昨日の続きです。解放出版社から出した『親、教師、言語聴覚士が使える 吃音ワークブック』を子どもたちと読み合わせていく時間は、盛り上がりました。ひとつひとつ読むたびに、歓声があがり、子どもたちが自分の経験を語り始めます。それに反応すると、どんどん広がります。吃音を学ぶ時間は、先生が予め本を読んでおいて、それを子どもに教えるのではなく、子どもの経験を聞きながら、一緒に学んでいく時間です。それができるのも、吃音のもつ力といえるでしょう。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/27
<第9回静岡県親子わくわくキャンプ2010.10.30〜31>
どもりについて、みんなで語ろう」 2
吃音を治す方法
(『吃音ワークブック』を手渡され、それを、みんなの前の机の上に置く)
伊藤 はい、じゃあ今から、みんなに教えるよ。治すのにどんな方法があるかな。まず一つ目、〈不自然であっても極端にゆっくり話す〉。『みーなーさーんー、こーんーにーちーはー、おーはーよーごーざーいーまーすー。』こんな方法をやりたい人?
子ども はい。(一人だけ挙手)
子どもたち はははは。
伊藤 ちょっと、みんなでやってみようか。
子どもたち いやだよ。
伊藤 僕もこんな方法いややな。次は、〈語頭を長く引き延ばして発音する〉『わーたしはね、おーーかあさん』
子ども いやいやいやいや、絶対そんなんいやや。
伊藤 ときどきゆっくり言うのはいいのか。『みーなーさーんー』。
子どもたち はははは。
伊藤 食堂で、『てーんーどーんーくーだーさーいー』。
子ども 壊れてるみたい。
子ども 最初の方に言ったこと、忘れちゃうよ。
伊藤 相手が忘れるよね。それやったら、「こここコーヒー下さい」の方が、「コーヒーをーくーだーさーいー」よりいいやろ。次、いくぞ。
〈呼吸に問題があるので、呼吸練習をする〉これ言ったね。インターネットに載ってるけれど、これはダメだよ。
子ども じゃあ、何でその本に載ってるの。
伊藤 これは、これまでアメリカやヨーロッパなど世界中で、どんな治す方法が考えられてきたかということを書いている。
子ども えー、世界中、すごーい。
伊藤 次。〈舌の手術をする〉。
子どもたち えー。やだー。そんなの。(口々に)
伊藤 舌きり雀みたいに、ちょんとやれば?
子ども えー。こわーい。聞いただけで、寿命が縮む。
伊藤 〈電気ショックを与える〉
子どもたち うわーっ。えー。(大騒ぎ)
伊藤 (動作をつけながら)ダン!
子ども うわーっ。やだ。どもってる方がいい。
伊藤 次、〈催眠術をかける〉
子ども えーっ。そんなことで治るのなら、誰でもやってるよ。
伊藤 催眠術で、「あなたはどもりが治る、あなたはどもりが治る。もうどもらない、どもらない」とやるんや。
子ども そんなことやって治るのなら、みんなやってるはずだよ。
伊藤 はい次。<もう治った、もうどもらないと自分で言い聞かせる〉
子ども そんなの僕やったよ。でも効果ない。
伊藤 やったこと、あるの?
子ども やったことあるけど。効果ない。
子ども 「もうどもらない」というそのことば自体をどもってしまうから。
伊藤 「もう僕はどもらない」ということば自体にどもるわけだ。
子ども うん、どもっちゃう。
伊藤 ことばに出さなくて、自分の心の中で言ったらいい。
子ども それもやったけど、効果ない。
伊藤 〈飲み薬を飲む〉。
子どもたち えーっ。
伊藤 どもりを治す薬があって…
子ども それ、飲みたい。
子ども そんなのあったら、みんな治ってるよ。
伊藤 あったら、治ってるよね。
子ども 不思議なものだね。
子ども 人生は分からない。
伊藤 次。〈メトロノームに合わせて発音練習をする〉。
子ども 何、それ。でも、電気ショックよりましじゃん。
子ども 僕たち、人間なんだから、人間らしくどもろうよ。
伊藤 〈不安や恐れていることを恐くないとイメージトレーニングする〉。
子ども そんなん効果ないよ。
伊藤 〈断食する〉。
子ども それ、どういうこと?
伊藤 ご飯を食べないんだよ。
子ども えーっ。そんなん人生、終わるよ。
伊藤 〈おまじないやお祈りをする〉。
子ども なんだ、それ。やったけど、効果なし。
伊藤 どこでやったの?
子ども 神社で。
伊藤 神社で、「どもりが治りますように、どもりが治りますように」とお願いしたのか。
子ども 効果ない。
伊藤 それで治るなら、とっくの昔にみんな治ってるよな。
子ども うん。
伊藤 〈早ロことばの練習をする〉。
子ども 早口ことばだとどもっちゃう。何回やってもどもって言えない。
伊藤 早口ことばなんてしたらあかんで。次、〈はっきり発音をする練習する〉。
子ども まあ、ちょっとは、いいかも。
伊藤 よこやまだったら、よ・こ・や・まと言う。
子ども さっきと同じじゃん。
伊藤 〈気持ちを強くする〉精神力をきたえる。
子ども そんなことで治るのなら、みんなもう治ってるはずだよ。
伊藤 〈斉読法〉って知ってるか?
子ども 知らん。
伊藤 一緒に読んだらどもらないこと、ない?
子ども ああ、ある。
子ども 僕は、なんか効果あった。
伊藤 だから、効果があったのは、一緒に読んでくれる人がいたときで、それはずっと続かない。
子どもたち そうだ。そうだ。
子ども 僕、前、一人で朗読をすることになって、みんながリズムを合わせて、一緒に読んでくれるような感じにしたら、なんとかできた。
伊藤 そういう場面場面で一緒に読んでくれたりすることで、うまく読めることはあるけれど、それでどもりが治るということはない。
子ども そう。治らない。
伊藤 だから、これだけたくさん、アメリカでもフランスでもドイツでも、世界中で考えてきたけど、治りませんよということが言いたかった。これ、伊藤伸二の本なんやで。
子ども えっ、ほんとだ、ほんとだ。どおりで、変だと思ったんだよ。
子ども この本、家にあった。
子ども これは、世界中で考えたの。それを先生が書いたんだね。
伊藤 そう、世界中で考えたことはこれだけある。けれども、これだけ使っても全然治らなかったということが言いたいかったんや。
子ども ということは、舌の手術も本当にあったの?
伊藤 今でもやってるんだよ、アフリカで。
子ども えーっ。そんなあほな。
伊藤 電気ショックは、インドでやっているんだ。
子どもたち えーっ。
伊藤 インドの人が言ってんだけど、電気ショックでやったら、病気になったって。
子ども どもってた方がましじゃん。
子ども どもりって、癖だよ。
伊藤 どもりは、手術しても治らない。薬もない。今、どもりは癖だと言った子がいた。病気だと書いている子もいた。「よくしゃべれないとき、病気でしょと言われます」って。病気でしょと言われたとき、どうするの。
子ども 病気ではない。癖かもしれないし、違うかもしれない。
子ども 病気だったら、治るでしょ。でも、治らない病気もあるけど。
子ども うん、癌。脳卒中。
伊藤 治る病気もあるし、治らない病気もあるね。病気だという人もいるし、癖だという人もいるし、後、どんな言い方がある?
子ども 障害。アレルギー。
伊藤 アレルギー? いいねえ。
子ども よくない、よくない。
伊藤 なんで。
子ども アレルギーになったことない。
伊藤 アレルギーになったら、治らないやろ。
子ども 治らん。
子ども 僕の友だちが、アレルギー、治ったと言ってたよ。
伊藤 そうか。でも、ことばのアレルギーや。勝手に言ったらいいわけよ。病気でも、癖でも、障害と言ってもいいし。だって、僕の中にどもり菌が入って、
子ども 先生の本の中にどもり菌のこと、書いてあった。
伊藤 ははは。どもり菌が入って、僕をどもらせる。原因は全然分かっていないから、病気と言っても障害と言っても、癖でも個性、特徴でもいい。
子ども めっちゃ、多いやんか。
伊藤 これが、僕のしゃべり方の特徴や。なんか文句あるか。自分で好きなのを選べばいい。たくさんあるやろ、ええやろ。友だちが病気やと言ったら、そうや、これ、僕の病気なんやと言ったらいい。そうだよ、病気だよ。だから、からかったり、笑わないでやさしくしてくれよ、と言えばいい。これは、いいのかな。連発と難発も治せません。誰も治せません。皆さんは、これから、どもりながら生きていくのです。OK?
子どもたち (くちぐちに)OK。
子ども ノーノー。
伊藤 原因が分からん。電気ショックや舌を切るとか、いっぱいしたけど、治っていない。となると、治せないんや。治せないと分かったらどうする? 仕方がないと思わないかい?
子ども 思う。仕方ない。
伊藤 それでもどうしても治したいと、100年も世界の吃音研究者が一生懸命やったんだけど、治せなかった。治らなかった。僕もいまだにどもっている。だから、どもりは治らないのに、治療法がないのに、治したいと言われても無理だろう。
子どもたち うん。うん。
伊藤 無理だよね。今のところまで、分かって、それでも、僕は治すという人、手を挙げて。
(誰も手を挙げない)
伊藤 いないのか。君たちは、えらい。だからもう、あきらめなさい。
子ども 将来、気楽に生きていく。
伊藤 どもっていても、落語、アナウンサー、映画俳優になったり、いっぱいおるのよ。
子ども 先生もいる。
伊藤 この本に、たくさん、どもりの有名人を書いた。ものすごい数、いるけどここに書いたのは、36人だけど。
子ども 伊藤先生も。
伊藤 僕なんか、有名人じゃないじゃん。ブルース・ウィリスって知ってるかい。
子ども あーっ。知らない、知らない。
伊藤 ダイハードっていうものすごくヒットした映画があって、ハリウッドの映画スター。その人はどもりなんだよ。
子ども えっ、マジ?
伊藤 マジだよ。それとか、みんな知らないだろうけど、マリリンモンローという女優も。
子ども そんなん、うそっ。
伊藤 マリリンモンローなんて、知ってるのか、知らないくせに、もういいかげんな反応するな。
子ども なんとなく、知ってる。
伊藤 昔の昔の人やで。
子ども そうそう。すっごく昔の人。
伊藤 それとか、首相に2人もいる。
子どもたち えっ、本当。
伊藤 日本の首相田中角栄は、子どものときからすごいどもりで、何かをしたとき、「おまえだろ!」と言われて、「…」と言えなくて、先生に殴られた。イギリスのチャーチルという首相もそう。たくさんどもりの人が、どもっていても、いろんな仕事に就いている。みんな、こういう仕事に就きたいということ、あるの?
子ども 水泳選手。
伊藤 水泳選手は、どもっていても泳げるわな。
子ども 海洋生物学者。
伊藤 すごい。学者にはなれる。学者にはどもりいっぱいいる。
子ども えっ、そうなん。
伊藤 江崎玲於奈という物理学でノーベル賞をもらった人もそう。もっとほかに何になりたい。
子ども サッカー選手。
伊藤 できるな。
子ども 車の開発チーム。
伊藤 いいね。研究者とか、開発者とか、そういう創造的な仕事に就いている人は、どもる人にいっぱいいる。僕の親しい人に桂文福という落語家がいるんだけど、どもるんやで。高座といって、お客さんがいて、落語をするところだけど、そこで、どもってる。どもりながら、落語をしている。話すことの多い仕事をしている人も多い。学校の先生にも、どもる人はいっぱいいる。どもる先生が困ることはどんなことか、分かる?
子ども 分からない。
伊藤 卒業式。
子どもたち あー。えー。
伊藤 君らも名前が言えない。卒業式のときに、言いにくい名前の子がいたときに、困るやろ。
子ども もしかして、校長先生がどもりだったら、やばい。
伊藤 校長先生でどもる人いっぱいいる。僕の親友も養護学校の校長やで。僕のところに、相談があったんだけど、どもるから、卒業式のある6年生を担当するのが嫌だった先生がいる。子どもに教えているときは、あんまりどもらないけど、卒業式のしーんとした中で、言いにくい名前の子がいる。どうしても言いにくい子がいて、どうしましょうという相談がよくある。そんな相談があったら、どうする?
子ども はー。すみませんと言う。
伊藤 名前を間違って、すみませんでは、あかんやろ。
子ども 言いにくい子は、パス。
伊藤 飛ばされたら子どもが嫌やろう。
子ども 教頭先生に任せる。
伊藤 今、いいこと言ったね。教頭先生に任せる。そういうふうにした先生が実際にいるよ。
子ども あっ、それ、便利、便利。
伊藤 みんながひょっとしたら就けないんじゃないかなと思っている仕事にたくさんの人が就いている。「合点していただけまでしょうか」。
子どもたち 合点、合点。合点、合点
ともだちをつくる
伊藤 次、みんなから出された質問でたくさんあったのが「お友だちをたくさん作るにはどうしたらいいですか。友だちがあまりいないのだけど、どうしたらいいですか」。はい、この中で、友だちがいっぱいいる人?
子どもたち はーい。はーい。
伊藤 ああ、そう。あまりいない人は?
子ども はい。2,3人でいい。
伊藤 あまりいないことに対して、どう思ってる?
子ども 平気。どうせ、高校に行ったりしたら、今までいた友だちも少なくなる。
伊藤 おもしろいこと言うね。どうせ別れる、か。彼が言ったように、2,3人でいいじゃん。何もたくさん友だちがいる必要はない。友だちがいなくて困っている人、手を挙げて。困っているなら、そのことを考えよう。どうしたら、友だちができるか。何かみんないいアイデアはないか?
子ども その子の好きそうな遊びをする。
子ども 友だちがいないという経験をしたことがなくて。みんなで遊んだりつき合ったりして、みんなが友だちという感じ。
伊藤 それはいいね。でも、彼が困っているから、何かいいアイデアはないかな?こうしたらいいのんじゃないというのはない?
子ども 話しかければいい。
伊藤 話しかけなきゃどうにもならんね。
子ども 一緒に帰る。
伊藤 話しかけるときに、どんなことを話しかけるんや。
子ども 挨拶。
子ども 放課後、一緒に遊ぼうとか。
伊藤 自分から声をかけないと友だちはできないな。向こうから声をかけてくれるのを待ってたらなかなかできないよな。で、声をかけるときにどもるから嫌なんだよな。
子ども だけど、どもることを分かってくれる人と友だちになったらいい。
伊藤 いいね。どもりを分かってくれる人とか、どもっても笑わない人に話しかけたらいいわけだ。笑うような、くだらない人間とはつき合わなかったらいい。みんなと友だちになろうというのは、無理だね。ちょっと難しいか、友だちにしゃべりかけるのは。今、何年生?
子ども 一年生。
伊藤 一年生か。友だちは、ひとりもいない?
子ども ひとりはいる。
伊藤 いいね。ひとりはいるって、いいね。そのお友だちとどうしているときがおもしろい?子ども 遊んでいるとき。
伊藤 その子となら、一緒に遊べるんだね。二人で遊んでいるとき、誰か来ない?
子ども 来るときもある。
伊藤 来るときもあれば、来ないときもある。二人で遊んでいたら、それでおもしろいんだね。じゃ、ひとりいるわけだ。それでもういいよね。
子ども うん、ひとりいたらいいよ。
子ども ひとりの方がいいよ。
伊藤 ひとりの方がいいと言っている人がいる。
子ども そうそう。
子ども でも、いい友だちなら、何人いても困らない。
伊藤 そりゃ、困らないよね。
子ども それはそうだね。
伊藤 みんなはどういう人間だったら、友だちになりたいと思う?
子ども どもりを分かってくれる人。
子ども どもっている人と友だちになったらいい。
伊藤 同じようにどもっている人と友だちになったらいいということやね。それは分かったけど、僕が聞きたいのは、みんながどういう人間になったら、相手が好きになってくれるかな、ということ。言ってること、分かる?自分がどういう人間だったら、相手が好きになってくれるか、友だちになってくれるか、考えたらいいね。
1時間たったよ。もう終わりでいいかな。お友だちのことは、それでいいのかな。ひとつには、友だちはたくさん必要ない。ひとりでもふたりでもいたらそれでいい。そう考えよう。はい、終わりにします。(了)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/27