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 新潟言友会15周年の大会。言友会から離脱し、関係がまったくなくなった私を呼んで下さった意味を考えました。
 ご存知のように吃音は原因も未だに解明されていません。また、治療法も、1903年に伊沢修二の楽石社が提案した吃音治療法と、ほとんど同じの「ゆっくり、そっと、柔らかく」発音して吃音をコントロールする、バリー・ギターの「統合的アプローチ」しかありません。この程度のことしか提案できないアメリカ言語病理学に私は期待していません。

 「治っていない、治せていない」状況が、100年以上も続いているのです。
 それでもなお、「治す・改善する」があきらめられないのは、私からすると、本当に不思議なことです。
 40年も前に「吃音を治す努力をするよりも、自分のしたいこと、しなければならないことに努力しよう」と、「吃音を治す努力の否定」を提案しました。その頃の社会的な状況、吃音の臨床研究の実力も、まったく変わっていないことを考えると、やはり私は、自分の方向は間違っていなかったと思います。私の考え、主張を、誤解されないように、丁寧に多くの人に伝えていく必要があると思いました。

 どんな小さな集まりでも、私の話を聞いて下さるのであれば、どんな所へも行きたい。最近は以前よりは自由に動けるようになったので、そう思います。関係を絶った言友会からも、このようなお誘いをいただいたことが、とてもありがたかったのです。

 懇親会には、この写真の他に二人参加して下さいました。新潟は広くて、帰る交通機関がないからと、お二人は少し早く帰られたのですが、たんなる雑談ではなく、一人一人が今回の私の話について感想を言い、講演会ではできなかった質問をして下さいました。私の話がどこまで伝わったのか心配でしたが、みなさんが、共感をもって聴いて下さったこと、少し意外でもありましたが、とてもうれしいことでした。共感した上で「吃音を認めた上で、吃音を改善するために努力することはどうか」との質問がありました。

 懇親会には30代の若い人と60代に入ったばかりの人半々でしたが、そのような質問はやはり、若い人でした。
 60歳に入った人は、それぞれの人生で、悩みつつも自分の人生を大切に、いつまでも「吃音を治す・改善する」にこだわっていられず、生きてきた上で、どもりながらも生きることができると、体感している人たちでした。その人たちは「とても共感した」と言って下さり、本質的なことも理解して下さっていました。

 本質的なこととは何か。
 「吃音とともに生きる」なんて、伊藤が言うことなら、アメリカの研究者も言っていることで、何も新しいことでもなんでもない。こう言う人がいます。それは本当にそうです。吃音は治せないのですから、当然吃音と共にみんな生きているのです。しかしそれは、吃音治療の一環として「吃音を受け入れる」ということです。そうすれば、「吃音の改善に結びつく」との発想です。
 また、「吃音治療・改善に努力して」、それでも、治らなかったら、その部分を受け入れる。だから、「自分で引き受けられる程度の吃音」に治療・改善しようという発想です。

 治療のプロセスとして、治療の結果として認めざるを得ないから「吃音共に生きる」という考えと、今、この時から、子どものころから、一切の「治療・改善」を目指さないで、今のまま、そのままを認めて「吃音と共に生きる」と言い切るのとは、「吃音と共に生きる」という同じ文言をつかっても、まったく違うものです。

 「治療。改善」は目指さないものの、より楽に声が出るように、「日本語の発音・発声」の基本を学び、自分の発音発声のメンテナンスをすることは、それが必要な人には必要だと私たちは取り組んできました。ことばに関して、何もしないと言っているわけではないのです。とても誤解されているようです。どもらないように、ことばに取り組むのと、自分の思いをより相手に伝わるために、発音・発声には意識するのとは違います。
 『親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック』(解放出版社)にかなりのページを使って、どもる私たちにとっての、ことばのレッスンについて、詳しく書きました。
 
 これも、さきほどの「吃音と共に生きる」の「発音・発声に取り組む」が同じように見えても、本質的なところではぜんぜん違うことを、60歳代の人たちがよく分かって下さったのは、望外の喜びでした。

 その人たちが、「吃音について、こんなに豊かな話ができたこと、幸せだ。今日は、本当に良い日だった」と私の手をしっかり握って下さったとき、新潟に、不安をもちながらも来て、本当によかったと思いました。

 今から、静岡に向かいます。第11回の静岡県の吃音キャンプです。今年は参加者が多くて、100人を超えているそうです。第1回から私を講師として呼んで下さっていますが、どもる子ども、保護者、ことばの教室の先生、言語聴覚士とまた新しい出会いがあるのが楽しみです。、

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2012/10/26