吃音についての考え方が、大阪と似ていることにみんなびっくり
アメリカの青年、マイケル・ターナーが監督した吃音のドキュメンタリー映画「The Way We Talk」は、「吃音について話したのは25歳の時が初めてだ」で始まりました。吃音に悩みながらも、家族にも話さず、ひとりで悩んできたマイケルが親友に初めて吃音について語ったことをきっかけに映画作りを決意します。
撮影を開始してから、国際吃音連盟を通して、日本の伊藤伸二の名前を知った彼は、新婚旅行先に日本を選んで、私に会いに来てくれました。私へのインタビューでの彼の真剣なまなざしが忘れられません。インタビュー後、大阪吃音教室にも参加した体験が、映画にどのように影響したかはわかりませんが、彼のナレーションのことば、上映後の大阪吃音教室の参加者の「私たちと似ている」の感想で、少なからず影響を受けたことは確かなようです。
マイケルのナレーションの、気持ちよく軽やかにどもる語りは、バックグラウンド・ミュージックのようだ。どもる声が実に心地よく響きます。
上映後、大きな拍手がありました。大阪の人たちは、満足したようでした。すぐに感想を述べ合うことにしました。
【西田】すごくいい言葉がたくさんあった。心に留めたいと思う言葉が後半から次々に出てきた。今日は、吃音についてのいい言葉が自分の中にいっぱいたまったな」という実感があった。
【山本】映画で泣いたことは初めてです。号泣しました。中盤くらいに、吃音は環境ではなく遺伝だという話がありました。しかも8割が遺伝。これまで自分の中にそういう考えはなかったけど、将来は子どももほしいし…。
最後のシーン、マイケルのお母さんが「自分のこどもが吃音だったら?」とマイケルが「なんとかやっていけると思う」と言ったのはすごく良かった。言語聴覚士がクライアントからの相談に対して「セラピストさんの責任は重い」と言っていたのも印象的だった。人の人生を真剣に思っているんだということが伝わってきた。
【伊藤】 遺伝のあの部分はいただけませんね。まだ分からないことが多いのに、あのように言うなんて、アメリカの吃音研究者はどうかしていると僕は思いますよ。
【有馬】なんとなくアメリカは「吃音を受け入れてどういう風に生きていくか」という考え方よりも「治療していく」という考え方の方が主流なんだと思っていました。だからこの映画を観て、私たちと同じような考え方をしている人がたくさんいることに救われました。そういうことを考えている人がたくさんいるということが率直に意外な思いがしました。そういう風に考える人たちの根底に流れているのは、国が違っても同じなんだなと思いました。さっき山本さんも言ったように、一番最後の方でマイケルと彼のお母さんとの会話が心に残りました。ブランケットを編みながら「全然急かしてるわけじゃないよ」と。「いや、急かしてるやん(笑)」って笑いましたが、ブランケットを編んでいる自分も「間違いがいっぱい」あると。「間違えるけども、最終的にはひとつのブランケットになるんだからそれでいい」と言ったのが象徴的だなと思いました。
【伊藤】結局、「治療」とか「治す」っていうのはセラピストや研究者たちが言っていること。治らなかった人たちは、治療機関や大学が多いアメリカでも、ああいう風に、僕たちのようにならざるを得ないんじゃないかな。今回、僕も意外でした。
【赤坂】「本当に日本もアメリカもどこも同じやねんな」と、ものすごくジーンときました。私よりずっと若い人たちがそんな風に頑張ってくれているのを見て、大阪の吃音親子サマーキャンプのようなことを向こうでもされていて、「仲間のありがたさを感じられるようなグループが向こうにもあって良かったな」と思っています。マイケルはあれだけどもりを認めるようになったのに、お母さんが「子どもがどもりだったらどうする?」と言った時に「どうして彼は即答しなかったのかな」と私は思いました。どもりを認めていても、やっぱり子供はどもらない方がいいのかなと思った。私の方が考えが甘いのでしょうか。私がこれだけ平気になってるから、子どもの心配もしたことがないのですが、「あ、やっぱり子どもがどもることは、みんな嫌なのかな」と思いました。
【伊藤】そういうことじゃないだろうと僕は思うよ。「なんとかやっていける」のことばの前のあの時間が空いたということにそれなりの大きな意味があると思う。即答するよりも、しっかりと考えた上での発言だからこそ、重みと奥の深いものがあるんじゃないかな。
【徳田】ナレーションをずっと聞いていると、後半になるとかなり私たちの考えとよく似てきていると感じました。たとえば冬の森をキャンプしている時、「吃音を嫌うというのは自分を嫌うこと」「僕はこのままでいい」「吃音を認めて、自分を肯定していきたい」というメッセージ。世界的にこんな風になっていればいいのですが、ちょっとこの映画は出来過ぎという感じがしました。オランダ大会の時はヨーロッパの人たちは、私たちに近いとおもったけれど、それまでは世界的にはまだまだこういう考えが浸透していなかったように思う。この映画を世界的にみんなに観てもらったら非常にいいなと思いました。
【伊藤】この8月、アメリカで行われる第11回の世界大会でこれが上映されるので、世界の人たちが観ることになります。そういう意味でマイケルの貢献はとても大きい。日本の僕たちもがんばっているんだということが伝わるのでありがたいよね。
しばらく、感想を掲載します。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/04/19