10月26日静岡に行きました。
良い仲間たちのいる所へ行くと、元気がでます。少し風邪気味で、体調は万全ではなかったのですが、元気になって帰ってきました。静岡のキャンプでは、キャンプが始まる前、午前中にキャンプスタッフや、私の講演だけを聞く下さる人のための、学習会があります。そのために、静岡には前日に行きます。
静岡と言えば魚のおいしいところです。静岡駅のシヨッピングビルの6階にとてもおいしい寿司屋があります。そこへ行くのが、私の密かな静岡行きのたのしみでもあります。沼津魚がし寿司ですが、少し遅く行くと満席になります。その人は5時30分に入りました。カウンターが1席だけ空いていました。
私は、人前で講義や、講演など話すことがとても多いです。13年ほど前は、人前で話すときに限っては、ほとんどどもらなくなっていました。ところが、からだとことばのレッスンの竹内敏晴さんが私の「情報伝達のことば」を壊して下さいました。自分では自然に話していたつもりですが、竹内さんからすると、意識的にどもらない話し方をしていると写ったようです。情念ほとばしるある芝居の主役をさせていただき、その厳しい稽古の中で、これまでの「人前では、ほとんどどもらない」状態が破壊され、芝居の上演の4か月後になって、私は再び人前でもどもるようになりました。
その当時からも、寿司屋で注文するときは「トロ」「たまご」は苦手で、拍子をつけたり、なんとかごまかして注文していたのですが、私のことばが壊されてからは、一段と言いにくくなりました。魚のあまりおいしくない大阪では普段はあまり寿司屋には行きません。でも、静岡では行きたいのです。私の好きなネタの多くは言いにくい。せっかくだから言いますが、久しぶりに吃音を意識します。普段の講演で吃音を意識することはほとんどありません。どもる時はどもるし、どもらない時はどもらない、自然に任せていますが、「トロ」「たまご」とちよっと離れたカウンターの向こうの握っている人に届けないといけない。講演で緊張も、上がることもなく、吃音を意識することもまったくない私が、吃音を意識する唯一の場面でしょうか。緊張とは違う、何か不思議な感覚でず。
やはり、何度か聞き返されました。聞き返されて言う時、アメリカの言語病理学の「そっと、ゆっくり、柔らかく」の吃音コントロール法なんて、まったく役にたちません。「そっと、やわらかく」言うと、雑音飛び交う場での、板前さんにとどきません。ゆっくり言うのもこんな場では難しい。いつものどもりながらいうしかありません。
一年に何回か、このようなことを経験するのは、いやじゃありません。むしろ好きです。やはり「どもりは治らない」を身にしみて経験できるからです。「どもせずに言いたい」でもそれができない。人生の中で、自分ではどうにもできないことの、一つや二つあった方がいいと思うからです。
やはり、静岡の寿司はおいしかった。
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2012/10/29