どうしたら、伊藤さんのように会長になれますか?
島根スタタリングフォーラムでは、すこしずつプログラムが変わっていっています。
最近は、小学生からの参加者、保護者、ことばの教室の教師など、全参加者に1時間話すプログラムが定着しています。 聞く人が、子どもから大人までというのは、本当に話しにくいものです。子どもむけに話そうとすると、なんか、すぐに終わってしまいそうです。大人向けにすると、子どもはわかりにくいし、とても1時間はもちません。どだい無茶苦茶な設定だと言えなくはありません。しかし、参加者全員に同じ話を聞いていただけるというのも、素敵なことです。昨年は、映画「英国王のスピーチ」の話をしました。親に対しては、流暢に話すことよりも、まじめで、誠実なことが何よりも大切なこと、子どもには、アドラー心理学で言う、劣等性、劣等感、劣等コンプレックスについて話し始めたら、さっさく「劣等感って何ですか?」と小学生から質問が飛んできました。このように質問があるのはうれしいことです。
あの映画は、兄と、弟の劣等感の葛藤の話だと、できるだけ分かりやすく話しました。兄がどもる弟に劣等感を強くもっていたとは、あまりみんな思わなかったようです。兄の方が、劣等コンプレックスを使って、自分より、弟の方が、誠実、責任感など人間性に対してもっている劣等感を使って、国王から逃げたという話をしました。
さて、今年はと用意したのが、別のところでしているキャンプの子どもたちと私との対話のビデオをみてもらい、それには子どもたちがでてくるので、それをもとに話そうと計画しました。ところが、そのビデオ。新幹線の車中で忘れてきたことに気づきました。さて、どうするか、1時間の話をどうするか困りました。
そこで、始めに、ごめんなさいと謝って、「リクエスト講演」にするので、どんなことでも質問して欲しいとお願いしました。実は、このような質問をしてもらって、それで話を組み立てるのが一番私にあっています。好きなのです。「大人になったら、どもりは治りますか」などの質問に混じって、「どうしたら会長になれますか」の高校生からの質問があったのです。「会長?」、一瞬とまどいましたが、「どうしたら、リーダーになれるかということですか?」と質問して確認しました。あまりに高校1年に似つかわしくない質問だったので、「伊藤さんのように快調に話せますか?」の質問と受け止めた、ことばの教室の教師がいたようです。
「大人になったら治るか」について、私自身の21歳から、吃音と向き合っての人生と、ほとんどの人が治っていない現実を話しました。1時間はあっと言う間に過ぎて、あまり時間はなかったのですが、私の「リーダー」に着いての考えを、高校生に分かるように話しました。
いろいろ話した中で、子どもにとっては思いがけないこととしては次のことを挙げました。
・弱さや、劣等感をもっていること
・できない事がたくさんあること
私は、自分の弱さをずっと見つめてきました。昔は自分の弱さに強い劣等感をもっていました。しかし、1965年にどもる人のセルフヘルプグループ言友会を創立して、ナンバー2の幹事長になり、いらい、ずっとリーダーをしてきた私のエネルギーになったとは、弱さと劣等感でした。それに向き合ったことで、人とつながることができました。また、英語ができない、漢字が書けない、失敗が多いなどの他に、今では、パソコンがほとんど使えないなどの、人と比べてあまりにもできないことが多いのです。とても「伊藤をほっておけない」と周りが助けてくれるのです。英語ができないのに、第一回世界大会を開催し、3年ごとにの世界大会に参加して、基調講演やワークショップ、世界の機関誌を編集できたのも、通訳、翻訳で私を支えてくれる親友がいるからです。いろんな行事、吃音親子サマーキャンプができるのも、たくさんの人が助けてくれるからです。失敗することが多いから、周りはひやひやして私を助けてくれるのです。
1965年から今で、私がずっとリーダーとして先頭を走り続けることができたのは、このようなことだと改めて思ってそのことを話しました。さて、どこまで通じたでしょうか。
なぜ、高校一年生がそんな質問をしたのか、後でお母さんが教えてくれました。その子ことは長い付き合いで、私のことが大好きなのだそうです。そして、フォーラムの数日前に親子で、「伊藤さんも、そろそろ年だし、いつこのような活動ができるか分からない。伊藤さんが死んだら、あとどうなるのだろう」との思いが浮かんだそうです。「伊藤さんの後を継ぎたいとと思ったのだと思います」とお母さんが話して下さいました。
本当にうれしいことです。私の考えが、この子どもたちに受け継がれるよう。残された日々を精一杯生きたいと思いました。


日本吃音臨床研究会 会長・伊藤伸二 2012/06/19