伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

吃音親子サマーキャンプ

第5回 ちば吃音親子キャンプ、終わりました

 9月30日・10月1日、千葉市立少年自然の家で、第5回ちば吃音親子キャンプが開催されました。滋賀で開催している吃音親子サマーキャンプにスタッフとして、長年参加している渡邉美穂さんが中心になって、千葉でも、どもる子どもや保護者、スタッフが集まって、吃音についてじっくり考えたいと始めたものです。
 僕は、第1回から欠かさず参加しています。
 吃音についての話し合い、保護者の学習会、作文など、吃音親子サマーキャンプが大切にしているエッセンスを踏襲していて、それに加えて、千葉ならではの、オープンダイアローグを取り入れた参加者全員での話し合いの場を大切にしています。
 ちょうどいい人数で、オープンダイアローグのフィッシュボウルの手法を取り入れています。円の内側には椅子が5脚、周りには取り囲むように全員が座ります。話せるのは内側の人たちだけ。話したいことが話せたら外側に戻り、別の人が内側に座って話すという、入れ替わり立ち替わり移動して、流動的なおもしろい話し合いが展開します。小学生がこのような対話ができることが、すごいことです。三人の子どもと僕が対話をするその輪の中に子どもだけでなく、保護者や教員が加わってきます。最初、僕は、とても子どもには無理だろうと考えたのですが、今、子どもたちに謝りたい気持ちです。
 渡邉さんが、ちば吃音親子キャンプが終わったことを報告しているので、それを紹介します。

 
ちば吃音親子キャンプが終わりました。
 日帰りの人も入れると45人の参加がありました。
 子どもたちは、吃音かるたを作ったり、オープンダイアローグのフィッシュボール(金魚鉢)で伊藤さんと対話したりしました。
 親は、伊藤さんと3時間、1時間半と2回の学習や相談をしました。
 私も2日間でたくさんいろいろな人と話しました。
 おもしろかったのは、6月の吃音ショートコースで日本語のレッスンをしたのですが、そのときの材料が、歌舞伎の白浪五人男の名台詞でした。それを使って、みんなで声を出しました。それがおもしろかったので、私は、通ってきている子どもたちに知らせました。すると、その口上を真似て「自己紹介」を作る子どもがいました。その自己紹介をキャンプ1日目にみんなに披露したのですが、2日目には、参加している子ども全員が、その歌舞伎の口調で自己紹介を考え、発表しました。歌舞伎など知らないような1年生も、「知らざぁ言って聞かせやしょう!7年前に千葉で産湯につかり・・・・」とおもしろい自己紹介を考えて披露しました。
 苦手でできれば避けたいと思っていた自己紹介が、こんなにおもしろくユニークな形で目の前に表れ、子どもたちもびっくりしたと思います。作ったり、発表したりしている子どもたちは、とても楽しそうでした。吃音カルタも作りました。子どもたちのその場での対応力や想像力を、吃音かるたや自己紹介で感じました。
 伊藤さんの話を聞いた親たちからは、「聞きたいことがきけてよかった」「これから子どもと対話をしていきたい」などの感想がありました。
 溝口さんが、子どもが書いた作文を読んで、子どもと対話をすることで、さらに子どもが、書いた作文に自分の思いを追加したり、広げたりして表現していました。こうやって子どもたちの思いが広がっていくんだと、私は学びました。
 竹尾さんと出口さんが、出会いの広場で、参加者がリラックスできるようなゲームや歌を準備してくれました。みんなで四つの窓で話をしたり、ドレミの歌で歌詞を考えたりしました。「ドは、ドラえもんのド〜」など。
 本当に楽しい時間があっという間に過ぎました。
 17人のスタッフが、キャンプを支えてくれて、無事におわりました。
 終わってすぐ、その場で、来年の予約をしました。来年は、10月5・6日(土・日)です。来年も楽しみです。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/10/04

濃密な3日間をふりかえって〜「吃音の夏」のしめくくり 第32回吃音親子サマーキャンプに参加しての感想2〜

 荒神山 丘初めて参加された方の感想を紹介しました。今日は、同じく初めて参加されたスタッフの方の感想です。吃音親子サマーキャンプは、どもる子どもとその保護者が参加するものですが、ことばの教室担当者や言語聴覚士の参加も大歓迎です。リピーターのスタッフが多い中で、初めて飛び込んできてくださった、ことばの教室担当者の感想を紹介します。その後にもうひとり、昨年初めて参加し、今年2回目の人の感想も、あわせて紹介します。
いつ頃からか、吃音親子サマーキャンプを参加者はサマキャンというようになりました。


 
この度は、吃音親子サマーキャンプに参加させていただき、ありがとうございました。初参加でしたが、不安なこともありましまが、スタッフの方に優しく声をかけていただき、心強かったです。
 参加しようと思ったきっかけは、ことばの教室の教員になり、担当の吃音をもった子どもたちと過ごす中で、吃音のことや支援方法を学びたい、吃音をもつ人やその保護者とかかわりたいと思ったからです。
出会いの広場 実際にスタッフとして参加させていただき、1番心に残っていることが、2つあります。
 1つ目は、吃音を持ちながらも、それを受け止めてたくましく生きておられるサマキャン卒業生やそれにかかわるスタッフの皆さんと一緒に活動できたことです。今担当している子どもたちにも、卒業生の皆さんのように、自分の吃音と向き合い、自分らしくすごしていけるような力を身につけられるように、共に寄り添っていきたいと思いました。
 2つ目は、サマーキャンプのプログラム構成がよくできているなと実感しました。特に話し合いが印象深かったです。2回の話し合いでは、小5、6年生グループで、サマーキャンプに参加したきっかけ、吃音のことを知らない友達に、どんな言葉で何を伝えたらよいのかについて、率直に語っていきました。吃音のことを気にしているのは、本当は自分であることに気づき、説明する人を見極めることが大切だという結論をみんなで出していきました。グループにいる人が、みな対等に、応答性をもち、ゴールが見えなくても耐えて対話を続けるという場面を目の当たりにし、吃音と自分から向き合うということは、こういうことなのだと知りました。
劇の練習1 劇づくりでは、積極的に役に立候補し、グループでもアィディアを出し合う子どもたちの姿や本番でどもりながらも、一生懸命に演じる姿に胸が熱くなりました。子ども達の、保護者、そしてサマキャンのスタッフの方の心の通い合いを見たように思います。
 3日間、貴重な経験をさせていただき本当にありがとうございました。
 これから二学期にことばの教室に来る子どもたちに、サマーキャンプの体験を話したいと思います。そして、さらに吃音に関する知識や対話の方法も学びつつ、子ども達やその保護者の方に還元したいと思います。(兵庫県 ことばの教室担当者)
  

                
 
スタッフの皆さん、2泊3日お世話になりました。サマキャン2回目の参加の母です。感想が遅くなってしまい、申し訳ございません。
 昨年、初参加したのですが、娘自身、吃音のみんなと一緒に生活することが楽しく、また、心に残る大切な時間を過ごしたようで、「今年も参加したい!」という本人の思いを尊重し、参加させていただきました。
 私は、昨年参加した時の、「親がすることは、サマキャンに連れてくること」と言う言葉が、ずっと頭に残っていました。それはまるで呪文のようでした。
 連発のある娘ですが、昨年からの1年間、私の知る限り、悩んでいる様子は見られませんでした。なので、参加時アンケートで「悩んでいることはありますか」の欄を見たとき、特に書くことがないなぁと内心思いつつも娘にどんな感じか聞いてみたのですが、からかわれたりすることがある、との返事に、私はとても驚きました。なぜならば、本当に落ち込んだり、消極的になったりしたことがなかったからです。
 小学校の個別懇談のときも、先生から、「よく手を挙げる。声が小さかったり、少し黙り込むこともあるけれど、それでも手を挙げている。私にもよく話しかけてくれるので嬉しい」という話をお聞きするのですが、その度、私は、すごいなぁと思っています。
 これはやはり、本人も言っていましたが、サマキャンで勇気をもらった、ということに繋がるのだと思います。自分は1人ではない、たとえ普段はまわりに吃音の子がいなくても、同じ吃音のみんながいるんだ!と思えたことは、何物にも変え難い体験になり、力になっているんだと感じます。正直なところ、親としては、吃音で悩んだ時、どうやって関わっていけばいいのかわかりません。しかし、家族の共通認識として、吃音は個性と思っているため、あえて意識して生活する必要もなく、吃音に限らずですが、子どもの様子がおかしいなと思った時は、話を聞く、一緒に寄り添う、それでいいのかなと思います。
 サマキャンで学んだ、親はこどもの犠牲にならず、自分の生活を楽しむ、逆も同じ。転ばぬ先の杖はよくない。ごはんをきちんとつくる。結局は、子どもが自分自身で乗り越えていかなければならないことであるからこそ。
 きっと辛いことは今後出てくると思いますが、そんなとき、伊藤さんもおっしゃっていた、レジリエンスが大切になるのだと思います。押しつぶされても元に戻る力、心のしなやかさは、人生においてとても重要で、サマキャンで手に入れた新たなお守りを胸に、楽しいことや辛いことなど、様々な体験を通して、レジリエンスを培っていってもらいたいと思います。
 娘は、学校の吃音通級教室では、短時間のため、あまり発言はしません。自分の意見を言うのは苦手らしく、いつも静かです。(だから余計に、学校の先生から聞いた話は本当なのか?と思ってしまうのですが、本当のようです)
観客と伸二 しかし、サマキャンでは違います。劇など大勢の前で何かをする時は恥ずかしい気持ちが先行するようですが、昨年よりは声も出ていたように思いますし、また、みんなとの話し合いをする時も、自分の意見を言ったと本人から聞きました。2泊3日、同じ生活することで、心を許していくのだなと思います。
 吃音のみんなが、一堂に会し、生活する機会を作ってくださっていること、心から感謝しております。また、来年も参加できますように。長文乱文失礼しました。本当にありがとうございました。(小学5年生の母親) 


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/09/08

濃密な3日間をふりかえって〜「吃音の夏」のしめくくり 第32回吃音親子サマーキャンプに参加しての感想〜

荒神山 丘 2泊3日の吃音親子サマーキャンプの報告をしてきました。濃密な3日間でした。毎年、いいキャンプだったなあと思います。そして、今年も、いいキャンプでした。スタッフにとっても、きっと参加者にとっても、いいキャンプだったろうと思います。そう思える時間をともに過ごせたことを幸せだと感じています。
 参加した全員に向けて、感想を書いてほしいとお願いしました。今、メールや手紙やFAXで、感想が届いています。それぞれにいろいろなことを考え、感じた3日間だったようです。
 届いた感想の中から、今年初めて参加された方の感想を紹介します。

 
はじめての参加でしたが、帰ってきて思い返してみると、「参加してよかった」と心から思います。キャンプ中は正直、大変でした。息子は、初日から帰りたがっていました。初めての場所は苦手で、家でいつもペースで過ごすことが好きな息子は、大勢の人や音にも敏感に反応していました。何度も荷物をまとめて帰ろうとして、時に大声で帰ると泣く息子にどうすればいいのかと思いました。
 でも、初日からことばの教室の先生に、2階の遊びのスペースで輪投げをしていただいたり、声をかけてもらえたこと、同じ部屋になった他のお母さん方からも、私にも息子にも声をかけてもらったこと、他にも大学生のスタッフからも何度も息子を誘ってもらったり、ごはんを一緒に食べてもらったりと、親子共々みなさんにとても支えていただきました。息子もイヤだと言いつつも、逃げ出しはしなかった。いろんな方に話を聞いてもらえていることは本人も嬉しかったと思います。そして、自分以外の吃音の子に会うのも彼にとって初めてです。肌で「自分だけじゃない」と思えたことはとても大きいことだと思います。高校生や大学生のお兄さん、お姉さんが楽しそうにしていることも親子共々希望が持てました。
子どもの劇8 劇も初めての経験でした。本人が本番、楽しんでいるのは見ていてよく分かりました。この経験が自信になっているのもすごく感じます。他の子ども達のいきいきとした姿にも心が熱くなりました。
 あと、親同士の対話、伊藤伸二さんとの対話もすごく心に残っています。
 息子だけじゃなく、私自身も悩んでいるのは自分だけじゃないと思えたことは、これからの心の支えになります。
 これからも、悩むことも多いかもしれませんが、なんとかなりそうと思えます。
 来年も参加します。2回目はどんな姿が見れるのか今から楽しみです。本当にありがとうございました。
 吃音親子サマーキャンプに参加できたこと、とても幸運でした。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/09/05

「吃音の夏」のしめくくり 第32回吃音親子サマーキャンプ 最終日

荒神山背景 サマーキャンプ最終日、朝からいいお天気でした。空の青さと、荒神山の木々の緑が、目にまぶしい朝でした。最終日は、いつもの音楽が鳴りました。「年に一度は、この曲を聞かないと」と言うスタッフもいます。ラジオ体操の後、いくつか連絡をするのですが、シーツを担当してくれているスタッフが、自分たちのことを「シーツシスターズ」と名付け、シーツのたたみ方などをみんなの前で見せてくれました。ポーズも決めていました。何をするのも、ユーモアあふれるスタッフです。
シーツシスターズ ポーズ朝のつどい みんな 


 朝食後、子どもたちは、劇の最後の練習です。上演場所となる学習室でのリハーサルを順番に行いました。そしてその間、保護者も、表現活動に取り組んでいました。
劇練習1劇練習2
 実は、この親の表現活動、サマーキャンプの隠れた名物プログラムになっています。始まりは、ほんのちょっとしたことがきっかけでした。子どもたちが、苦手な劇に挑戦しているのだから、親も何かしようか、そんな始まりだったと思います。歌を歌ったこともありました。谷川俊太郎さんの「生きる」の詩を、ひとり1行ずつ読んだこともありました。それが、いつのまにか、定番になって、ここ最近は、工藤直子さんの「のはらうた」を、グループごとに表現することになってきました。題して、「荒神山ののはらうた」です。今年で17回となりました。
 毎回、話し合いのグループごとに集まり、のはらうたの一つを表現します。ことばに合うふりつけを考え、声を出し、動き回り、踊り、汗をいっぱいかきながら、開演ぎりぎりまで練習している親の姿を、僕は毎年、感心して見てきました。そして、子どもたちの劇の前座をつとめるのです。子どもたちは、自分の出番を控え、どきどきしています。そこへ、普段見ることのない親の弾けた姿を見ます。そして、自分たちもと、上演に向かうのです。親たちも、子どもたちの緊張感を共に味わうことで、何ともいえない一体感が漂うことになります。
 でも、今年は、この親の表現活動をするかどうか、実は迷いました。初参加が多く、今までのようにリピーターがリードしていくことが難しいのではと思ったからです。どんなものになるか分からないが、ちょっと負荷のかかることに取り組むことも意味があるだろうと考え直し、いつものように行うことにしました。だんごむしとかぶとむしとかまきりが登場する詩を選びました。みんなで声を出し、グループごとに詩を読み合いながら、後は、自由に練習してもらいました。1時間弱くらいだったでしょうか。リハーサルをして、手直しをして、上演を待ちました。
親の表現1親の表現2親の表現3 午前10時、荒神山劇場が開演しました。保護者の前座「荒神山ののはらうた」の後、子どもたちによる「森は生きている」の上演でした。どちらも見事でした。どもりながらも、せりふを言い切る子、声を届ける相手の存在を確認してせりふを言う子、短い時間にせりふをしっかり覚えてしまった子、普段の学校では劇に出ることなどないのに今回は役を全うした子、おもしろいアドリブを考え、それを取り入れて受けたので大喜びの子、たくさんの子どもたちのいきいきした姿を見ることができました。
 終わった後、今年は、卒業式がなかったので、少しだけ時間に余裕があったので、初参加の人全員に感想を聞きました。スタッフにも感想を聞くことができました。
子どもの劇1子どもの劇2子どもの劇3子どもの劇4子どもの劇5子どもの劇6子どもの劇7子どもの劇8
 僕は、今年、79歳です。以前は、何も考えずまた来年会いましょうと言っていましたが、ここ最近は、そう簡単には言えません。いつまで続けられるかと、ふと思います。今年も、今年が最後のつもりで荒神山に来ました。そして、終わった今、とりあえず、来年は開催しようと思いました。一年一年、その思いで続けていくことになるのだと思います。
 しかし、今回、小学5年生から参加しているスタッフのひとりが、仲間と話し合って「どもる子どもの未来を考えると、吃音親子サマーキャンプの火を消してはいけない。だから、私たちが引き継ぎます」と言ってくれ、最終日の振り返りの時に表明してくれました。若いスタッフの熱い想いが、僕に新たなエネルギーを注入してくれました。僕が倒れても、吃音親子サマーキャンプが続くと思うと、まだまだ続けられそうだとの思いがふくらんできます。
 最寄りの駅である河瀬駅に向かうバスを見送って、サマーキャンプは、無事終わりました。

 たくさんの人が、例年以上に「参加してよかった」と具体的なエピソードを添えて感想文を送ってくれました。サマーキャンプが大切にしてきたことをしっかりつかんでくださったことが、とてもうれしかったです。 
  あなたはひとりではない
  あなたはあなたのままでいい
  あなたには力がある
 このことを伝えたくて、僕はまた来年、この場に来たいと思います。
観客と伸二帰りのバス
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/09/03

「吃音の夏」のしめくくり 第32回吃音親子サマーキャンプ 二日目

 いつの間にか、9月に入りました。毎年、サマーキャンプが終わると秋の訪れの気配を感じるのですが、今年はまだまだ暑いです。みなさん、夏の疲れが出ませんように。

つどいの広場 吃音親子サマーキャンプ、2日目の朝がきました。
ラジオ体操 いつもなら、自然の家の音楽が流れるのですが、何か不具合があったらしく流れません。でも、サマキャン卒業生の若いスタッフが、子どもたちに声をかけ、朝のスポーツに誘っていました。基本的には、参加自由の朝のスポーツです。僕が、ラジオ体操が始まるぎりぎりの時間に、つどいの広場に行くと、みんな、バドミントンをしたり、フリスビーをしたり、思い思いに遊んでいました。子どもたち、今日も元気です。

作文教室 2日目は、作文教室から始まりました。
 どもる子ども、保護者、きょうだい、スタッフ、参加者全員が、原稿用紙に向かいます。吃音にまつわるエピソードをひとつ、タイトルをつけ、様子がよく分かるように丁寧に書いていきます。「国語教育と吃音」をテーマに大学院で博士論文を書いているスタッフが、書く前にみんなに「自分と向き合うために、吃音と向き合うために、思い出して書きましょう」と声をかけていました。この作文教室が、この時間に設定されていることも、僕はとても絶妙だと思っています。一日目の夜に話し合いをし、この作文の後にも話し合いをします。作文教室は、話し合いにサンドイッチされた状態で行われます。
 話し合いは、ほかの人たちがいる中で、触発されながら、自分のことを考えます。
 作文は、ひとりで、自分や自分の吃音に向き合う時間です。また、話し合いは、話すというコミュニケーションのひとつで、作文は書くというコミュニケーションのツールを使います。話すことか書くことか、自分の得意なツールで自分を表現することができるのです。そして、それはお互いに影響し合います。いつだったか、作文を書きながら、これまでのことを振り返り、ちょっとしんどくなった女子高校生がいました。2回目の話し合いに参加せず、近くを散歩して、気分を整え、次のプログラムには元気に加わりました。
 また、書けない子もいます。僕は、それはそれでいいと思っています。無理矢理書かせるのではなく、みんながそれぞれに書いている中で、書けない自分と向き合うことも意味のあることだと思っています。小さい子にはお手伝いをしたり、絵日記風にしたり、支援をしますが、基本的には、この時間は、自分ひとりで向き合う時間です。
基礎講座 作文と平行して、参加経験の浅いスタッフ向けのサマーキャンプ基礎講座を設けています。特に、初めて参加するスタッフは、ほとんど何も事前の打ち合わせをせず、サマーキャンプが始まります。とまどいの中で一日を過ごしたこの時間に、自分が感じた疑問や質問を出してもらい、僕やそのほかベテランのスタッフが自分の経験を話します。サマキャン卒業生も、ここで、サマーキャンプの舞台裏を知ることになります。一参加者として参加していたときとは違うサマーキャンプの意味づけができるようです。何か気の利いたことを言おうとしなくていい、アドバイスする必要もない、吃音と共に生きているそのままの自分を出してくれたらいいと思っています。
 作文が終わったら、2回目の話し合いです。作文を書いたことで、より深まったり、1回目の続きで広がったり、それぞれのグループで展開されました。僕が参加していた小学生5、6年生の話し合いは、とても興味深いものになったので、別の機会に報告します。
劇の練習1 午後は、親子別々のプログラムです。子どもたちは、劇の練習が始まります。昨夜見たスタッフによる見本の劇を思い出しながら、初めは、配役を決めず、自由にいろいろな役になり、やりとりを楽しみます。誰に向かってことばを届けるのか、相手のからだに届く声を意識して取り組みます。みんな、真剣に、でも笑いの中で練習が続きます。
 そして、3時過ぎ、子どもたちは野外活動に出発します。近くの荒神山へのウォークラリーです。生活・演劇グループごとに出発です。ここでも、サマキャン卒業生スタッフが大活躍です。毎年、登ってきた荒神山、途中いろいろな話をしながら歩くこと、山頂での眺めの素晴らしさ、そんな楽しさを伝えるため、事前に打ち合わせを行い、出発前の説明も自主的にしてくれています。
親の学習会 子どもたちの活動と並行して、保護者は、親の学習会を行います。
 これまで、親の学習会では、論理療法、アサーショントレーニング、ポジティヴ心理学、レジリエンスなど心理学を、エクササイズを通して学んだり、グループごとに分かれて模造紙にまとめて発表したり、さまざまな形で行ってきましたが、今年は、初参加者が多いこともあって、初心に戻り、参加者から質問を出してもらい、それに答えていきました。 ひとつの質問から話は広がり、時間がどれだけあっても足りません。予定の時間を40分もオーバーして、午後1時に始まった親の学習会は、5時40まで続きました。出された全員からの質問に答えることができました。何度か強調したのは、親の課題と子どもの課題を分けること、どもる子どもをかわいそうと思わないこと、子どもの力を信じて見守ることの大切さでした。
 荒神山から帰ってきた子どもたちと合流して夕食です。
 コロナの前までは、この夕食を外のクラフト棟で食べていました。メニューは、カツカレー。20回だったか、25回だったか、記念の年に、何か記念になることをと思って、食堂に無理をお願いし、カツカレーにしていただいたことがその後の定番になっていました。緑のきれいな自然の中で、みんなでカツカレーを食べる光景は、どこを切り取っても絵になります。写真を見ると、みんな笑顔です。僕は、この光景を見ると、「吃音ファミリー」ということを思います。大きな輪になってみんなが笑っている、温かい空間なのです。コロナ後、それができなくなりました。蚊が大量発生し、とても外で食事をとることができなくなったのです。残念ですが、今年も食堂でいただきました。
 食事の後は、子どもたちは、劇の練習です。保護者は少し休憩をかねて、フリートーク。午後の学習会の疲れを少し癒やしていただきました。
スタッフ会議 午後10時、スタッフ会議です。長い二日目が終わりました。話し合いや劇の練習を通して、子どもたちの様子を交換し合います。劇の仕上がり具合を聞くと、どのグループも、「順調です。どうぞ、お楽しみに」「○○君の演技、お見逃しなく」など、翌日への期待をもたせてくれます。このスタッフ会議も、スタッフが子どもや親の様子を気にかけてくれていることが分かる、僕の好きな時間です。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/09/01

「吃音の夏」のしめくくり 第32回吃音親子サマーキャンプ 一日目

荒神山 丘 吃音親子サマーキャンプが終わって早10日経ちました。
 会場である荒神山自然の家やその食堂への支払い送金や礼状、チャーターバスの支払い、参加者やスタッフへの礼状、劇の小道具の片付けや、朝のスポーツや遊び道具の片付けなど、準備と同様に、いろいろ思い出しながら、そして来年のことをイメージしながら、後片付けをしています。ぼちぼちと届くサマーキャンプの感想を読んで、10日前のさまざまなできごとを思い出しています。劇のせりふが口をついて出てきたり、あのときあの場面での発言などが鮮やかに思い出されたり、キャンプの余韻を楽しんでいます。

入所のつどい 8月18日(金)、キャンプの初日、2台の車に荷物を積み込み、荒神山に向けて出発しました。普段、僕は車の運転をするのですが、キャンプのときはどうしても睡眠不足になるため、車の運転を控え、大阪のメンバーに車を出してもらっています。高速を走っている頃、先発隊が電車で最寄り駅の河瀬駅に向かっています。自然の家に着くと、打ち合わせをはじめ、キャンプの資料集や劇の台本、スタッフの進行表の製本、シーツの配布、麦茶の用意など、参加者が到着するまでにしなければならないことがたくさんあります。打ち合わせは、僕たちがしますが、その他諸々の準備のため、先発隊が早く来てくれるようになり、本当に助かっています。
 チャーターバスは、自然の家への狭い道には入れず、こどもセンターに着きます。そこから自然の家まで歩きます。雨が降ったらいやだなあといつも思うのですが、僕の記憶する限り、雨が降ったことはなく、バス組が集会室に到着です。リピーターは、すでに河瀬駅で懐かしい再会をしているようです。今回は、初めての参加が多いので、少し緊張している様子も見られました。

開会のつどい開会のつどい 伸二up開会のつどい みんな 入所のつどいが終わり、36名(残念ながら直前に病気などで3人がキャンセル)のスタッフの打ち合わせをします。この日、初めて顔を合わせるスタッフも多く、自己紹介の後、少なくとも初日の分だけの打ち合わせをします。この間、待っていてもらって、全員が集合するのが開会のつどいです。
 僕は、ここで、2つの話をしました。これから始まる2泊3日のキャンプで心がけたいことを話しました。ひとつは、オープンダイアローグが大切にしている3つのことです。対等性、応答性、そして不確実性への耐性です。

 対等性…先生という呼び方はせず、子どもも大人もスタッフも、みんな対等に、みんなでつくりあげていくキャンプだということです。ボランティアとか、支援者という概念は僕たちにはないのです。遠く鹿児島や関東地方から交通費を使って、参加費もまったく同じの全員が参加者という立場を32年間貫いてきました。普段「先生」と言われているたくさんの人たちが参加していますが、「先生」と言わないことがひとつのルールになっています。
 対等だから、世話をしない、教えない、指示しないが私たちのルールです。

 応答性…誰かの発言に対して必ず応答することの大切さを話しました。ちょっとした小さな声を聞き逃さず、丁寧に応答していく。話し合いを中心にしたプログラムを組む僕たちは、普段の行動のときにも対話を重視します。

 不確実性への耐性…僕たちは、「〜すべき、〜せねばならない」を、論理療法から学んだ「非論理的思考」として、もたないように心がけています。吃音親子サマーキャンプの3日間のプログラムはありますが、パスもありです。最初からそれを言うことはしませんが、劇をしたくない、山登りはできないという場合も、一応はすすめますが、最終的には本人の決定にまかせます。吃音親子サマーキャンプの目的は何かとよく聞かれることがありますが、目的やゴールはありません。ただ、ずっと続いているプログラムがあるだけで、キャンプで参加者がどのような経験をするかは、本人次第なのです。もちろん、話し合いもゴールはありません。この、どこへ行くか分からない、不確実なものに耐えていく、こうしなければならないというゴールはないこのキャンプをみんなで楽しんでいこうということです。僕たちは不安の中で始まり、最後には「今年もいいキャンプだった」と胸をなで下ろすのです。
 もうひとつは、トーベ・ヤンソンのムーミンの話からヒントを得た「三間」です。
 空間・時間・仲間、この3つの「間」を大切にしようという話です。このことばは、キャンプの間中、ずうっと、ホワイトボードに書いておきました。

出会いの広場2 プログラムのスタートは、出会いの広場です。集会室に全員が集まり、声を出したり、ゲームをしたり、歌を歌ったり、グループに分かれてふりつけをしたり、固かった表情が柔らかく、穏やかになっていくのが見えました。

話し合い1話し合い2 夕食の後は、第1回目の話し合いです。保護者は3グループに、子どもたちは小学校低学年と高学年、中・高校生は混合で2グループに、それぞれ分かれて、吃音について話し合いました。これまでなら、どのグループにも、リピーターがいて、その子たちが、話し合いをひっぱっていってくれていました。話したいことをいっぱい持って参加しているので、話がいつの間にか広がっていきます。初参加の子どもたちは、その輪の中にいて、自然と、他者の語りを聞くことになります。そして、いつの間にか、自分も語り出すという流れができていたのです。初参加者と二回目の参加者の多い今年はどうかなと心配でしたが、スタッフにリピーターが多いこともあって、また協力的な子どもたちが多かったこともあって、いつものような話し合いの場になっていきました。聞いてもらえるという安心感のある場で、子どもたちは、自分の本音を話していたのだろうと思います。対等性と応答性が保証されている中で、共に、不確実性への耐性を発揮していたのだろうと思います。
話し合い3話し合い4話し合い5話し合い6 僕が参加していたのは、小学校5、6年生グループでした。

 夜の8時、全員が学習室に集合します。事前レッスンに参加したスタッフによる劇が始まります。荒神山劇場のオープニングです。この日のために、小道具を作り、郵送してくれたスタッフもいます。今回どうしても参加できないから、せめて小道具作りで参加したいと申し出てくれました。車にたくさんの小道具、材料を運んで、その場で必要なものをつくってくれたスタッフもいます。7月に2日間の合宿で稽古をした、スタッフとしては本番の劇の上演です。いいお客さんのおかげで、多少せりふをとばしたり、間違ったりもしましたが、それもご愛敬で、今年の劇「森は生きている」を演じました。真剣にみつめてくれている子どもたちや保護者のおかげで、みんな役者になったつもりで演じることができました。一番心配そうに見ていたのが、演出を担当してくれている渡辺貴裕さんでした。出演者はみな、楽しんでいました。その様子はしっかりと観客の子どもたちや保護者に伝わったことと思います。
台本配布のとき こうして初日のプログラムが全て終了しました。上々の滑り出しです。自然の家に到着したときの、固かった顔が、緩んでいます。
 夜10時からスタッフの打ち合わせを行いました。それぞれのプログラムの中で気づいたことを率直に出し合います。気になった子どもの話が出ると、関連する話題が続きます。こんなことをしていたよ、こんなことを言っていたよと、自分が見聞きしたその子の話が出てきます。子どもを一面的にとらえてしまうことを防ぐことができます。それらを共有することで、子どもの見方が広がるのだと思います。翌日の打ち合わせをして、スタッフ会議は終わりです。参加者同様、初参加のスタッフの固かった表情もすっかり和らいでいました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/31

第32回 吃音親子サマーキャンプ、無事、終わりました

荒神山 丘 台風がほんの少し早く抜けてくれて、無事、第32回吃音親子サマーキャンプを開催することができました。昨年、たくさんのリピーターが卒業式を迎えたことと、2年間の中断が影響して、リピーターが減って、初参加が多く、2回目の人と合わせると、8割くらいでした。
 これまで自然と培われていた伝統や文化がどうなるのだろうと、少し心配でしたが、新鮮な出会いを楽しみながら、「今までどおり」は通用しないので、丁寧に対応していこうと思っていました。
 始まってみると、確かに最初は固い表情の人も少なくなかったのですが、だんだんと、毎年のように和やかな雰囲気になっていきました。
 今年のプログラムは、コロナ前と同じ、フルバージョンで行いました。
 吃音についての話し合い、演劇、話し合いと話し合いの間に設けた作文、ウォークラリー、親の学習会、どれもサマーキャンプには欠かせない大事なプログラムです。親のパフォーマンスも、最初はリピーターが少ないので難しいかなあ、やめようかなあとも思ったのですが、やっぱりちょっと負荷のかかった課題に挑戦してもらおうと思い、設定しました。練習が始まると、いつの間にか、これまでどおり、わきあいあいで、話し、動き、笑い、みんなで作り上げていく姿を見ることができました。話し合いをしてきたグループだからこその結束力でした。これまで大切してきた伝統や文化は、しっかりと根付いていたことを再確認できました。

 スタッフは、当日、初めて顔を合わせる者もいる中、子どもに対する目が温かく、子どもを大切にすることが自然にできているのがよく分かります。ひとりひとりが、その場で、それぞれの役割を果たしていること、そしてそれを信頼する仲間であること、自然に育まれるその雰囲気がなんとも言えず、居心地のいいものでした。このスタッフのチームワークは、本当に不思議で、とてもありがたく、誇らしく思います。
 終わってみれば、今年もまたいいキャンプでした。
 大勢の人の力が集まって、サマーキャンプというすてきな空間が作られているのだと思います。
 感想文が届き始めていますが、いつも演劇のための事前の二日間、スタッフに演劇指導をしてくださる、東京学芸大学教職大学院の渡辺貴裕さんの感想をまず紹介します。noteからです。

 (https://note.com/takahiro_w/n/nccfd06b1b104 参照 2023年8月24日)
          子どもがもつ力に圧倒される
       〜第32回吃音親子サマーキャンプに参加して〜
                      渡辺 貴裕
 第32回吃音親子サマーキャンプ(主催:日本吃音臨床研究会)を終えた。
 どもる子どもと親が、琵琶湖畔にある荒神山自然の家に集まり、2泊3日を共に過ごす。
 どもる大人(成人吃音者)やことばの教室の教師や言語聴覚士などもそこにスタッフとして加わる。
 8月18日(金)〜20日(日)に開かれた今回、2000-2001年のコロナ禍による休止を挟んだ影響か、子ども&親のリピーター参加が減っていたが(初参加者率増)、それでも参加者は全体で80名ほど。大阪・兵庫を中心に、三重やら千葉やら神奈川やら鹿児島やら全国から集まる。
 学生時代から、かれこれ連続22回目の参加になる。なぜ私はこうして参加し続けているのか。 今でこそ竹内敏晴さんの後を継いで事前合宿でのスタッフ向け劇の指導を担当するようになってはいるが、元々はそうではないのだし、別に、演劇教育の専門家として参加しているわけではない。もちろん、吃音の専門家でもない。また、ボランティアとして他人の役に立つために、というのもちょっと違う。むしろ、「専門家」でも「ボランティア」でもなく、何も背負わない者としてその場に居て、それでいてかつ(あるいは、だからこそ)、子どもがもつ力に圧倒される、人間ってすごいなあとしみじみ思える、そんな経験を毎年できるから、私は参加し続けているのだと思う。
 1日目の話し合いでは(吃音の調子もあってか)一言もしゃべらなかった高校生の子が、2日目の話し合いでは、自分が就きたい仕事のこと、オープンキャンパスに行って「どもっててもその仕事でやっていけるか」尋ねたときのこと、なぜその仕事を目指すようになったのかといったことを、時々言葉が出なくなりながらも、話す。周りのメンバーは、それにじっと耳を傾ける。ごく自然に、けれども極めて濃密に、話すことと聴くこととが行われる。
 2日目朝の作文で、ことばの教室のこととキャンプのことを書いてきた小学生。どちらもすごく楽しい、特にことばの教室は、学校の中で一番楽しい時間だという。ただし、その楽しさは、椅子取りゲームとか、いっぱい「ゲームができるから」。「じゃあキャンプの楽しさは?」と尋ねてみると、その子いわく、「キャンプの話し合いでは、吃音でイヤだったこととか、みんなの、吃音への思いを聞ける」。「相手の気持ちを分かれて、うれしい」と。子ども自身が、吃音と正面から向き合うこと、仲間とつながることの価値を認識している。
 担任の先生への怒りを作文にぶつけた小学生もいる。「ゆっくり話して」と言ってくる先生に対し、「ゆっくり言おうとどもるもんはどもるんだから、そういう問題じゃない」。「知らないように知ってるように言うな」と。そうやって言語化できることの強さ。
 私自身、3日間というほんのわずかな間に、子どもへの見方をどんどん塗り替えられる。
 話し合いのときには引き気味で、あまり自分のことをしゃべらなかった子が、劇の練習のときには自分なりの工夫なり表現なりをバンバン入れて、周りの笑いと喝采をかっさらっていったりとかも。こんなふうに、子どもってすごいなあと思わされることの連続だ。それは、普段自分が背負っているものを降ろして、ただただ、人がもつ力の前に謙虚になれるということでもある。
 吃音のキャンプは他の場所でも行われるようになったけれども、こうした関係性をもてるのはなかなかないという。他だと、ことばの教室の教師なりの専門家が準備してプログラムを提供する、という形になりがちだし、成人吃音者が来る(招く)場合でも、「吃音の当事者や先輩の話を聞く」といったプログラムの一部に組み込まれてしまいがちだそう。それはそれでよく分かる。「教師」なり「専門家」なり、というのは、「ちゃんと自分が役に立たないと。何かやってあげないと」と思ってしまうものだから。
 一方、この吃音親子サマーキャンプは、「専門家」が何かを提供するという図式ではない(ことばの教室の先生も参加してるけれど、むしろ、自分が学びにきている気分だろう)。もちろん、支柱としての伊藤伸二さんの存在は大きいが、キャンプそのものに関しては、どもる子どもも親も(時には子どもの兄弟も)スタッフも一緒になって場をつくっていく。
 劇の練習のときのリードとか話し合いの進行&記録とか食事の準備とかシーツの管理とか、スタッフが担う役割はいろいろあるものの、スタッフみんなが同じように担うわけではないし(臨機応変に入れ替わりもするし)、親が担うものもあるし、名前がつくような「役割」ではないけれど、キャンプ卒業生でもある若手スタッフらがいきいきと人前でしゃべったり子どもとかかわったりしてさまざまなタイプの「わが子の将来像」を示すといった、私が決してできない類の「役割」もある。
 そんなふうに、参加者同士が固定的な関係に陥ることなく、一緒につくる。だからこそ、子どものすごさに圧倒されることが可能になるのだろう。自分の背負っているものを降ろすからこそ、純粋に、人のすごさを楽しめるのだろう。そうした時間をもてるのは私にとって貴重で有難いものだし、それは他の参加者にとってもそうなのかもしれないと、思う。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/24

第32回 吃音親子サマーキャンプ開催まで、1週間となりました

 第32回吃音親子サマーキャンプが1週間後に近づいてきました。今年も、関西地方を中心に、遠くは沖縄、鹿児島などの九州地方から、東京、神奈川、埼玉など関東地方から、山口などの中国地方から、参加申し込みが届いています。
 昨年は、吃音親子サマーキャンプの華であり、大事にしている演劇の稽古と上演が前年までの形ではできませんでした。当初は大きな声を出し、歌い、相手に伝わることばを吟味していくプログラムは抜いていたのですが、やはり、少しでも演劇をしたいと急遽小さな劇に取り組みました。みんな、大喜びでした。誰よりもスタッフが大喜びで張り切るのが、僕たちのキャンプの特徴です。
 今年は、全面的にコロナ前の形に戻しての開催です。同年代のグループに分かれての吃音についての話し合い、自分の声やことばに向き合うための演劇の練習と上演、親の学習会など、久しぶりのフルバージョン開催に向け、わくわくしながら準備をしています。
 演劇のためのスタッフの事前レッスンは、7月15・16日、大阪市内のお寺で行いました。そのレッスンに参加したスタッフは、そのときの映像を見ながら、それぞれ自主練習をしています。事情があり、今回、サマーキャンプに参加できない、サマーキャンプ常連スタッフは、演劇の小道具作りを申し出てくれて、サマーキャンプのあの場を想像しながら、せっせと小道具作りに励んでくれています。会場の荒神山自然の家に郵送してくれることになっています。それぞれが、自分の持ち味を出して、サマーキャンプにかかわってくれています。このようなスタッフのおかげで、サマーキャンプは、32年間も続いてきました。
 今年、初めて、事前レッスンに参加したスタッフから、手紙がきました。長くスタッフとして参加してくれている関東地方のことばの教室の担当者です。

 
念願叶って、事前レッスンに参加でき、幸せな2日間でした。帰り際に、坂本さんから「昨日より元気そうだね」と声をかけられました。充実した時間を過ごした満足感が表情や身体にあらわれていたのでしょうね。
 レッスンが始まって、身体を動かしたり声を出したりしたとき、身体は動かないし、声も出ないし、続かないしで、自分がこんなにも固まっていたのだと気づきました。でも、劇の練習を通して、楽しさが増してきて、事前レッスンに参加できてよかった、うれしいという気持ちが広がりました。事前レッスンの場は、サマーキャンプ当日と同じように、ぬくもりが感じられて、いいなと改めて思いました。すてきな機会を設けていただきました。サマーキャンプ本番も楽しみにしています。


 今年の吃音親子サマーキャンプは、初めて参加される方が多いです。昨年、初めて参加したという人も合わせると、全体の7、8割くらいでしょうか。フレッシュなキャンプになりそうです。これまでは、リピーターが多くいて、その中で初参加の方が自然と混じり合って、いつの間にかその人たちがリピーターになっていって…、そうして、サマーキャンプの伝統が受け継がれてきました。コロナ禍のため、空白の3、4年間ができたことがこんな所にも影響しているようです。
 サマーキャンプのもつ伝統は、それを目標としたわけではありませんが、いつのまにか熟成されていったように思います。話し合いのとき、ひとりひとりの語りにしっかり耳を傾けること、話す人は、自分のことばで自分の思いを伝えること、ただ共感するだけでなく、関心をもって聞き、質問してその人の物語の世界を広げていくこと、指示・命令のことばはできるだけ最小限にして、それぞれが時間を守って動くこと、強制はしないが、自主的に自分の課題に取り組むこと、精一杯表現すること、それらのことが自然にできていたように思います。鰻の名店が、伝統のタレをつぎたし、つぎたし、伝統の味を守ってきたようにして、吃音親子サマーキャンプは32年の年月を積み重ねてきたました。小学1年から高校卒業まで連続して参加していた、リピーターが全員卒業し、今年は、ベテランのいない初めてのキャンプになります。吃音親子サマーキャンプの文化を、一から作っていく再スタートの年になりそうです。その新鮮さを楽しみ、ドキドキを味わいながら、サマーキャンプの2泊3日を過ごしたいと思います。また、報告します。このブログを読んでくださるみなさんと、素敵な時間を共有できることを願って…。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/11

吃音親子サマーキャンプ、ご一緒しましょう

 吃音親子サマーキャンプの劇のための事前レッスンから早1週間が過ぎました。子どもたちとの楽しい時間を想像しながら、実は自分たちが一番楽しんでいたスタッフたちでした。
 この事前レッスンは、大阪市内のお寺で行うので、大阪近郊の大阪吃音教室の仲間が中心だったのですが、サマーキャンプのときに、「事前レッスンはおもしろいよ」、「サマーキャンプは事前レッスンから始まる」などと言うものですから、最近は、遠い所からもこの事前レッスンに参加する人も増えてきました。
 今回、初めて事前レッスンに参加した人が話していた感想を紹介します。

・初めて台詞のある役にチャレンジした。私は普段、どもっていることが外からは分かりにくい方だ。しかし、演劇の台詞ではとてつもなくどもり、そのどもり方は想像を超えていて、おもしろかった。役を演じることは、とても楽しかった。
 このグループは自分にとって、チャレンジできる場、失敗できる場、多少の恥をかくことができる場。そういう場だから、伸び伸びと楽しむことができたと思う。キャンプでは、私と同じように、初めて台詞のある役にチャレンジする子もいるだろう。一緒に楽しんで、子どもたちのチャレンジを見守りたいと思う。

・事前レッスンが毎回とても盛り上がる、と以前伊藤さんに聞いていたので、ずっと参加したいと思っていました。今回念願が叶ってうれしいです。いざ自分が何かの役を演じるとなると難しかったですが、普段から凝り固まっている自分のイメージを打ち破り、新しいキャラクターを演じることは新鮮で楽しかったです。また参加者のみなさんの表現力の豊かさに感動し、みんなで一つのものを作り上げていくおもしろさを感じました。サマーキャンプ本番では、子どもたちがそれぞれの殻を打ち破って表現できるよう、まずは大人たちがありのままをさらけ出し、全力で楽しむ演技を見せていきたいです。昨年のサマーキャンプに引き続き、スタッフとしての参加は2回目です。初回は緊張が大きかったですが、今年はとにかく楽しくをモットーにがんばりたいと思います。

・事前合宿に初めて参加して、まず感じたのが、お芝居は何度やっても緊張してしまうという点。サマキャンでは子ども、大人スタッフ通算で過去何度もやっていても緊張する。そんな私でもよく見られたいし、他の人が演技しているのを見て、もっとこうしたら良いのにとも僭越ながら思う。とにかく、大人でも緊張するし、どもるし、でも声や身体で表現することが楽しいってことを子どもたちに見てもらって、知ってほしい。そう思います。子どもたちに自分の役がやりたいと思ってもらえるようにがんばります。

 僕たちスタッフが一番盛り上がっているのではないかとさえ思えてきます。
 吃音親子サマーキャンプ、日程は8月18・19・20日、会場は滋賀県彦根市の荒神山自然の家、その他、詳しくは、日本吃音臨床研究会のホームページに掲載しています。一応の締め切りは、開催当日の2週間前の8月4日です。ホームページのサマーキャンプコーナーをぜひ、ご覧ください。わかりにくいことがありましたら、いつでも、お電話ください。
 夜の8時頃がつながりやすいです。072−820−8244 です。
 今年のサマーキャンプは、初参加の人、2回目の参加の人など、フレッシュな顔ぶれです。ぜひ、ご一緒しましょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/07/22

自分らしく生きる

 吃音親子サマーキャンプの、スタッフのための演劇の事前レッスンが終わりました。
 7月末は、愛知県名古屋市で、第10回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会があります。そして、8月18・19・20日は、滋賀県彦根市で第32回吃音親子サマーキャンプです。猛暑が続いている今、「吃音の夏」を満喫しています。
 今日は、「スタタリング・ナウ」2002.5.18 NO.93の巻頭言を紹介します。
 どもる自分を否定せず、どもりながら生きる覚悟をもつ、それが僕にとって、自分らしく生きること、なのでしょう。

 
自分らしく生きる
                    日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 「あなたにとって、自分らしく生きるとはどういうことですか?」
 「自分らしく生きる」がよく使われるようになって久しく、簡単に使ってしまうことばだが、こう改めて問われると、ことばに窮してしまう。
 自分らしいと思っていることが必ずしもそうとは限らない。自分を壊したところから、自分らしさが現れることもある。好きな自分、嫌いな自分、変えたい自分もあるだろう。何が自分らしいのか、自分をみきわめるのはかなり難しいことだと言える。
 吃音に悩んできた人にとって、自分らしく生きるとは、吃音抜きには考えられない。私にとっても、吃音と自分との長い闘いの歴史があった。
 私の吃音は、時期により、場面により、相手によって変化した。調子の大きな波、小さな波もあった。だから、どもらずに話している自分が自分なのか、ひどくどもっている自分が自分なのかがつかめなかった。どもって、立ち往生している、みじめな自分を、自分らしいとは思えない、思いたくない。どもらずに話している自分こそが、自分らしいと思いたかった。どもらずに話せることもあったから、あと一歩で手の届くところにあるように思え、吃音が治ることにあきらめがつかず、いつかは治ると固く信じていた。治るはずのものを受け入れる必要はない。どもっている間は仮の人生で、どもらなくなってからの人生が本来の自分の人生だと思った。仮の自分を、「自分らしく生きている」とは到底思えない。
 今のままの自分が自分らしいのか、変えたい自分、変わった自分が自分らしいのか。揺るがない自分らしさがある一方で、変化していくものもある。
 長い、セルフヘルプグループの活動の歴史の中で、伝えられ続けてきたことばがある。AA(アルコーホリックスアノニマス)など匿名性のグループのミーティングのはじめにみんなで読む、「神よ!私にお与え下さい」ではじまる平安の祈りだ。

  変えられるものは変えていく勇気を。
  変えられないものを受け入れる冷静さを。
  変えられるか変えられないかを見分ける知恵を。

 現実の人生の中で、変えられないものは、それこそ山ほどある。実際には変えられないものを、変えられると思い込んで、変えようと努力するのは、自分自身についての事柄であれば、無駄な努力であるだけでなく、自己否定につながっていく。
 「人は、瞬間瞬間に自分に一番理にかなった行動を無意識のうちにとっている」は、ゲシュタルト・セラピーの考え方だが、そうして生きた歴史が、その人の言動をつくるのだから、そんなに簡単には変わるものではない。人が変わる第一歩は、「あなたはあなたのままでいい」と今の自分がまず肯定されることだろう。その時、「このままの私でいい自分とは何か?」の問いかけが、他人からの強制ではなく、自分自身の叫びとして浮かび上がってくる。もし、現実の自分に満足できず、自分を変えたいと思えば変えていけばよい。しかし、これまで馴染んできた自分を変えるには勇気がいることだ。
 また、ひとりでは、それが変えることができるか、変えられないものかの見分けが難しい。吃音の長い歴史がそれを物語っている。変えられないものだと知る知恵は、同じように変えられると信じて悩んできた人が大勢出会うことで得られるのだろう。セルフヘルプグループの意義のひとつは、この知恵を共有することだ。だから、この平安の祈りは、セルフヘルプグループの中で生き続けたのだろう。
 自分らしく生きるとは?
 自分の中で変えたいと思い、変えられることは、変えていく勇気をもち、無理ない程度に誠実に取り組みを続けること。変えられないものをいつまでも変えようとするのではなく、それを受け入れる冷静さをもつこと。そして、変えることができるかどうかを見分ける知恵をもつこと。
 それは常に自分を発見し、自分をしっかりとみきわめ、それを受け入れていくことだろう。
 今のままの自分も自分らしいし、変わっていく自分もまた自分らしい。(「スタタリング・ナウ」2002.5.18 NO.93)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/07/19
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