吃音ショートコースの今年のテーマはゲシュタルトセラピーでした。

 大阪商工会議所のあるセミナーで始めてゲシュタルトセラピーを知ってから、もう30年以上になります。そのとき知ったゲシュタルトセラピー9つの原則は、私が吃音の悩みから開放されていくプロセスで、知らず知らずにしていたことだと知ったとき、うれしかったと同時に、ゲシュタルトセラピーについて学びたいと思いました。しかし、インターネットがまだ普及していなかった時代、書籍もなかった時代、またカレー専門店を経営していた時代でもあり、時間的な余裕もなく時間が過ぎていきました。
 倉戸ヨシヤ先生のワークシヨツプに出会うのに少し時間がかかりました。
 吃音に悩んでいたとき、どもる自分が許せず、認められず、どもりが治ることばかりを夢見ていました。常に想像の世界で不安や、恐怖を募らせていました。9つの原則を知ったとき、吃音に悩んでいたときには、これらができなかったのだと思ったのです。
 第一原則:『今に生きる』
 治ることばかりを夢見て、今、自分にできることすらしませんでした。今ここに生きていなかったのです。
 第二原則:『ここに生きる』
 どもっているのは「仮の姿」と考えていましたので、ここに生きていませんでした。目の前のことに向き合えませんでした。どもる事実を認めて、苦しくても、今、ここに生きることが必要だったのです。
 第三原則:『想像をやめて、現実的に物事をとらえる』
 吃音の大きな問題は、予期不安です。どもるかもしれない、失敗するかもしれない、どもると人から嫌われるかも知れないと、悪いことばかりを想像して、常に不安でした。やれば出来たことでもそのためにしないで逃げてばかりいました。不安に思ったことが、現実に起こることはそれほど多くはなかったでしょう。
 第四原則:『考えることより、感じることを選ぶ』
 傷つくのを異常に恐れていたために、自分を主張することが出来ませんでした。何かに感じても、表現できないのであれば感じないようにしようと、堅い鎧を身にまとい、感じないようにしていました。
 第五原則:『判断するよりも、表現する』
 常にネガティブに考える、判断する習慣がついていたために、これを言ってもわかってもらえない、こういうと嫌われると、ありのままをとりあえず表現することが出来ませんでした。
 第六原則:『不快な感情も受け入れる』
 嫌なことは避けてばかりで、向き合うことはありませんでした。不安や恐怖など不快な感情をもてあましていながら、それを表現することも、当然受け止めることも出来ませんでした。
 第七原則:『権威者を作らない』
 誰かが、私の吃音を治してくれる。「吃音矯正所」の言うセラピーに任せよう。実際に1ヶ月、この人の言うとおりに頑張れば治ると信じて、頑張りましたが治りませんでした。もう、権威者に頼らないと決心しました。
 第八原則:『自分自身に責任を持つ』
 吃音矯正所に自分の人生をゆだね、努力した結果治らなかったとき、吃音は人に頼って治してもらうものではなく、自分の力でなんとかするものだとの自覚が生まれました。もう、何事かできないことを吃音のせいにしないでおこうと思いました。吃音を治すことをあきらめたことで、自分の言動に責任を持てるようになりました。
 第九原則:『自分自身であろうとする』
 誰かに教えられたり、作られた自分ではなく、ありのままの自分でいようと思いました。どもらない人をうらやむのでなく、誰かの真似をするのでもなく、自分らしく生きようと決めました。
 
 ゲシュタルトセラピのこの原則に近い生き方をしようと決めたのが、21歳の秋でした。ここから、私の人生は大きく転換していくのです。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2012/12/30 湯布院にて