僕たち、日本吃音臨床研究会では金子書房、ナカニシヤ出版、解放出版社などから吃音に関する書籍を出版していますが、自主出版としての年報を発行しています。さらに、ふたつの教材があります。ビデオ教材と、どもりカルタです。いずれも好評で、多くのことばの教室で使っていただいています。前回、大阪吃音教室での新春どもりカルタの紹介をしましたので、今回、どもる子どもの保護者、ことばの教室の教師向けの教材としての、「学習・どもりカルタ」を紹介します。

 全国のことばの教室に在籍する子どもたちがつくったたくさんの読み札から、インターネットで投票し、みんながこれでいこうと決めた読み札に、どもる子どもの保護者が絵札を描いた、素敵なカルタです。「学習」と名付けたので、読み札、絵札に解説書がつきます。どもるこどもがどんな思いで子の読み札を書いたのが、本人からも聞き、僕たちも想像して開設しました。その解説書の冒頭にかいたのが、紹介する「どもりカルタの意味」です。

 これを作った当時、ナラティヴ・アプローチについてあまり勉強していなかったのですが、勉強し始めた今は、どもりカルタの意味として、後で挙げた9つに付け加えて、これも付け加えたいと思います。
 {ドミナントストーリーからオルタナティヴ・ストーリーへ、無理なく、子どもと一緒に考えられる}

 
 どもりカルタの意味

 話せなかった辛い体験や思いを、自分のことばにして語り、同じように悩んできた人に話して、「そうそう、私も同じ」と聞いてもらい、自分も人の話に聞き入ったときの喜び、うれしさは何ものにも代え難いものとして、私の心の中に残り続けている。

 〈気持ちの分かち合い〉〈情報の分かち合い〉〈考え方の分かち合い〉がセルフヘルプグループの大きな意義だ。私たちは、〈気持ちの分かち合い〉のひとつの形として、過去のできごとを吃音川柳にして笑いとばしてきた。吃音の問題を客観的にとらえ、違う角度から見直すことで、過去は変えられないが、過去への意味づけが変わった。そこから、吃音は恐ろしい、難しい大きな問題ではなく、十分対処可能なものに姿を変えた。

 今回、ことばの教室で「どもりカルタ」の実践を重ねる教師の会の仲間たちと、「どもりカルタ」の制作に取り組んだ。子どもたちのカルタに込められた思いを読み、選び、読み札の解説書をみんなで書いている中で、単なる遊びや〈気持ちの分かち合い〉を超えて「どもりカルタ」の大きな意義を再発見できた。セルフヘルプグループの3つの意義が体験できるだけでなく、芸術療法としての意義に気づいたのだ。

 音楽、絵画などの芸術療法として、詩歌療法は、詩のもつリズムによるコミュニケーション機能、リズムとことば、カタルシス機能などの力によって、諸外国では、心理療法の一翼を担っている。それに比べ日本では、1990年、『俳句・連句療法』(創元社〉が初めての本といえるくらい、大きな注目は浴びていない。

 音声言語表現に直接結びつく詩歌療法は、吃音の臨床に大いなる可能性をもつ。
 カルタのべースにある俳句は、学校教育でも教えられ、日本人にとって日常生活に入り込むほどに馴染みが深い。俳句と違つてテーマを自ら抱える問題に絞り込むために、吃音の体験や、吃音への思いや考えを比較的たやすく表現できる。今回「どもりカルタ」の制作の過程で、いわゆる療法ではなく、吃音臨床の学習教材として使えることが分かったのは、大きな収穫だった。その意義についてまとめる。

 ゝせちや考えの言語化による力タルシス効果がある。
◆’亢腓魎靄椶箸靴唇貅景源程度の定型は、作りやすい。
 子どもの頃から馴染んでいる五七調の音のリズムは声に出して記憶しやすい。
ぁ〆遒辰燭發里鮨籀覆掘∀辰傾腓ぁ△海箸个鯑れ替えることで意味が深まる。
ァ仝渕慶瓦離螢坤爐日本語の発声・発音のリズムを育てる。
Α.瓮奪察璽言のある読み札で、新しい考え方、価値観に出会う。
А\爾暴个掘△泙進垢ことで自分自身を、周りを勇気づける。
─ゝ媛擦鮖予住佑寮擇蠍で語り、これまでの吃音の思いや考えをとらえ直すことができる。
 読み札に込められた体験や思いを想像する力が育つ。

 
 自分のカルタだけでなく、他者のカルタを共有し、読み合わせて遊ぶことで、「そうそう、私も同じ」と共感し、ほっとし、「そうか、こんな考え方もあるのか」と新しい発想、価値観に出会う。覚えやすいために何度も口ずさむことで、自分自身のものになっていく。勇気づけになる。今回のこのカルタに込められた四十四通りの吃音への思いは、現在吃音に悩む子どもに、〈あなたはあなたのままでいい〉〈あなたはひとりではない〉〈あなたには力がある〉というメッセージを、やわらかいタッチの絵札のイメージとともに、やさしく語りかけていくことだろう。勉強という肩肘張ったものではなく、楽しく遊びながら吃音について学び、そして吃音とともに生き抜く力が育つ。
 この「学習・どもりカルタ」が世に出ることを、仲間と共に喜び合っている。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/01/23