桑名の大会の翌日は、津市で、第57回三重県特別支援教育研究会の研究協議会の大会がありました。
 支援教育の中の「言語の指導」の分科会に、吃音の指導事例が出されました。
 提案者の小島 玉子さん (津市立修成小学校教諭)から、ことばの教室の教師以外の教師が多く参加するので、吃音について多くの人に知ってもらいたいので、たくさん話してほしいと事前に依頼されていました。

 提案主題 「吃音のままでいい」 〜もっと力をぬいて生きてほしい〜です。
 「ことばの教室」に通うA児について、発音指導は、日常会話や集団の中では注意をしたり、言い直しはさせないで、日常生活の中で「どもっても話していく」を基本に、話すことの楽しさや大切さをわかるように、心と体をリラックスさせ、本人の話を聞くことを大事にしてきた。との提案があり、質疑応答の後、通常の分科会の形式をも提案者、司会者の相談で、休憩時間に私への質問をかいてもらい、その質問に応える形で残り時間を使ってほしいというものでした。たくさんの質問が出され、すべてには応えられなかったもののできる限り質問にそって話しました。
 前日の東海四県の研究会ではあまり話せなかったのですが、今回は時間いっぱい話させてもらいました。
 
 さっそく報告集にまとめが届きました。このような話を質問にそって話しました。
  その部分だけ紹介します。

〜助言者からの応答〜
  ●就学前の吃音の子どもの一番大事なことは?
 ・吃音をネガティブに思ってしまうと、自己肯定にかなりの時間と努力を要してしまう。幼児期の吃音はマイナスに意識しないが大切。それには「かわいそうだ」と思わないこと。
  ●「通級をやめる」と言っていることについて
 ・本人の意思に任せるが、困ったときはいつでも来られるようにしておく。
  ●子ども(低学年)に吃音を認識させることについて
 ・基本的には子どもたちの力を信じる。吃音を自覚し「吃音を生きる」力を育てる。
  ●絶対にしてはいけないことは
   ・吃音を否定しないこと。吃音を否定すると強い劣等感をもち、吃音を理由にして人生の課題から逃げることが起こる。自分の持つ力で子どもの時代をどう乗り切っていくかを見守る。
  ●吃音がきつくなってくると…
   ・あわてて手だてを打つ必要はなく、自然に変わってくるのを待つ。
  ●吃音の子からの相談に対して
   ・本人との対話の中から選択肢を多く用意し、自分で選ばせる。自己決定力を養う。
  ●吃音がきつくなるのは
   ・プレッシャーも多少関係があるが、(症状が)「重い」「軽い」で一喜一憂しない。
  ●卒業式をどのように取り組んでいけばよいか。
 ・大きな行事をチャンスととらえる。子どもは苦労しながら生きていく力をつけていく。自分の力で乗り切ったという   思いを持つことが大事。そのために、支援の複数の選択肢を用意し、こどもが自分で選ぶ。そのとき、必ず「パ ス」という『逃げ』の選択肢も入れておく。
  ●子どもが何を言っているのか聞き取れない。言い直させてもいいのか。
・わかったふりをするのが一番失礼。「あなたの話を聞きたいから、もう少しゆっくり言って」など、吃音を否定するのではなく、内容を聞きたいから言い直してもらう。

 ○ 助言者より
  ●吃音サマーキャンプで…
   ・「話すこと(どもる)が怖かった」という思いから、どもる子どもとの話し合いの中で、「どもりは私の特徴」「どもりも、大人へ成長するための肥料」という認識へかわっていった。そのような認識が持てるような支援をしていきたい。
  ●環境を変えていく
・本人の訓練や努力で吃音を治すではなく、「どもっていても大丈夫」「何の問題ない」と周りが吃音を理解し受け止める環境で子どもは生きやすくなる。親や教師だけでなく、子ども本人にも環境を変える力がある。
  ●吃音の子どもが声を出すこと(発音)を楽しめるように
 ・日本語は母音さえ分かれば通じ合う。一音一音明確に言わなければとの思いを捨てる。
   ・日本語と英語とは違うのでアメリカの吃音指導は役に立たない。日本語の指導をする。
   ・やってみて教師自身も楽しいことしかしない。歌や詩を読む表現活動。
   ・日本語の発音・発声の基本を訓練していく。
    ・日本語は…話すために大事なのは息を吐くこと。母音の息の流れが大切
・子音と母音を同時に言う。(特に母音を)
    ・一音一音同じ長さで言う。(一音一拍)
            
  ●「共同体感覚」を育成する。
 ・「自分には居場所がある」「自分はここにいていいんだ」という安心感、安全感。
 ・「自己肯定感」(私は自分のことがすき)、「他者信頼感」(クラスの仲間や他人は信頼できる)「他者貢献感」  (私は人の役に立っている)。クラスや家庭で何かの役割をもって行動し、経験することで、これらの感覚をつけ ることで、「共同体感覚」は形成される。
   ・「ありがとう」「うれしい」「助かった」が言い合える学級にしていく。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2012/09/08