北海道大会の吃音分科会


 すばらしかった吃音分科会について前回書きました。僕は助言者ではなく、一参加者なので発言は控えましたが、当事者研究についてだけ少し話しました。

 周囲のことが気になって仕方がない子どもの話題でしたが、子どもとの2回目の出会いで、「先生大好き」と、家で書いた絵をプレゼントしてくれ、プレゼントが続くことに担当者は戸惑います。
 プレゼントをすることで「周囲に注目してほしいかもしれない子」としてレポートをまとめながら、「周囲のことが気にかかってしまうのかもしれない子」へと、子どもに対する思いの変化をしていきますが、「プレゼントの是非に焦点化しすぎたために、子どもの気持ちをとらえられなかったのでは」との担当教師は内省していきます。

 分科会の参加者からも、このプレゼントが一つの話題になりました。プレゼントしなくても、「あなたは私にとって大切な人でよ」と発信し続けることと、プレゼントをしなくても、人とのコミュニケーションや人間関係は結べることを伝えたいなどの発言がありました。子どもとのかかわりを丁寧に、子ども自身のことばを拾いながら、子どもとの関係をどうつくっていくかの発言もありました。

 そこで僕がひとつ提案したのは「当事者研究」の発想でした。
 子どものプレゼントの中に、どのような意味があるのか、ことばの教室の担当者が勝手に想像するのではなく、一方的に、プレゼントにかわるコミュニケーションの取り方を提案するのでもなく、子どもと教師が、対等の立場で共同研究するというものです。

 「先生へのプレゼント研究」として、こともが主人公になって、私が先生にプレゼントすることを研究するのです。これを担当者と一緒に研究すると、彼女が今後成長していく中で直面する、人間関係、コミュニケーションについて、とてもすばらしい共同研究ができると思いました。

 もうひとつは、「ことばの教室、大好き研究」です。彼女はことばの教室が大好きで、担当者が大好きです。どうして、ことばの教室が大好きで、大切なものと考えるのか、子どもと一緒に研究すれば、通常学級や、家庭でのいろんな思いが、ひょっとするとでてくるかもしれません。
 ことばの教室で、子どもと一緒に取り組む課題が見えてくるかもしれません。

 「当事者研究」という視点をもつと、子ども自身が、自分の課題を担当者とともに発見し、担当者と共に、ことばの教室で取り組むことが明確になります。この子ども気どもるから、言語訓練が必要なはずだと、一方的に自分が立てた言語訓練・指導計画を子どもに押しつけることがなくなります。

 吃音分科会の温かい、真剣な討議を聞いて、この人たちなら、子どもと一緒にいる「当事者研究」こそが、「吃音症状を少しでも改善しよう」との取り組みよりも、似つかわしいと思ったのでした。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/09/22