松本進さんによる第10回吃音親子サマーキャンプの報告の最後になりました。今日は、参加した人の感想です。不安や心配をいっぱい抱えて参加した保護者が、同じようにどもる子どもの保護者と出会い、これまでだれにも話せなかったことを話し、泣き、笑い、そして、サマーキャンプが終わった後は、子どもと吃音のことを話せるようになっていきます。ことばの教室の担当者は、初めは教室に来ている子どものためにと思って参加していたのが、いつの間にか自分のことを考えています。保護者も子どもも、そして担当者も、いい経験をしていただいたようです。

  
最初の第一歩
               井本恵子(小3男子の母)

 今回、初めて参加させていただきました。サマーキャンプに参加するまでは、自分の子ども以外にどもっている子どもと会ったことがなく、初めはうちの子と同じという安心感でいっぱいでした。それに、こんなに吃音について時間をかけて考えたことがあったかと思うくらい、お母さん、お父さんたちと話し合い、今まで他人には話せなかった悩み、心配、不安なこと、いっぱいいっぱい話せて興奮していました。
 でも、徐々に、こんなにたくさんの吃音の方がいるのだということは、分かってはいたのですが、吃音は治らないことを再確認しました。正直言って、大人の吃音の方とお会いして、これからずっと吃音とつき合っていかなければいけないということに気づき、なぜか複雑な気持ちになりました。
 サマーキャンプに参加するまで、子どもには「どもる」とか、ことばについてのことを話したことがなく、今まで見ないように、考えないように避けていました。
 サマーキャンプの1週間前、医療センターで、もうそろそろ吃音のこと少しずつ話をしてもいい時期では、と言われ、その日の夜お風呂で「調子はどう?」「何の?」という会話で始まり、「ことばの調子やん」と言うと、「ええよ」と返事が返ってきました。本当は、今、一番調子の悪い時やのにと、わたしは心の中で思っていました。子どもの口から出たことが、「あ、あ、あ、とかなるねん」ということばでした。一瞬、ドキッとしましたが、すかさず「ええねん、そんなんなっても、おかしくないよ」と言いました。そこには、慌てている自分がいました。
 でも、この会話は第1段階で、2段階目はサマーキャンプでの経験。今、子どもとふたりでレポートを書きながら、平気で吃音の話をしています。
 サマーキャンプに行って本当によかったと思っています。いろんなことを考えさせられた3日間でしたが、自分の心の中を整理し、これをきっかけに子どもと前向きに吃音とつき合いながら、良い親子関係でいけたらいいなあと思っています。

   家族で「どもり」の話ができた
                      浜津良子(小6男子の母)

 サマーキャンプは初めてなので参加することで子どもが「どもり」を今まで以上に意識して落ち込むのではないかという不安と、周りにどもるの人がいないのでみんなの中で少しでも何かを感じ、元気になってくれたらいいという期待がありました。
 自然の家に着いて、親は話し合いや学習会をし、子どもたちは野外活動や話し合い、劇の練習がありました。みんなオープンにどもりについて話し合い、語り合い、たくさんのことを学びました。
 私は今まで子どものどもりに悩み続けてきました。子どもに対する接し方が悪くてどもりになったのではないかと、自分を責めて辛い日々を送っていました。しかし、どもりの原因は解明できていないことを知りました。話し合いの中で、私は胸につかえていたものが軽くなっていきました。
 でも、どもりはほとんど治る見込みがないことを知り、いつかは治ると信じていた私にはとてもショックでした。でも、参加された成人のどもる人たちは、前向きに明るく生きておられ感動しました。
 2日目の夜、どもりをテーマにした子どもの作文を見せていただいた時、涙があふれてきました。私が考えていた以上に子どもは学校や外で辛い思いをしていました。また、キャンプで友だちができて来年も参加したいと書いていました。
 キャンプから帰った夜、家族4人で初めてどもりについて話し合いました。中3の兄も友だちから「お前の弟、話し方が変だぞ」と言われ、嫌な思いをしたこと、お父さんやお母さんも気にはしていたけれどわざと子どもの前では話をしてこなかったこと、光介はキャンプで友だちができてうれしかったことや劇の練習のこと、キャンプがあっという間に終わりみんなと別れたくなかったことなど、家族みんなで泣いたり励まし合ったりしました。
 ただ、今でも、どもりということばには抵抗がありますが、今回のサマーキャンプに参加できて本当によかったと思います。


   どもることよりも話の内容に耳を傾けて
                      大原義人(小4男子の父)

 私自身2回目、息子は3回目のサマーキャンプです。1回目のキャンプや大阪吃音教室で、子どものどもりにっいての考え方、接し方については、ある程度理解した中での参加でしたので、それほど気負いもなく、顔見知りの方との再会、話し合い、学習会、劇等新たな発見もありましたが、全体的には楽しめたという印象が強い3日間でした。

 息子の吃音は、2年生の頃(1回目のキャンプの頃)が特にひどく、連発から難発へと進行していたのですが、1回目のキャンプを境に、「どもってもいいんだ」という、心の呪縛を解くkey Wordを得たからなのか、親の対応が変わったからなのか、また日々の生活での言語訓練のせいなのか分かりませんが、随分よくなってきたような気がします。
 はたから見れば、それほど変わってないのかも知れませんが、少なくとも、私は、息子が吃音があるということを忘れてしまうくらい気にならなくなってきました。これは、親が何とかしてやらなきゃいけないんだという、呪縛から解放されたのと、どもることよりも話の内容に耳を傾け、どもりをしっかり受け止めていきさえすれば良いという単純なことが理解できたことが大きかったのだと思います。
 今回、特に印象に残っていますのは、やはり子どもたちの劇です。前回は、ひどくどもっている子どもを見ると、真剣にがんばっている姿勢や劇の内容などは全く目に入らず、どもっていることばかりに気がいってしまっていたのですが、今回は、どもっていることはほとんど気にならず、劇の内容そのものと、子どもたちの真剣な眼差しを鑑賞することができ、また、そういうことができる自分に、とにかく驚きました。
 また、息子に対しては、魔女という一番セリフの多い役に挑戦し、また劇そのものを楽しんでいる様子に成長の一端を感じながらも、その一貫したヘラヘラとした態度は、改めさせねばならない点であるとも感じました。


   自分が変わる、新しく見える
             小島哲子(野田市立岩木小学校ことばの教室)

 ことばの教室担当者である私にとって、キャンプ参加の動機は「通級の子や保護者のために何かを得たい」というものでした。しかし、2回の体験を経て「自分が変わる、新しく見える」ことが本当の参加動機のように思えています。
 キャンプのルール、嫌と思うことはしないでいい。大人も子どもも同じライン。みんな"さん"づけにする。これらがあって、皆がひとりひとりを大事にしていること、温かい目で見ていることが、ハードスケジュールでも嫌にならずにがんばれる要因だと思います。
 わたしは3,4年生の話し合いに加わりました。とても活発で20分もたつと部屋をとび回る子も出てきて、話が中断してしまいます。そして、その子の背景が分からないとどう聞いてよいか分からない自分を発見。
 2日目は作文をもとに話し合いをしました。読んでいる子の回りで遊び出す子もいたけれど、メンバーが変わってもいつも3〜4人は耳をそばだてているというふうでした。昨日、「からかわれてもあまり気にしない」と言った子が「イヤな気持ちになる」と書いてあります。話では言いにくくても書くのは自分の中の作業なので出しやすいのかもしれません。また、他の子の話を聞いたので開かれた面もあると思いました。
 3,4年の話し合いは短時間の間にお互いを知り合えるようなゲームを取り入れるとよかったと思いました。
 自分の吃音について真正面から取り組むことなので、初めての参加の子にはためらいがあるけれど、2回目の子はもうはっきりしたもので「どもっているから来てるんや」と言えます。
 自分の吃音を肯定して認められることはすごいと思いました。このキャンプが子どもたちのよりどころになっているのだと思います。


   ぼくとおなじやなあ
                  井本げん(小学校3年生)
 キャンプで楽しかったことは、じゅんくん、ひろとくん、さときくんとともだちになったのがうれしかった。
 ぼくは、げきで、おおかみの役でした。夜に、げきのれんしゅうをして、しんどかったけど、おおかみのお兄ちゃんたちがいっしょうけんめいれんしゅうしているのを見て、がんばっているなあと思いました。ぼくもがんばろうと思いました。
 げきの本番では、ドキドキしましたが、少しじょうずにできました。ほかの子もいっしょうけんめいでした。
 キャンプへ来て、どもっている子を見て、ぼくと同じやなあと思って、安心しました。また、来年もサマーキャンプに行きたいと思っています。

   心ぱいだったげき
                   寺井じゅん(小学校2年生)
 ぼくは、さいしょ、サマーキャンプに行きたくありませんでした。どうしてかというと、げきができるか、心ぱいだったからです。でも、行ったら楽しかったです。
 夜、先生たちのげきを見ました。それから、ぼくは、エドマンドの役をすることになりました。エドマンドのせりふは少しだったのので、よかったと思いました。
 つぎの日、げきのれんしゅうでした。ぼくは、先生から「木の役もやってください」と言われました。ぼくはたいへんだと思ったけど、できました。れんしゅうはとても楽しかったです。
 そのつぎの日、げきの本番でした。きんちょうしたけど、できました。うれしかったです。
 サマーキャンプのさいしょのともだちは、げんくんとしんぺいくんでした。はなしがたくさんできてうれしかったです。こんどのサマーキャンプも行こうと思います。
「スタタリング・ナウ」NO.62(1999年10月)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/02/05