私は、元祖、本家、総本山か?


 5月17日に岡山市で開かれた吃音相談会について、ふれない訳にはいかないと思い、ずいぶん前の古い話題になりますが、報告します。
 私は、言友会の創立者であり、長年全国組織の会長をしていましたが、1994年、大阪、神戸の人たちと離脱して新たに「日本吃音臨床研究会」をつくりました。言友会とはまったく関係がなくなったのですが、岡山言友会だけが、毎年私を講師にして「吃音相談会」を開いてくれています。
「言友会を離れた人間を、どうして講師に呼ぶのか」という批判や指摘があったようですが、それでも私を呼び続けて下さることに、とても感謝しています。もう、10年も続いています。そのことが、きっかけかどうかは分かりませんが、以前、名古屋言友会、徳島言友会も、私を呼んで下さいました。なぜ、ありがたいかというと、「治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方」を新しい人にも知って欲しいからです。
 吃音は、依然として謎に包まれ、確実な治療法はありません。しかし、インターネット上では「吃音が治る」の情報が充ち満ちています。それらが、ほとんど効果がないことは、私の開いている吃音ホットラインの電話相談に、たくさんの苦情が寄せられますので、想像がつきます。効果がなくても、「吃音を治したい」との吃る人の思いは切実なものがあります。吃音について、何も知らなかった21歳までの私も「吃音が治らないと、私の人生はない」と、治ることを強く願っていましたので、「治したい」との気持ちはとてもとてもよく分かるのです。
セルフヘルプグループを訪れる人のほとんどは、吃音を治したいと思っていることでしょう。グループのリーダーはその声を無視できません。よほどの信念と確信がないと、新しく来た人の「治したい」との思いに、つい寄り添ってしまうだろうと思います。
 私は、1965年秋に言友会を設立し、ずっと、セルフヘルプグループに関わり、世界大会を開き、たくさんの人との出会ってきました。多くの人の体験を整理し、検討してきました。その中で、治そうとするよりも、吃る事実を認めて、吃音と共に生きる道を探ることが、吃る人の幸せにつながると、大阪吃音教室で多くの人と実践してきました。また、早期に吃る子どもたちがそのことを知ることが幸せにつながると信じて、吃音親子サマーキャンプを19年間つづけてきました。それらの活動を続け、「どう治すかを考えるより、吃音と共に生きる」ことを考えることが大切だという考えは、揺るぎないものになっています。
 それは、21歳までの深い苦しみと、その後、大げさにいえば、命をかけて、「吃音を生きる」道を探ってきた、大勢の吃る人の体験につきあってきた人間だから言えることだと思います。自分一人の経験、少しの活動の中だけでは、熟成しないものだろうと、傲慢かもしれませんが、思っています。
 何事も、原点にあたるのが、あることがらを理解する近道であり、必須のことだろうと思います。私が、「吃音を治すべきだ、治るはずだ」に大きな異議をとなえ、「吃音を治す努力の否定」とまで言い続けてきた、張本人です。多くの批判もありながら、めげることなく、しつこく、「吃音と共に生きる」道を探り、実践を積み重ねてきました。そして、テレビ出演や、新聞、著作などで、発信し続けてきた、「吃音を生きる」主張の原点のような存在です。元祖、本家、総本山とも言うべき存在だと自負しています。
 岡山言友会に、毎年、連続して行っていますので、私はそんなに、目新しい話ができる訳ではありません。結局は、同じ話の繰り返しです。一度聞けばいいと言われればそれまでかもしれません。しかし、世間、一般社会はつねに「吃音を治す・改善する」立場の人が主流です。何もしなければ、つい、その大きな流れに流されてしまうでしょう。それを食い止めるには、その流れに対抗するために先頭に立っている私の、生の声を聞いて、自分たちがしていること、考えて来たことは間違いではないと、確認して下さっているのではないか。そのために、同じ話しかしない人間を10年も、毎年呼び続けて下さっているのではないかと、私は、勝手に思っているのです。

 今年は、27名の参加がありました。その内岡山言友会の会員は12名。15名の新しい人が参加して下さったことになります。今年の特徴は、吃る子どもの親と、ことばの教室の教師の参加が多かったことです。遠く、広島から6名ほど、ことばの教室の教師が来て下さったのはうれしいことでした。また、担任の教師が子どもを支援するためにと、来て下さったのもうれしいことでした。
 今回、初めて参加した成人の人は、近くの喫茶店での懇談会にも参加してくれました。毎回、相談会が終わった後、岡山言友会の会員や相談会の参加者と2時間ほど話すのですが、それもとても楽しみのひとつです。
 そして、私にとっては何よりも嬉しいのは、7人ほどの中心メンバーが必ず顔を揃えてくれることです。何か、一年に一度の同窓会のような雰囲気になることです。信頼し会える、戦友と再会し、吃音について、とことん話し合いができるのは、私の無上の喜びでもあります。私は吃音が大好きなのです。吃音について話したり、話し合うことがだいすきなのです。だから、吃る人のセルフヘルプグループの活動を43年もつづけられるのでしょう。
 ありがたい出会いに感謝しているのです。


  2009年7月1日            伊藤伸二