プロポーズは、どもった方がいい


 10月29日に大阪豊中市のことばの教室で。吃るこどもや保護者と会った話を書きました。保護者との話がメインだったので、子どもとはほんのわずかの出会いでしかなかったのでずか、先日、子ども達の感想文をとどけてもらいました。
 私を、真剣な眼差しで見つめていた小学5年生の子の感想です。

 「水曜日は、いろいろ話をしてくれてありがとうございました。ぼくは、どもりについてよくわかりました。プロポーズの時には、どもった方がいいだなんて初めて知りました。そして、最後に伊藤さんに質問します。どもりは、とてもいろいろなところで役に立ちますか、役にたちませんか。答えはまた次の時に教えて下さい」

 プロポーズの時、どもったかどうかを質問した子は、別の子どもだったのですが、このような感想を書いてくるのはうれしいですね。そのことと、関係してのことかもしれませんが、「役に立つこと」を質問してきたのもびっくりです。吃っている時などの短い時間で考えれば、どもりが役に立つことはないのでずか、長い時間の中で考えると、どもりが役に立ったことはたくさんありました。
 子ども値が、どもりを大きなマイナスのものとしか考えることができなければ、吃る事実は認めにくいですが、子どものころから、良い面もあるのだと考えることができれば、素晴らしいことです。
 
 以前、吃音のいい面をみんなで考えたことがありました。そのときの文章がどこにあるか探せませんが、今度、この子どもと会う日までには整理しておきたいと思いました。
 
 ずいぶん前になりますが、NHKの「にんげんゆうゆう」の番組の終わりの方で、大阪吃音教室のシーンがありました。その日初めて参加した若い女性が、「これまで私は吃音にマイナスのイメージをずっともってきましたが、二人の人の、どもりだからよかったという話をきいて、考え方が変わりました。「どもっていても、いいかなあ」と思えるようになりました」と発言しました。柿沼アナウンサーも、たった2時間の吃音教室に参加して、この人は変わったのですねと感心していました。
 ひとりは、消防士で、「学校などに消防の話をしにいくが、どもりながら丁寧に話す話し方が好きだと言われるし、どもるからすぐにおぼえられるから、今は、どもりの方がいいわ」という発言でした。
 もうひとりは、ひどく吃るから結婚できたという話でした。友人の結婚式でスピーチを頼まれて。ひどくどもって話したのを、参加していた男性が、「こんなに、吃りながら、一所懸命話すこの青年は、誠実な人だ、是非娘と結婚させたい」と思ったという話です。結局見合いをして結婚して子どもがいるという話でした。

 この話には、ぼくもびっくりしました。いろんなことがあるものです。若い女性にとって、この話はインパクトがあったようです。

 吃音の苦しみだけが、クロース゜アツプされますが、探していけば、いい話がたくさん集まるかもしれません。小学5年生のこの子どもの感想から、どもる先輩として、マイナス面だけでなく、プラスの面も整理していく必要があると思いました。

 もうひとりの子の感想です。

 「友だちがまた、『なんでおまやどもんの?』と聞いてきたから、うそ泣きをしたら、ほんとうに友だちは、そんなことを聞かなくなりました。こんな方法を教えて下さってほんとうにありがとうございました」

 この話は忘れていましたが、「友だちにからかわれたらどうしたらいいか」と質問した子がいたのでしょう。この場合、いろんな選択肢を考えます。たくさん提案した中に、「大泣きする」があったのです。それをしてみようとした、この子もすごいです。私の子どものころに、果たしてできたでしょうか。いろんな選択肢を一緒に考えることが大切なことだと改めて考えました。実際にしてみての感想は初めてだったので、嬉しいことでした。

 こんな感想もありました。

 「いとうさんの経験が聞けてよかったです。その中でも、どもりを治す方法はないけど、僕はどもるんだと、堂々と話せばいいよという事が、一番心に残ったし、なんだか、気持ちが楽になった」


 「いとうさんと会えてよかった。なぜかというと、いとうさんの話を聞いて、世界中のあちらこちらにどもつて、こまっている人がたくさんいることがわかったし、どもった方がいいときがあるということがわかったからです。

 保護者からの感想もありましたが、子どものうれしい感想をお知らせしました。


 2009年12月3日   日本吃音臨床研究会 伊藤伸二