卒業式で全員で呼びかけることばが、どもって言えない
3月の初め関東地方の小学6年生男子の母親から電話がありました。
卒業式で、2回話さなければならない場面があるそうです。
・テンポよく順番に学校生活の思い出を一言言う。
・壇上に呼ばれて卒業証書を受け取って、一言将来の夢をかたる。
卒業式の練習がはじまり、一つ目の、全員がテンポよく順番に自分の考えたことばを言おうとしたとき、言葉がでずに、間が空き、みんながざわつき、後で「どうしたの?」と、口々にいわれたことで、以前より、どもるようになりました。自分の番でストップして、みんなから、変な目でみられたことから、卒業式の練習が怖くて、食事ものどに通らないほどに悩みはじめます。学校へゆきたくない、卒業式にでたくないと子どもは悩んでいます。
子どもからの相談を受けて、母親は吃音についてネットで調べたり、吃音の本を買って読んだけれど、息子にどうアドバイスすればいいか分からず悩んでいます。
担任は、子どもの悩みを真剣に受け止め、相談にものり、そんなに大変なら、「いわなくてもいい」「録音しておいたものを再生したら」など選択肢を提案し、なんとか、学校に来て、卒業式にも参加してほしいと考えています。卒業式の失敗体験が、将来に与えるマイナスの影響を心配しています。
母親には、これまで読んだ吃音の本とはまったく違う視点で書いた「どもる君へ いま伝えたいこと」や「吃音ワークブック」(解放出版社)をしっかり読んで、担任教師にも読んでもらって対策を考えたらとすすめました。
数日後の、3月7日(土曜日)、もう一度母親から電話があり、本の注文はしたけれど、大阪へ行くから直接会って話ができないかと言ってきました。
関東地方から大阪にわざわざ来るのは大変です。ちょうど3月8日(日曜日)に東京である、ナラティヴ・アプローチの参加することになっていたので、それが終わる5時頃に、東京学芸大学のある武蔵小金井に来てもらえれば会うことができると伝えると、是非会いたいと、約束をしました。不思議なタイミングです。
その電話が終わって20分もたたないうちに、小学6年生の担任をしているという、教師から、どもる生徒が卒業式に出たくないと言うほどに、吃音に悩んでいる、担任として何ができるかとの相談の電話がありました。話を聞き始めて、すぐに、20分前に電話があった子どものことだと分かりました。こんなことが実際にあるんですね。
僕は、一瞬、保護者が、「伊藤伸二」に相談すると伝えたから電話してきたのかと思ったのですが、そうではなかったようです。担任教師が自主的にインターネットを調べて、僕の所へ電話をしてきたのです。
母親から電話があったことは話さないで、いろいろと話しました。保護者側からの話と担任教師の側の話で事情がさらに詳しく分かりました。
担任の、私に何ができるでしょうかの質問に、こうして電話をしてきた誠実さ、生徒に複数の選択肢を出して提案していることのすばらしさを伝えて、あなたにできることはしたのだから、後は、子どもの問題だといいました。しかし、今後のことも考え、親の会のパンフレットと「どもる君へ」は読んでほしいと、住所を聞いておくることにしました。
いろいろと納得をしてくださいましたが、「卒業式にでなくてもいいじゃないですか」には、とても驚き、納得は出来ないようでした。
通常学級だけを担任している教師なら、「卒業式の欠席」など考えもしないことでしょうが、特別支援学級の子どもや、不登校の子どもの中には、校長室でひとり卒業証書をもらうのは、あり得ることです。食事ができないほどに不安や恐れをもち、卒業式に出たくないと言っているこの生徒も、選択肢としてはありです。
僕は「逃げない」ことの大切さをずっと考えてきた人間ですが、問題の対処にいくつもの選択肢を考えるとき「逃げる」の選択肢は、常に考えておく必要があると考えています。
3月8日(日曜)、小学6年生の生徒と、両親と会って話した内容については、明日。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2015/03/12