2016  沖縄 キャンプ実行委員会


2016 沖縄3
 
 変わる勇気と覚悟

 人が変わるとき、かなりのリスクを伴います。これまで通りにしていれば、多少不満足でも、歩み慣れている道なので、ある意味楽です。

 吃音の世界も同じことが言えるのでしょうか。100年以上も吃音の「治療・改善」の努力を続けても、ほとんど効果がないどころか、「治したい」にいつまでもしがみつくことになり、その人の人生を危ういものにしているにもかかわらずです。「こっちがだめなら、こっちの道を」にならないのが、僕には不思議でなりません。変化することの難しさでしょうか。

 沖縄の僕の仲間の変身は見事でした。2012年の夏、第一回臨床家のための吃音講習会に、先輩の言語聴覚士の紹介で参加した彼女は、これまで自分が学び、自分が伝えてきた「吃音」と、僕たちが考え、取り組んでいる吃音のあまりの違いに驚きます。驚いたものの、彼女の感性は「これが本物だ」と感じ取ったのでしょう。2日間の講習会で、彼女は確実に変わったようです。

 しかし、それを沖縄に帰って、言語聴覚士の仲間に伝えるのは、大きなリスクを伴います。これまで、吃音治療法を教えてきた専門家としての自分を否定することになります。「これは、本当かもしれない。どもる人、どもる子どもにとって、こちらの方が役に立つかもしれない」と考えても、いざ方向転換をするとなると、やはり尻込みしてしまうでしょう。しかし、彼女は、前へ突き進みました。

 その年の年末には、僕を沖縄での講演会に講師として呼び、その後、言語聴覚士の研修会を開きました。予想外の100名ほどの人が集まりました。それから毎年、僕を呼び続けました。そして、彼女がまいた「一粒のタネ」は、仲間に広がり、今年の11月、沖縄でキャンプを開こうというビッグな企画につながったのです。

 5月29日は、講演会とワークショップ、30日は、専門学校での講義を行いましたが、それに先立って、28日には、キャンプの実行委員会のメンバーが集まりました。15名ほどの言語聴覚士、ことばの教室の教師の顔を見たとき、僕は涙が出そうになりました。彼女がたった一人で、沖縄の地にまいた「吃音を治すのではなく、どう生きるかだ」が、ここまで広がったのですから。

 言語聴覚士が音頭取りになり、ことばの教室の教師と実行委員会を開いて行うキャンプは初めてです。島根県、静岡県、岡山県、群馬県のキャンプは、僕が講師としてかかわっていますが、どれもみんな、学童期の子どもが中心なので、ことばの教室の教師が中心です。言語聴覚士とことばの教室が連携して行われる吃音キャンプ。沖縄で始まるこの風が、全国に吹いてくれることを願っています。
 「吃音を治す、改善する」ためのキャンプではない、子どものレジリエンスを育てるキャンプがです。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/06/14