楽しかったどもる子どもとの対話
岡山のキャンプでは、子ども全員に僕が話をして、その後グループに分かれて話し合うというプログラムがあります。今回は、メーガン・ワシントンさんのDVDをみてもらい、僕の体験を合わせて話そうとかんがえたのですが、直前にスタッフにDVDの用意をお願いしたときに、「伊藤さんの体験を、何度でも私も聞きたいし、子どもも興味をもってくれると思うから、DVDよりも体験を話して欲しいと言われました。
僕は、13回も岡山にきている訳だし、僕の体験は、「親・教師・言語聴覚士が使える 吃音ワークブック」や、「どもる君へ いま伝えたいこと」(解放出版社)などで書いていますので、つい話さないで済ませてしまいます。今回は、是非といわれましたので、話すことにしましたが、どう話すかは全くかんがえないままに、子どもたちの前に立ちました。ふと、浮かんだままに、子どもたちの顔をみながら、反応をみながら話し始めたら、このような展開になりました。前もって予定をしていたわけではありません。おもしろかったので紹介します。
伸二 僕は、今、何歳くらいだと思いますか。
子 71歳。
子 55歳。
子 35歳くらい。
伸二 71歳? そうか、初めの挨拶で71歳と言ったんだね。
僕は、小学校、中学校、高校時代、とても苦しくて辛くて、僕の本当の意味での小学校生活、中学校生活は、21歳から始まっていると思っています。どもりを治す学校へ行って、そこで初めて同じようにどもって辛い思いをしている人と会いました。それが、21歳です。それまでは、僕の父親はどもっていたけれども、父親以外にどもる人はいなかったので、学校では僕たけがどもっていて、なぜ僕だけどもっているのかとすごく悩んでいた。そんな時期が長かった。
僕は、小学校時代、中学校時代、高校時代を、ほんとの意味で、送っていないんじゃないかと思うくらい、楽しい思い出は何一つありません。21歳から、そんな小・中・高校と送ってきているので、なんか今まだに思春期を送っているような気がします。だから、誰かが言ってくれた、35歳くらいの年齢だと思っています。
僕は3歳くらいからどもっていたんだけど、どもりに悩むことも困ることも全然なく、平気でどもっていました。でも、小学校2年生のときに、あるできごとがあって、そのときから僕は、「僕はだめな人間だ」、「音読や発表のできない、僕みたいにどもる人間はこれからどう生きていったらいいのか分からないと思い始めました。ここで、クイズです。
クイズ1 「小学校2年生の秋に、僕に、どんなことが起こったでしょうか」
子 発表会でどもってしまった。
子 劇でどもってしまった
子 どもりどもりといじめられた
子 勉強のとき、どもってた
伸二 当たっているようで当たってないね。
伸二 学芸会のときに、浦島太郎の劇をしたんだけど、僕は浦島太郎になりたかった。浦島太郎がだめなら、カメ。どっちかなあと思っていた。僕だけでなく、友達も「伊藤が浦島太郎かカメだろう」思っていたんだけど、全然違っていて、僕は、カメが海へ帰っていくときに、3人で声をそろえて「さようなら、カメ」という役だった。そのせりふだけだった。僕は、せりふのいっぱいある太郎やカメになりたかった。
僕は、クラスで人気があったし、元気だったので、できると思っていたのに、「さよなら、カメ」だけだった。僕は、なぜせりふのある役をさせてもらえなかったんだろうかと考えたときに、初めて、そうだ、僕はどもるから、せりふのある役を先生が与えてくれなかったんだと思った。すごく悔しかった、腹が立った。
それまでは、どもることは悪いことでも、劣ったことでもないと思っていたのに、このとき初めてどもる僕はダメな人間だ、せりふのある役をさせてもらえないんだと思ってしまった。劣等感を初めて感じた。
劣等感というのは、自分とほかの子とは違って、だめなんだ、劣っているんだと思うこと。他の子は、せりふのある役があるのに、僕だけにはない。ほんとは僕だけじゃなくて3人いたから、僕だけというのは間違っているけれど、そのときはそう思ってしまった。では、クイズ第2問。
クイズ2 「どもりに劣等感をもって悩み始めたときから、どんなことが起こったでしょうか」
子 いじめられた。
伸二 そう。それまではいじめもからかわれることもなかったけど、からかわれて、笑われた。いじめられはしなかったけどね。
子 悲しかった。
伸二 悲しかっただけじゃなく、くやしかったし、いやだった。他には?
子 (考えている)
伸二 君たちはどう。どもるからといって、勉強しないってことはある? 勉強してる?
子 やっとる。勉強はしなきゃだめでしょ。
伸二 そうか、君たちは僕よりずっとえらいね。僕は、どもることと黙って勉強することとは何も関係ないのに、勉強がいやになってしなくなった。当然、手も挙げなくなった。音読をするのもしなくなった。みんなは、どもっていても、ちゃんと音読してる?
子 (みんな声をそろえて)してる。
伸二 そうか、みんな、えらいね。僕よりずっとえらい。僕は、音読はしなくなって、当てられて立っても、そのまますぐ座ってしまっていたんだ。
(長いので、2回に分けました。後まだ続きます)
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2015/10/29