


久しぶりに、松元ヒロさんのライブに行ってきました。
2005年10月、私たちの吃音ショートコースと名付けた吃音ワークショップに来ていただきました。3日間、タップリと松元ヒロワールドに浸ることができました。「笑いとユーモア」のテーマのワークショップです。
私は大阪にいながら、吉本興業の笑いが好きになれません。笑い学会に入り、笑いやユーモアに強い関心をもちながら、吉本の笑いにはついていけません。上方落語は好きなのですが、その落語家が、テレビのバラエティー番組に頻繁に出るようになって、上方落語の落語家も嫌になりそうです。
笑いのワークショップをしたいと思いながら、ずっとできなかったのは、私の好きな笑いの講師が見つからなかったからです。「週刊金曜日」という週刊誌で、松元ヒロさんの対談を読んで、この人ならと、名古屋であったライブに行きました。2時間ほど笑い放しでした。その場で私の企画を話して講師として来て下さることになりました。
しかし、ライブはたくさん経験しているものの、ワークショップという、長い時間の講師、しかも、笑いの芸でなく、話したり、ワークショップをするということで、一瞬戸惑われたようですが、私の勢いに負けてなのか、講師を引き受けて下さり、いつものライブの出し物だけでなく、パントマイムの演習、私との対談など、私たちの計画にのって下さいました。その様子は、「笑いとユーモアの人間学」という冊子にまとめられています。
その後、何度か関西地方に来られたときのライブや、東京の明治安田生命ホールでのライブなどを見て、今回、紀伊國屋ホールでのライブに行ってきました。
地方会場で見るヒロさんとは違って、大きなホールでのヒロさんは、一段と輝いていました。4日間の日程のすべてが前売り完売、当日券売り切れという大盛況の中での2日目、3月30日に一番前の席に座りました。まさか手を振るわけにもいきませんので、私がいることに気がついているかどうか分かりませんが、精一杯の声援を送っていました。
しばらく見ない間に、芸風が変わったように私には感じられました。反戦、反権力の姿勢は当然変わりませんし、時の政府を批判することにも変わりがありませんが、より深く人間を紹介する話になっていました。私が行った3月30日だけの事かも知れませんが、今回は3人の人の紹介がすべてでした。
一人は、このブログで紹介した、土井敏邦監督の「私を生きる」という映画の紹介でした。正月、湯布院で、友人の中曽根さんからいただいたDVDの話です。私もこの映画については、いろんな人に話していますが、このように立体的に話せば、より分かりやすく、笑いを交えて話せるのだと、うれしくなりました。私が大勢の人に観てもらいたい、知ってもらいたいと思っている「話」を、大勢の人の前でヒロさんが話して下さっている。やはり、私が唯一敬愛する「笑い芸人」です。一段と好きになりました。私が伝えたいことをヒロさんが大勢に話をし、大勢の人が笑い、共感している。こんな愉快なことはありません。幸せな気持ちで会場を後にしました。
そうそう、あとの二人は、「立川談志」さんと、神戸の奇跡の画家といわれる「石井一男」さんの話です。三人三様の人柄の話は、胸を打ちました。
立川談志は、大阪に来たときに行ったのですが、体調を崩して、談春が代わりに落語をしました。談春もよかったのですが、談志の落語を直に聞けなかったのは心残りです。 石井一男さんの絵は、神戸で見ることができるので、是非出会いたいと思います。
この人に会いたい、この映画を見たい、この絵を見たい。聞き手にそのように思わせるもので、何か、良質の講演を聴いているような感じさえしました。わざわざ大阪から出かけてよかったと思えました。
土井さんの「私を生きる」の記事、貼り付けました。
日本吃音臨床研究会・会長 伊藤伸二 2012年4月3日
ここからは、以前のブログです。
「卒業式や入学式で起立して君が代を歌うように」
「日の丸、君が代」の問題は長く闘われてきました。この私のブログは、吃音についてのブログだから、そんな問題は関係ないと思われるでしょうが、私の子どもの頃からの、ある意味吃音以上に大きなテーマは、反戦平和です。また、吃音の臨床で、私が親や教師と子どもとは、人間としては対等あると、対等性を主張するとき、この問題を避けては通れません。
君が代斉唱の時起立しない教師を処分することは、イデオロギーの問題ではなく、憲法に保障されている、基本的人権、表現の自由の尊重の問題であり、常に吃音の問題で、多くの人とは違う少数派の問題提起を続けるひとりの表現者として、他人事だとは私には思えません。自分の考え、意見を持てない、表現できない、尊重されない世の中は、 いかに経済的に豊かでも幸せな世の中ではありません。いろいろな考えがあって当然です。違う考えを互いに主張し会う権利が認められなかったら、本当に暗い世の中になってしまいます。
国歌斉唱の時、不起立を続け、処分を受けた、根津公子さんや、「君が代」の伴奏を拒否し続ける音楽教師、佐藤美和子さんのことは、創刊時から愛読している『週刊金曜日』や新聞記事などでよく知っていました。何か応援したいと思いながら何もできずにいました。教育現場の言論統制に異議を唱え続けている土肥信雄・元三鷹高校校長のことは、1か月ほど前、週刊誌「アエラ」で詳しく紹介されていました。問題をよく承知しながら、これらの人々に尊敬と、心からの声援を送るしか私にはできませんでした。
言論の自由を守ることがいかに大切なことか。言論統制された中国や北朝鮮の事情を垣間見て私たちは知っています。また、なぜあの戦争が起こり、止められなかったのか、私たちは十分に知っています。言論の自由が侵害されることに、今、私たちはあまりにも鈍感になりすぎているように思えます。とても生きづらい世の中に、どんどんなっていくような気がします。
年末年始に滞在し、湯布院を去る間際に、中曽根さんが私にプレゼントしてくださったのが、「私」を貫くこの3人の闘いを丁寧に描いたドキュメンタリー映画のDVD『“私”を生きる』でした。
私が、子どものころから大きなテーマにしていることが、身近なところで結びついた縁を不思議に思います。
監督の土井敏邦さんと中曽根さん夫妻は親しい友人同士です。そして、湯布院でこのドキュメンタリーの上映会を企画、運営した世話人平野さんとも、今回、湯布院で親しく話ができました。
「自分に嘘をつきたくない。生徒に嘘をつきたくない」と、根津公子さん。
「 今言わなければ後悔する。その後悔だけはしたくない」と、土肥信雄さん。
「炭鉱の危険を知らせるカナリヤの役割を担いたい」と、佐藤美和子さん。
「これは教育問題や君が代、日の丸問題を論じるドキュメンタリーではない。日本社会の右傾化、戦前への回帰に抵抗し、自分が自分であり続けるために、凛として闘う、3人の教師たちの生き様の記録である」と、監督の土井敏邦さん。
ビデオを見て、涙があふれました。何よりも、子どもたちの未来のために、時にくじけそうになる自分を奮い立たせて孤独な闘いを続ける勇気に、言葉がありません。
DVDが発売されていますし、各地で上映会も開かれていくことと思います。
みなさんも、このような問題に関心をもっていただければうれしいと心から思います。
日本吃音臨床研究会・会長 伊藤伸二 2012年1月20日