消防学校を卒業しました


 昨年の4月に消防学校に行き始め、大変苦労していたHさんから、うれしいメールがとどきました。そのメールと僕からの返信を紹介します。
 「どもり」には、緊急の対応がある消防士には無理だと世間では言われるかもしれません。しかし、大阪スタタリングプロジェクトの仲間には、消防士は何人もいますし、海上保安庁、警視庁に勤めているひとがいます。看護師はそれこそ、たくさんいます。
 それぞれに苦労しながらも、どもりを肯定し、誠実にどもりや仕事に向き合ったとき、道はおのずから開かれていきます。一人の青年のこれからの人生へのエールです。どもりを治したい、少しでも改善しなければと、どもりを否定的にとらえていたら、彼のような経験はできなかったでしょう。いずれ、詳しく彼のことは紹介したいですが、今回は、とりあえず、メールの紹介にとどめます。

 伊藤さん、お久しぶりです。
 
おかげさまで明日、消防学校を卒業することになりました。10月から、消防学校学生兼消防署職員として、消防署に勤めさせてはいただいていたのですが、明日でようやく兼務から外れるかたちになりました。

10月からの半年間は正直、学校とは違った意味でのつらさが多々ありました。
電話がなると若手が積極的に出る、というのが当たり前なのですが、電話の一声目がどうしても出ません。でもそれが仕事なのであまえることもしていません。
自分なりに工夫し、多少一声目が出やすい方法を見つけるのですが、それに慣れてきたころ、その方法でも言葉が出なくなります。そしてまた新しくなにか方法を考え、またそれでも出なくなる。そのいたちごっこで、大変です。
今現在吃音が激しい時期で、今日は1人ずつ名前を呼ばれて、はい、と答えるのにも、言葉が出ませんでした。
まわりから特にとがめられることはないのですが、自分自身これらのことを気にしない程のメンタルはまだないようです。

しかし、消防活動技術の試験ではほめられることもありました。正直、電話応対や、コミュニケーションの部分で人より時間がかかってしまったり、聞き取りづらかったり、迷惑をかけてしまっているところが多々あるとは思いますが、これなら負けない、というものを見つけ、がんばっていきたいと思います。

これまでは出張所というところで勤務していたので多少緩いところもありましたが、4月からは本署で勤めることになりました。また環境もかわり、吃音の調子も変化していきしんどいことも増えてくるとは思いますが、がんばります!

とりあえず、今は明日の卒業式で、はい、と言えるかが不安です(笑)

報告が遅くなってしまい申し訳ありません。また、伊藤さんや、大阪のみなさんに力を借りることもあると思いますが、その際はよろしくお願いいたします。


季節の変わり目ですので、お身体にはくれぐれも気をつけてください。 2014年3月28日


HM様

しばらく大阪を離れていたためにお返事が遅れました。

うれしい報告ありがとうございます。よく、ここまでがんばれたと、心からの敬意を表します。

周りは、「どもっても大丈夫」と簡単に言うことができますが、本人にとっては、どんなに大変なことだったろうと、
同じ道を歩んできた当事者として、想像できます。

あなたは、大学の就活の時、「消防士になりたいが、できるだろうか」と相談してきました。

「どもる苦労は、いつもついて回る、どっちみち苦労するなら自分の本当にしたい仕事で苦労したほうがいい」

このように言ったこと、つい最近のことのように思い出しています。

消防学校は半年ではなく、兼務職員として半年あったのですね。前半の、指導教官の部屋に入るとき、名前が言えずに、何度も練習をさせられました。それでも、どもって言えないと「どもりを治せ」と言われ、あなたは悩んでいました。最後には、「そんなにどもっていて、市民の命が守れるのか」と言われ、僕たちに相談しましたね。ここが一番の踏ん張りどころでした。
わざわざ、一泊二日の合宿に大阪まできて、僕たちのいろんな話に耳を傾けました。この大変だったとき、よく乗り切れたと思います。

そして、後半の半年は知らなかったのですが、また違う苦労があったのですね。この一年のがんばりは、今後に生きてきます。

「消防活動技術の試験ではほめられることもありました」は、うれしいですね。ことばにハンディーがある分、他のことでは人一倍がんばって下さい。それが、消防士として成長させていくことになるのでしょう。

この一年、耐えることができたのだから、これからも、いろいろとあるだろうけれど、 乗り越えていけると確信しています。

しかし、つらいことも、へこむこともあるでしょう。強気でがんばらないといけないのは基本としてあるものの、
弱音を吐くこともとても大切です。互いに愚痴が、弱音がはける仲間が消防士仲間でひとりでもできるといいですね。

少なくとも僕たちは、その仲間に入れておいて下さい。困ったときはいつでもご連絡下さい。大阪スタタリングプロジェクトの仲間は、いつもあなたの味方です。つらいとき、僕たちのことを思い出して下さい。僕たちもつらいとき、あなたが、がんばっている姿を思い浮かべます。僕たちは、常にあなたと共にいます。

たくさんの勇気をありがとう。お元気で。

伊藤伸二