11月21日〜23日、講師に北野誠一さんをお迎えし、滋賀県のアクティプラザ琵琶で開催した、第21回吃音ショートコースが無事終わりました。今回の吃音ショートコースのテーマは、エンパワーメント〜内なる自分の力の再発見〜でした。
過去20回、ワークショップ形式にこだわり、精神医学、臨床心理学、教育学、演劇などから、その領域の第一人者に講師をお願いし、様々なテーマで取り組んできました。ジョゼフ・G・シーアンの吃音氷山説の、吃音を否定的にとらえることで起こる問題となる行動、思考、感情、からだに対して、どのように向き合い、取り組むかを20年間、吃音ショートコースを通して学び、考え、話し合ってきました。
様々な悩みをもつ人の、悩みに影響を受ける行動、思考、感情は、吃音に悩む人だけに起こることではなく、人生の様々な問題に直面する人たちに、共通する、普遍的な人間の悩みへの対処でした。僕が、是非みんなで一緒に体験的に学びたいと考えたテーマは、昨年の20回でほぼ出尽くしました。なので、その20回で吃音ショートコースをやめると発言しました。すると、多くの人がこの貴重な場を閉じるのはもったいないとの声が相次ぎ、とりあえずはもう一回開くことに僕の中では考えました。
だから、今回は20回の吃音ショートコースをみんなで振り返ると同時に、たくさん学んできたことを、講師の北野誠一さんと一緒にふりかえってもらい、今後の指針にしたいと考え、「エンパワーメント」のタイトルとしました。ゲストを招いての吃音ショートコースは、今年の21回目をもって、終了すると決意して臨んだ吃音ショートコースとなった今回、資料集にこんな文章を書きました。
第21回吃音ショートコース
2015年11月21日〜23日
エンパワーメント−本人と支援者が一人ひとりの物語を紡いでいくために−
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二
ワークショップ形式にこだわり、精神医学、臨床心理、教育など様々な領域の第一人者を講師に、2泊3日の学びのワークショップを20回も続けてこられたことは奇蹟に近い、と感慨深いものがあります。忙しいスケジュールをやりくりしながら、3日間、とても力を入れて誠実に関わって下さったからこそ、年報として18冊の冊子にまとめられ、その内の4冊は、金子書房の書籍として出版され、私たちの大きな財産になっています。
昨年のこの挨拶文では、将棋を比喩として使い、相手の王将に向かって、一手一手と詰め進んでいった20年の歴史だったと書きました。そして昨年は、これまで吃音ショートコースで学んできたことを整理しつつ、私の1965年からの吃音の旅を、整理するために、ナラティヴ・アプローチを学びました。このナラティヴ・アプローチで、私が考えてきた、吃音ショートコースのテーマをほとんど学んだ気がします。私たちとつながる多くの仲間たちや、吃音親子サマーキャンプや、仲間のことばの教室などのどもる子どもたちは、自分なりの生き方に確信をもててきたように私には感じられます。
ところが、たくさんのどもる人や支援者など吃音に関わる人たちは、まだまだ迷いの中にいます。私たちが詰め将棋のように歩んできた20年の道を、さらに整理し、多くの人たちが「吃音と共に幸せに生きる」航海に出発する、航海地図をつくることが、私たちの新たな役割として出てきました。吃音の世界は、100年以上も前の、混沌とした状況に逆戻りしつつあります。かつてのように「吃音は絶対治すべき、改善すべきだ」とする治療中心主義からは少し趣を変え、「治したいと思う人には、治すお手伝いをしよう」とする、善意の吃音治療が広がっています。かつて、営利を目的にした吃音治療と戦って来たときとは、比べようのないほどに、「敵」とも「味方」とも見分けがつかない大きな壁が出来ています。
今、私たちは自らの生き方、自らのどもる子どもとの取り組みの中で、私たちのこれまでの取り組みに自信をもっていますが、それを丁寧に社会に「航海図」として示す必要に迫られています。40年前「吃音者宣言」を出したとき、伊藤の考えは分かるが、それを具体的にどう実現できるのか、「航海図」を示せと言われました。その時は、私はひとつの方向性を示しただけで、その後どう生きるかは、それぞれの人が自分自身の生き方を貫けばよいことで、「航海図」など作らないと言ったことがあります。
しかし、50年の活動をもってしても、100年前に逆戻りしつつある現状では、やはり「航海図」の必要性を認めざるを得ません。今回の吃音ショートコースの講師の北野誠一さんは、大阪セルフヘルプ支援センターでの活動の時の戦友です。北野さんは、エンパワーメントを「共に生きる価値と力を高めること」と定義しています。どもる私たち本人と、どもる子どもに関わる支援者がともにひとり一人の物語を紡いでいくことが、結果として「航海図」の作成につながるのだと思います。
今回の吃音ショートコースでは、講師の北野さんと一緒に、考え、整理するものになるでしょう。そのこれまでとは違う、吃音ショートコースに、戦友でありながら、音信不通になっていた北野誠一さんをお迎えできること、大きな縁を感じます。その大切な吃音ショートコースに皆さんとご一緒できる幸せに感謝します。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2015/11/25
過去20回、ワークショップ形式にこだわり、精神医学、臨床心理学、教育学、演劇などから、その領域の第一人者に講師をお願いし、様々なテーマで取り組んできました。ジョゼフ・G・シーアンの吃音氷山説の、吃音を否定的にとらえることで起こる問題となる行動、思考、感情、からだに対して、どのように向き合い、取り組むかを20年間、吃音ショートコースを通して学び、考え、話し合ってきました。
様々な悩みをもつ人の、悩みに影響を受ける行動、思考、感情は、吃音に悩む人だけに起こることではなく、人生の様々な問題に直面する人たちに、共通する、普遍的な人間の悩みへの対処でした。僕が、是非みんなで一緒に体験的に学びたいと考えたテーマは、昨年の20回でほぼ出尽くしました。なので、その20回で吃音ショートコースをやめると発言しました。すると、多くの人がこの貴重な場を閉じるのはもったいないとの声が相次ぎ、とりあえずはもう一回開くことに僕の中では考えました。
だから、今回は20回の吃音ショートコースをみんなで振り返ると同時に、たくさん学んできたことを、講師の北野誠一さんと一緒にふりかえってもらい、今後の指針にしたいと考え、「エンパワーメント」のタイトルとしました。ゲストを招いての吃音ショートコースは、今年の21回目をもって、終了すると決意して臨んだ吃音ショートコースとなった今回、資料集にこんな文章を書きました。
第21回吃音ショートコース
2015年11月21日〜23日
エンパワーメント−本人と支援者が一人ひとりの物語を紡いでいくために−
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二
ワークショップ形式にこだわり、精神医学、臨床心理、教育など様々な領域の第一人者を講師に、2泊3日の学びのワークショップを20回も続けてこられたことは奇蹟に近い、と感慨深いものがあります。忙しいスケジュールをやりくりしながら、3日間、とても力を入れて誠実に関わって下さったからこそ、年報として18冊の冊子にまとめられ、その内の4冊は、金子書房の書籍として出版され、私たちの大きな財産になっています。
昨年のこの挨拶文では、将棋を比喩として使い、相手の王将に向かって、一手一手と詰め進んでいった20年の歴史だったと書きました。そして昨年は、これまで吃音ショートコースで学んできたことを整理しつつ、私の1965年からの吃音の旅を、整理するために、ナラティヴ・アプローチを学びました。このナラティヴ・アプローチで、私が考えてきた、吃音ショートコースのテーマをほとんど学んだ気がします。私たちとつながる多くの仲間たちや、吃音親子サマーキャンプや、仲間のことばの教室などのどもる子どもたちは、自分なりの生き方に確信をもててきたように私には感じられます。
ところが、たくさんのどもる人や支援者など吃音に関わる人たちは、まだまだ迷いの中にいます。私たちが詰め将棋のように歩んできた20年の道を、さらに整理し、多くの人たちが「吃音と共に幸せに生きる」航海に出発する、航海地図をつくることが、私たちの新たな役割として出てきました。吃音の世界は、100年以上も前の、混沌とした状況に逆戻りしつつあります。かつてのように「吃音は絶対治すべき、改善すべきだ」とする治療中心主義からは少し趣を変え、「治したいと思う人には、治すお手伝いをしよう」とする、善意の吃音治療が広がっています。かつて、営利を目的にした吃音治療と戦って来たときとは、比べようのないほどに、「敵」とも「味方」とも見分けがつかない大きな壁が出来ています。
今、私たちは自らの生き方、自らのどもる子どもとの取り組みの中で、私たちのこれまでの取り組みに自信をもっていますが、それを丁寧に社会に「航海図」として示す必要に迫られています。40年前「吃音者宣言」を出したとき、伊藤の考えは分かるが、それを具体的にどう実現できるのか、「航海図」を示せと言われました。その時は、私はひとつの方向性を示しただけで、その後どう生きるかは、それぞれの人が自分自身の生き方を貫けばよいことで、「航海図」など作らないと言ったことがあります。
しかし、50年の活動をもってしても、100年前に逆戻りしつつある現状では、やはり「航海図」の必要性を認めざるを得ません。今回の吃音ショートコースの講師の北野誠一さんは、大阪セルフヘルプ支援センターでの活動の時の戦友です。北野さんは、エンパワーメントを「共に生きる価値と力を高めること」と定義しています。どもる私たち本人と、どもる子どもに関わる支援者がともにひとり一人の物語を紡いでいくことが、結果として「航海図」の作成につながるのだと思います。
今回の吃音ショートコースでは、講師の北野さんと一緒に、考え、整理するものになるでしょう。そのこれまでとは違う、吃音ショートコースに、戦友でありながら、音信不通になっていた北野誠一さんをお迎えできること、大きな縁を感じます。その大切な吃音ショートコースに皆さんとご一緒できる幸せに感謝します。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2015/11/25