「吃音の当事者研究」の発表者藤岡千恵さんの、スライドと発表原稿をみんなで検討する中で、おもしろい論議がありました。「吃音をコントロールする術を身につけた」の表現に僕は疑問を投げかけました。 今後考えたいテーマなので、やりとりをそのまま、紹介します。
 藤岡さんと最初に出会ったときは、ほとんど彼女が吃音だとはわからないくらい、どもらないで話していました。今は、気持ちよいくらい、どもります。そして、今がとても楽だといいます。
 吃音のコントロールの論議を紹介する前に、藤岡さんの発表を紹介します。


藤岡 千恵の当事者研究

歴史
◇幼少の頃…どもりに出会う
 →両親にどもりを指摘される、言い直しをさせられる。「私のしゃべり方はおかしいの?」
◇小学校入学…劣等感が芽生える
 →国語の音読などで、クラスメイトとの違いを意識する。真似される、笑われる。
◇小学校高学年…コントロールする術を身につける
 母から「どもりが治ってよかったね」
◇19歳…母に初めて打ち明ける
 就職を前にして母に涙ながらに打ち明ける「実はどもりが治っていない。今も悩んでいる。就職したくない」
◇21歳…大阪吃音教室と出会う
 仕事で行き詰まり、意を決して、どもる大人のセルフヘルプグループ「大阪吃音教室」を訪れるが、どもりを受け入れられない自分には「合わない」と去る
◇29歳…再び、大阪吃音教室と出会う
 なんとかごまかしてやってきたが社会の中で生きるうちに「これは治るたぐいのものではない」と確信した。22歳頃から服用を始めた精神薬をやめるためにも「自分の核心部分から目をそらさないで、吃音を向き合いたい」と思い、再び「大阪吃音教室」を訪れる
◇40歳…現在。のびのびと(!?)どもりながら、自分を発揮して生きている。

私にとってのどもり
◆かつては、私もどもりをマイナスととらえ、「どもりを治さなければいけない」と思い、常にコントロールして喋っていた。
少しでもどもりが出そうになると「気づかれたのでは?」と心配。
Q. なぜそこまで心配するのか?
「どもっていたら愛されない」
→両親に言い直しをさせられていた経験から「どもる私は愛されない。どもらなければ親が認めてくれる」
「私のどもりがバレたら、見下される」
クラスメイトに笑われた経験から「どもりは笑われる対象」

◆話すことの多い仕事で行き詰まったことにより大阪吃音教室に出会ったけれど、どもる事実をどうしても受け入れられなかった。
どもる仲間を直視できず、グループを去った。
治る希望を持ち「催眠療法」を受けたくて精神科を受診。薬の服用をはじめる。

◆どもりは私を苦しめる「諸悪の根源」。「この世から消し去りたい存在」「どもりのせいで私は自分の思い描いた人生から少し離れているかもしれない」「どもりさえ治ればいい」
どもりを治す努力をしたわけではないが、感覚で「治らない」と確信。それでも隠せるなら死ぬまで隠し通したい。
精神的なしんどさがいつまでも晴れない。「薬をいつまで飲み続けるんだろう」「薬をやめたい」「それには吃音と向き合うしかない」
「私にとって吃音は手強すぎて、一人では自信がない」「あの人たちと一緒なら向き合えそうな気がする」

◆再び訪れた大阪吃音教室「よく来たね」
そこからは学ぶこと、語ること、経験することのすべてが楽しい。自分に染み入る。
・アサーション・論理療法・交流分析・認知行動療法・森田療法・内観療法・ゲシュタルトセラピー・アドラー心理学・サイコドラマ・当事者研究・ナラティブアプローチ・レジリエンス・仏教・言語病理学の考え方(言語関係図、吃音の氷山説、吃音評価法)・話す聞く書く読むアプローチ・コミュニケーション能力を高める・ことばのレッスン(自分のことばを大切にする、日本語を味わう)
これらを年間を通して学び、仲間と語り、お互いにフィードバックし合う。この循環を続けるうちに(正しい知識を得る、認知の歪みが修正、仲間の経験に刺激を受ける)自分を発揮して生きることの楽しさを全身で味わう。「どもる自分のままでOK」
私の人生の回復に必要だった三つの要素「共同体感覚(他者信頼、他者貢献、自己肯定)」が常に循環。より強化。
家族や友人、知人にどもりを伝えても、誰も何も変わらない「私がどもろうが、どもるまいが、何も関係ない」。
長年かけて自然に身につけていた「どもりのコントロール」を徐々に外していった。
どもるそのままの自分で、表現したいことを、表現したいように、思う存分表現できる身軽さ。

◆吃音親子サマーキャンプ
どもる子ども、どもる子どもに同行する親や専門家などの「どもりを一緒に考える仲間」が増えた。
どもる子どもたちの世界の豊かさ。
年に1回、滋賀の彦根で全国のどもる子どもたちと2泊3日の合宿をしている。(参加者は全員で約140名。今年で27回目の開催となった)どもる子どもたちは小学校1年生の頃から、どもりのこと、自分のこと、友達、恋愛、将来の仕事、結婚など、語り合う。どもりは100人に1人の割合ということから「神さまが僕たちを選んで、どもりをプレゼントしてくれたんだ」と話す。自分を語ることばを持ち、自分の力を発揮して豊かに生きる子どもたち。

「私にとってどもりは、長年自分を苦しめてきた(と思っていた)存在だけど、どもりでなかったらこの仲間たちには出会えなかった。この素晴らしい経験ができなかった。そう思うと、どもりでよかったと心から思う。どもりでなかったら、こんな風に自分のことや生きることについて深く考えただろうか?この経験ができた人生を思うと、どもりに感謝」
「どもり=マイナス」だけではない。むしろ、どもりは豊かに生きるテーマになる。
どもりに悩む子ども、大人に、これからも、どもりの世界のユーモア、豊かさを、発信していきたい。

大阪吃音教室の講座(一例)

どもりと上手につきあうために・吃音基礎知識・自分のどもりの課題を分析する・と゛もりカルタ・吃音川柳・聴き上手になろう・質問上手になろう・ 一分間スヒ゜ーチ・ホ゛イストレーニンク゛(自分の声やことばを磨く、日本語の豊かさを味わう、表現することの楽しさを味わう)・ことは゛文学賞(吃音体験を綴る)・ 電話とのつき合い方・ 職場て゛の吃音について考える・吃音恐怖と予期不安・朗読を楽しむ・狂言に学ふ゛・と゛もって声か゛出ない時の対処法・インタヒ゛ューケ゛ーム・吃音とともに生きた著名人・文学作品に描かれた吃音・エリクソンのライフサイクル論・アサーション・論理療法・交流分析・認知行動療法・森田療法・内観療法・ゲシュタルトセラピー・アドラー心理学・サイコドラマ・当事者研究・ナラティブアプローチ・レジリエンス・仏教・言語病理学の考え方(言語関係図、吃音の氷山説、吃音評価法)

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016年10月20日