉強で忙しくて、大学の就職活動ではかなり悩んだ。そういうことがあったのに、今は大丈夫と思えるのはなぜ?
植田 教員採用試験を受験したんですが、1年目は、自分の吃音を隠したまま受験して、どもることも嫌だったので、面接練習もせずに臨んだら、だめでした。2年目の今年は、どもるということを面接の書類に書いて、教員を志望する理由にも、吃音ということを書いて、本番でも、どもりながらしゃべったら、合格しました。やっぱり、そうやって吃音を自分で認めるのは大事なのかなと思いました。
伊藤 確かにそうだよね。吃音を認めたくなくて、どもらないように、どもらないように、一生懸命に面接を受けている姿を見ている面接官は、こいつやましいことがあるのではないかとか、何か隠している怪しいとか、思うよね。
植田 そうですね。
伊藤 どもる人が誤解される原因として、自分のどもりを隠しておいて、どもる僕たちを理解してほしいと言う。それは無理ですよ。自分をそのまま出して、そのままで、よければどうぞ採用して下さいという姿勢でないと、理解はしてもらえない。そんな感じですか。
植田 はい。
伊藤 子どものころは、ことばの教室には行ってなかったの。
植田 そうですね。担任の先生にも、僕がどもることがみつからなかったというか、
伊藤 ごまかしてたのか。
植田 ごまかすというか、連発はちょっと出てたんですけどね。
伊藤 あんまり学校ではどもってなかったのかな。
植田 はい。
伊藤 君のどもりに、かなりの波があるの?
植田 ありますね。今でこそ、ちょっとしゃべれますけど、場面が変わると、ことばが出ないときがいっぱいあって、電話やあいさつはそんなに得意じゃない。そんなときは、無言状態が続きます。
伊藤 だけどまあ、なんとかやっていけそうな感じがする?
植田 そうですね。どもって、つまっても、待って聞いてくれる人が多いので。
伊藤 実は聞いてくれる人の方が多いよね。悩んでいるときは、待ってくれないんじゃないかと思うけど、そうではない。森田君は、どう。小・中・高校と、どんな子でしたか?
つづきます。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/11/03