2月15日、久しぶりに松元ヒロさんのライブに行きました。
ヒロさんは、2006年の吃音ショートコース「笑いとユーモアの人間学」で講師に来て下さった人です。芸人としてライブはたくさんしているが、笑いについてのワークシヨツプなど考えたことも、したこともないと、おっしゃりながら、引き受けて下さいました。1泊2日の時間拘束など初めてだったろうと思います。
私は、笑いとユーモアについて、吃音のワークショップで取り上げたいと長い間考えていました。障害や病気、劣等感や自分の弱点と自分で考えるものについて、少し距離をおき、「人間って弱いものだよなあ」「誰でも失敗するものだ」「いつでも同じ失敗をするなあ」などと、苦笑いしたり、笑い飛ばす。弱い立場の人間にとって、「笑いとユーモア」は生活に欠かせないのです。
しかし、実現しなかったのは、適切な講師がみあたらなかったからです。大阪に長く住みながら、私は吉本興業の笑いにとてもついていけません。嫌いです。まったくおもしろくないのです。昔はそれでも、中田ダイマル・ラケットや夢路いとし。きみこいしなどの漫才の時は演芸場にもいったことがありました。笑いが大好きなのに、伸助・竜介は大嫌いで、明石家さんま、ビートたけしなどもみることがないとなると、日本の話芸の中では、落語しかありません。オール巨人・阪神だけがなんとか笑える程度というのは、大阪人としてはさみしいものです。
笑いは大好きなのに、笑えない。もちろん日常生活では笑いにつつまれ、大笑いすることは多いので、芸人に笑わせてもらう必要はないのですが。
テレビが3流の笑い芸人に占拠されていることに、にがにがしい思いをしていました。落語は大好きですが、腹の底から笑える性質のものではありません。講師が決められないままに、笑いの企画はずっ棚上げになっていました。
私がずっと愛読している「週刊金曜日」に政治学者、「悩む力」が後にベストセラーになつたカンサンジュンさんと松元ヒロさんの対談記事がありました。カンさんも松元ヒロさんの大ファンだとその対談にのっていたので、吃音ショートコースにはこの人にきてもらおうと考え始めました。そして、名古屋で開かれるという情報をえて、名古屋までライブを見にいきました。
おもしろく、楽しく、またほろりとさせるライブはとても素晴らしいものでした。芸人の芸で本当に久しぶりに、腹の底から笑いました。何とも言えない、心地よさでした。その場でヒロさんに挨拶し、依頼をしました。
2006年の吃音ショートコースと名づけた2泊3日のワークショップにヒロさんは来て下さいました。笑いについて話をし、パントマイムの実習などを取り入れた、まさに、笑いのワークショップてした。圧巻は松元ヒロライブです。いつものライブは長くても90分ほどしようが、私たちのその場では時間の制限がありません。ご自分のネタのいくつかを、力いっぱい演じて下さいました。ほとんどの参加者が、こんなに笑い続けたのは初めてだといいました。
ヒロさんは、政治ネタを得意とします。時の権力に鋭い批判をします。時の首相は小泉純一郎です。なんでこんな人間を日本人は支持するするのか、とても不思議でしたので、こき下ろしてくれるのは、本質をついて、愉快でとてもおもしろいのです。自民党を壊すといいながら、自民党をよみがえらせ、日本国民の生活を壊しました。それなのに、自分はいいことをしていると信じている姿が、なんとも滑稽です。自分の政策というのではなく、ただアメリカの押しつけの政策を実行しているだけのことです。アメリカ資本を導入しやすいように、規制を緩和し、派遣労働者を増やし、タクシー業界などをむちゃくちゃにしました。今年の「派遣村」は小泉政治の当然の帰結でした。今になって、やっと国民は小泉のインチキに気づき始めていますが、小泉本人は、いいことをしていると思っているが、言動はむちゃくちゃでした。それを松本ヒロさんが、小泉の真似をしての辛口の風刺をするのです。とてもおもしろく、溜飲が下がる思いでした。
ところが、今回のライブ。首相は麻生太郎です。もうその人そのものが、マンガです。ネタとして取り上げるよりも、ネタそのものを国会議事堂で繰り返している人です。そのときはまだ中川昭一は登場していませんが、G7会議の泥酔会見などは、そのようにことは現実になくても、松元ヒロさんなら演じてみせる芸です。それを現実の政治の場面で起こっているのでは、それをヒロさんがしても、芸にはなりません。今や日本の政治、財界のすがたそのものが、「お笑い」の世界なのです。
笑いは、大きな権力や、権威に、つまり大きな壁に向かって、ドンキホーテのように突進していくから、おもしろいし、痛快なのです。それがばかばかしいほどに、マンガチックな政治に対して、政治をこけにしても、心のそこからは笑えないのです。むしろ、むなしく、悲しくなってくるのです。笑いながら、自分をおとしめているようなきがしてきます。なさけない日本に住んでいて、何もできないいらだち、無力感におそわれるのです。
そこはヒロさんの芸ですから、もちろん笑えるのでずか、2006年のライブとは大きく違いました。ヒロさんも、麻生になってやりやすいと想ったのですが、かえってとてもやりにくいではないかと思いました。
日本を、日本人をぶっ壊した小泉純一郎が「腹が立つより、笑っちゃう」といった、お笑い芸人の首相をもつ、私たちはなんと不幸な国民だとつくづく思いました。
それでも、さすがにヒロさん。私たち、ヒロさんの大ファンの仲間が7人ででかけ、最前列で盛り上げました。すぐに、ヒロさんから、みんなにきてもらってうれしかったと、ハガキを頂きました。
笑いは、その人を表します。チヤップリンがそうであるように、人に対する優しさのない芸は、私は認めません。島田紳助がはびこるテレビ界はいつしか衰退していくだろうと想います。しかしその前に日本人が衰退していくのかも知れませんが。
吃音とは関係ないところで、腹立たしさのままに長々と書きました。いろんな政治の立場の人が読んで下さるブログにはふさわしくない話題です。が、自分の気持ちに正直に書いていくと始めたブログなので、書きました。私のストレス解消とご理解下さい。不愉快に思われる人もおられるでしようが、お許し下さい。
このようなことを頻繁(はんざつ)に書くつもりはありませんのでお許し下さい。
2009年2月27日 伊藤伸二
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素晴らしい、松元ヒロさんと出会えます。