キーワード 自己概念・傾聴・感情の適切な処理、アサーション・自己開示  


 毎年、春休みに出講している、ある専門学校の6日間の講義がはじまりました。
長年行っているところですか、さて、今年はどんな学生と出会えるのか、やはり期待と不安で緊張します。心地よい緊張でもあります。
 私は例によってノートもメモも用意しません。頭にそのときにうかんだことをそのままに話します。だから、どんな出始めのことばになるのか、見当がつきません。いまから思えば、落語のまくらのようなものです。毎年違うまくらを記録しておけばおもしろかったろうと、ふと思いました。

 少しの自己紹介をしたあと、私がかならず話すことがあります。その年その年で具体的な話の内容はかわりますが、6日間の講義の中でなんどもふれる、キーワードです。
 
 私は、考えたい、学びたいいくつものキーワードを持っています。学生にキーワードを持つことの必要性を話します。たとえば、笑い・ユーモアは私にとって最重要なキーワードです。新聞・雑誌などこのキーワードがあれば必ず切り抜きます。書籍も新聞などで紹介された本は必ず買いますし、書店周りをしていても、このキーワードがの本は必ず買います。そうして集まった本が、吃音ショートコースの、笑いとユーモアのワークシヨツプの時、会場に並べてみたら、100冊ほどあったのには驚いたものでした。専門学校で講義にあたっての、キーワードは、よりよいコミュニケーションの5つの要素です。これについては、ずいぶんといろんなところで話してきたなあと思います。

 明確で肯定的な自己概念・傾聴・感情の適切な処理、アサーション・自己開示

 それぞれ、私が吃音に悩んでいたときに、できなかったことばかりです。
 対人援助の職につく人は、常にこの5つを意識し、みがくことが大切です。また、コミュニケーションに困難を抱える人が、この5つができるようになることを援助することが大切だとも強調します。
 吃音の講義なのに、いきなりこのような話でとまどいはあるようですが、一日の角ふりかえりのレポートには、このキーワードについてふれている人が多くいました。こんなうれしい振り返りがありました。

 「この5つが、言語聴覚士を目指す私たちにとって重要だということが分かった気がします。というのも、伊藤さんが5つのキーワードに関する行動をとられているように感じたからです。私たち学生が発表や質問をしている時の態度がとても勉強になりました。そして、自己開示もご自身の吃音の苦悩から、質問に答えてプライベートなことまで、何のためらいもなく話して下さり、大変気持ちが伝わってきました。この人なら、自分のことを話しても大丈夫だと思えました。今回教えて頂いた5つのキーワードとねそれに対応する先生の行動は、今後の私の臨家としてのありかたに、とても参考になりました」


 この後、「吃る人や、吃る子どもはとのような苦しみ、悩み、困難さがあるか」をグループで想像して話し合ってもらい、代表が発表し、そのひとつひとつにコメントしました。さらに、吃音について知りたいことをできるだけ、グループで話し合って出してもらいました。この二つを通して、吃音について、正しく知ってもらいたかったのです。5つのキーワードには例年と比べて力をいれて説明したせいかどうか分かりませんが、吃音に関してだけでなく、プライベートなことへの質問が多かったのは、ある意味嬉しいことでした。質問がない限り、とても講義の中で自分からは話すことはないことばかりだからです。

 私は人に質問をしてもらうのが大好きな人間です。どんな質問にも瞬間にいろんな自分の体験や、これまで出会った吃る人の体験が、整理されたファイルから、瞬時に引き出されるのです。よくまあ、こんなに出てくるものだと、自分で感心をしてしまいます。そのような特技があるから、質問を受けることがとても好きなのです。

 質問は、少なくとも質問をして下さった人にとつては感心のある事柄です。だから思い切って私も話すことができるのです。
 質問に答える形で、吃音についての私の体験や知識を伝えました。

 その結果、吃音に対する考え方が、イメージがこれまでとは全く違ったものになつたと、ほとんどのひとが、振り返っていました。一般的な吃音の書籍や、情報から得る、般的にもつ吃音についてのイメージや考え方と、私の吃音はなものすごく大きな隔たりがあると多くの人が驚いていました。
 
 こうして、ひとりでも、正しい吃音についての知識をもつ、言語聴覚士がふえることを願って、力をこめて残り5日をがんばります。
  2009年3月31日       伊藤伸二